「個」と「組織」を強くするマインドセット術とコミュニケーション論

2019/12/26
終身雇用制度が機能的に弱くなり、「個」の力がより求められる時代。多様なワークスタイルを許容する風土も根付き、新たなチームワークのかたちも必要になってきた。
働く環境が変化している中、私たちは個として、そしてチームとして何を重視すべきか──。
かつて中古車販売ガリバー(現IDOM)の急成長を創業メンバーとして支え、「個」や「チーム」づくりに造詣が深いアイランドクレア社長の吉田行宏氏と、チーム作りを「desknet’s NEO(デスクネッツ ネオ)」というグループウェアで支えるネオジャパン社長の齋藤晶議氏に話を聞いた。

モチベーションとは違う「マインドセット」向上のススメ

──吉田さんは、中古車販売のガリバーインターナショナル(現IDOM)の立ち上げメンバーとして急成長を支えました。成長の秘訣は何だったのでしょうか。
吉田 私が重点的に力を入れていたものの一つが、人材育成やチームビルディングです。特別なことや何か新しいことをやったわけではないのですが。
 企業が伸びるために重要なのは「人」。人が成長すれば、おのずと組織(企業)も強くなる。これは誰も否定しないと思います。ただ、分かっていたとしても社員の継続的な成長に真剣に向き合う企業は少ないと感じています。
 私は「個」として社員を強くする「成長のマインドセット」づくりと、それを維持するためのチームコミュニケーションに力を入れてきました。
 マインドセットとは、一般的には経験や教育、生まれ持った性質などからつくられる思考を指します。その人が大切にしている信念や心構え、価値基準や判断基準とも言えるでしょう。
 モチベーションと混同されるケースが多いのですが、違います。
 モチベーションは外部からの出来事により起こったうれしいことや悲しいことなど、なんらかの感情的な出来事によってやる気が上下するものであるのに対し、マインドセットは感情に大きく左右されない内発的・主体的な、出来事の捉え方をいいます。
──「成長マインドセット」を確立するために、どんなメッセージを発信したのですか。
吉田 多岐にわたるのですが、まずは「成長に必要なことは何か」を考えてもらうようにしました。たとえば、成長できたかどうかを測るうえでの一つの指標として、成果や結果がありますよね。
 人はなるべく早く、そして簡単に結果を出したいから、能力やスキルにばかり目を向けようとしてしまう。「3日で○○が得られる方法」のような本が売れやすいのはその証しのように感じます。ただ、能力やスキルは成果・結果を出すための一部に過ぎません。
 私は成果や結果を出すためには3つの要素が必要だと思っています。それが、「意識・想い・人生哲学」「ふるまい・習慣・行動」「能力・スキル」です。
 自分のあるべき姿や大切にしたいことを見つめ直す。そして、今の自分のふるまい・習慣・行動でそれらを長所と短所に分けて、伸ばすべき長所と改善すべき短所を書き出してみる。
 最後に、今後身に付けたい能力やスキルを考える。この全体の思考により、成果や結果は、スキルのみを追うことでは得ることができないことを知ることができます。
 つまり、短絡的に結果を考えるのではなく、しっかり自己内省と物事の本質に向き合う。企業の成長でもミッション、ビジョンや顧客価値に向き合うことが重要であるように、個人の成長においても「意識・想い・人生哲学」をベースにした考え方はとても大切です。
 最終的に目立つのは成果や結果ですが、水面下で3つの要素を意識し大きくする努力がない限り、成果・結果は大きくなることはありません。私はこの三角形をアイスバーグ(氷山)と呼んでいます。水面から顔を出す成果や結果は、水面下の目に見えない3階層の上に成り立っていると。
 あるべき姿や大切にしたいことがよく分からないという悩みを抱えている人も多いかも しれませんが、「自分の人生の主役は自分であること」を強く意識してほしいですね。
 当たり前のように思えるかもしれませんが、これができている人って意外と少ないんです。誰かの期待に応えたり、嫌われたくないために行動しているということが結構ある。自分の人生のオーナーシップは自分にあることを再認識すれば、おのずとこの三角形を埋め、大きくすることはできます。
──ガリバーの急成長に合わせて社員も急増しました。チームワークを維持し、「個」としての成長と「チーム」にシナジーをつくるにはどのようなことが必要ですか。
吉田 「アイスバーグの共通言語化」が効果を発揮します。上司と部下、メンバーとチームメンバーそれぞれがアイスバーグの概念を共通言語化することで、個人個人がこれらのマインドセットを常時意識することができ、他者理解や、コミュニケーションが円滑になります。
 私は今、複数企業の組織強化のために人材育成や研修を手がけていますが、Slackを使ってアイスバーグの概念の共有もしています。
 対面、リアルの場でコミュニケーションを取るだけでなく、さまざまなツールも活用する方が得策だと思います。ただ、Slackのようなチャットツールだけでは不十分な点もあると思っています。
 私はコミュニケーションツールを大きくフロー型とストック型に分けて理解しています。
 Slackのようなツールはフロー型。スピーディな情報共有や、素早い意思決定等に効果を発揮しますが、情報の蓄積や整理には多少不向きだと感じます。想いや考えを共有するには、アルバムやリングファイルのように情報を書き加えることができ、いつも目につく棚から取り出せるようなストック型のツールが適していると思います。
 私がガリバー時代から使っているのがグループウェアというツールです。文字通り、グループを強くするためのツールだと思っています。グループウェアには情報を整理し、蓄積していくような機能が豊富で、社内プラットフォームとしても活用することができます。
──グループウェアなら、必要な機能ごとに異なるツールを使うスタイルとは違った効果が期待できるかもしれませんね。
吉田 生産性向上が期待できると思います。グループウェアはガリバー時代から重宝しているツールで、当時はまだ機能が充実しているものが少なかったので自前で作成したこともありました。今は実績のあるグループウェアがたくさんありますね。
 個の成長を支えるためのアイスバーグ、そしてチームを強くするために必要なストック型のコミュニケーションによる情報やマインドセットの共有。シンプルですが、これによって個と組織は格段に強くなります。適切なツールを使って試してもらえればと思います。
吉田氏が推奨したストック型コミュニケーションツール「グループウェア」。この分野に約20年前からフォーカスしているのが、ネオジャパンだ。創業社長で同社のグループウェア「desknet’s NEO(デスクネッツ ネオ)」の生みの親である齋藤晶議氏に、チームビルディングを支えるツールについて話を聞いた。
──Slackなどのチャットツールが定着している中、「グループウェアは必要なの?」というビジネスパーソンも少なからずいると思います。
齋藤 Slack、便利ですよね。気軽にコミュニケーションがとれて、スピーディな連絡には非常に効果を発揮するでしょう。
 その上で、強いグループワーク、チームワークを創り出そうとするなら、別の要素も必要になってきます。
 人々が協力して仕事を進める中で、単純に「会話」をデジタル環境の中で行うだけではなく、その会話を整理して蓄積しておけば業務効率は格段に上がります。
 どこに情報があるか、探すのに多くの時間を費やした経験は誰でもお持ちでしょう。グループウェアは情報の整理と体系立てた管理にたけていますから、まずこの点においてグループウェアの存在価値はあります。
 加えて、チームで仕事をするためには、会話だけでなく、スケジュールや大事な文書を共有したり、承認・決裁を行ったり、さまざまな業務が発生しますよね。
 多くの企業やビジネスパーソンは、それらの業務をそれぞれ個別のツールを活用して行っていたり、一部はアナログで作業していたりする。つまり、バラバラで処理していることが多いと思います。これでは煩雑で手間が多く、生産性が下がってしまいます。
 私たちが目指しているのは、こうしたチームで仕事をするためのあらゆる機能を「One Platform」で提供することです。
 チームビルディングやチームマネジメントにおいて重要なのはコミュニケーションだけだと思われがちですが、それだけではなくチームで仕事をするためのあらゆる業務を、煩雑な作業なくサポートすることだと思っていますので、複数機能を1つのツールで実現することにこだわっています。
 少し話はそれますが、グループウェアという単語は、日本だけの言葉のようで、海外では私たちのような機能を提供しているツールは「コラボレーションツール」と呼ばれています。強いチーム作り、それにはコミュニケーションの先にある「コラボレーション」が必要だと思っています。
──「desknet’s NEO」では、具体的に何ができるのですか。
齋藤 「desknet’s NEO」は初期版では、スケジュール管理・共有機能からスタートしましたが、今ではワークフロー、文書管理、ToDo管理、議事録共有、勤怠管理など26個の機能を標準搭載しています。約20年提供している中で、お客様の細かな要望に応じて一つずつ付け加えてきました。
 たとえば、ある工場の「お昼のお弁当予約を分かりやすくしたい」というニーズから生まれたのが「購買予約」機能です。当時の名前は「お弁当予約」。
 今ではお弁当以外のあらゆるオフィス用品を購入管理できる機能になっています。また、安否確認は東日本大震災の際に非常に役に立ったと喜んでいただいています。
 ワークフローや議事録など一般的な業務プロセスをカバーするだけでなく、こうした「あったら便利だな」という細かな機能を標準搭載しているのは、長年やってきて多くのお客様のフィードバックをもらえているからこそ気づけることであり、当社の強みだと自負しています。
──グループウェアを開発しているベンダーはほかにもいますが、なぜ「desknet’s NEO」は、累計ユーザー数400万人超(2019年6月時点)、20%の成長を維持することができていると分析していますか。
齋藤 簡単に言えば、導入のしやすさとITリテラシーの低い人でも難なく使える「分かりやすさ」です。
 私たちがグループウェアを提供し始めたとき、IBMなど他社もグループウェアを提供していました。ですがどれも高額で、たとえば100人で使うと1000万円くらいかかる。重厚なハードウェアも必要でした。これでは一部の大手企業しか導入できず、裾野が広がっていなかったんですね。
 私はここに着目して、中小企業のお客様でも気軽に試せるように、最初は5ユーザーまでは無料、6人目からお金をもらうモデルで提供したんです。今ではこうした「フリーミアム」な発想は一般化している戦略ですが、その当時はそれを推進している企業はまれだったので、まだグループウェアを使ったことがない企業に徐々に浸透していったんです。
──グループウェア未体験のユーザーが多かったから、「分かりやすさ」も重視したということでしょうか?
齋藤 先ほどお話ししたように、私たちの目指す世界観はすべての企業に円滑なチームワークとコラボレーションを提供すること。ネットサービスのスタートアップのような企業は別かもしれませんが、企業には年齢も経験もそしてITリテラシーも異なるさまざまなメンバーがそろっています。
 多くの企業の複数業務をサポートすることを目指している私たちにとって、「desknet’s NEO」は誰でも使える優しい設計でなければなりません。
 テクノロジーカンパニーとしてAIなど最先端テクノロジーの研究・実装にはもちろん取り組んでいますが、お客様に使ってもらわなければ意味がありませんから、どうやって使ってもらえるようにするかにかなりの力を注いでいるんです。
 使い始めるときに細かな設定をさせない、操作を迷わせないこと、そして、使って楽しいと思わせる工夫に心を砕いています。
 本当にちょっとした工夫なんですが、いつも使ってもらえるように、自分の好みに応じた画面デザインに変更できる種類が豊富だったり、率先してコミュニケーションを取りやすくするチャット機能だったり。
 一つ事例をお話しすると、ある介護施設で「desknet’s NEO」を導入してコミュニケーション活性化を図ってくれているんですが、導入前、その介護施設では離職率が50%もあったと聞いています。それが「desknet’s NEO」を導入したら離職者はほぼゼロになったというんです。
 理由は、「desknet’s NEO」のメッセージ機能。緊張感のあるビジネス環境の中で、ちょっとした気遣いや思いやりをかたちにすることはチームワークを生みます。ただ、それが忙しいとなかなか表現できなかったりする。
 「desknet’s NEO」では、メンバーの誕生月にはそれを知らせる機能があります。そうすると、「おめでとう」と言いやすくなり、コミュニケーションが活性化してチームの雰囲気が良くなることで、それをきっかけに何げないことでも気軽に話せるようになり、メンバー間のエンゲージメントが高まったそうです。
 「こんなささいなことでそんなに効果があるの?」って思われがちですが、コミュニケーションというものは、こうしたささいなやりとりの蓄積なんだと思います。
 そして、その円滑なコミュニケーションがチームを強くする。だから、私たちは、One Platformとしての網羅性とともに、細かな点に気を使えるコミュニケーションインフラも意識しています。
(取材・編集:木村剛士、樫本倫子 執筆:木村剛士、加藤学宏、尾越まり恵 撮影:森カズシゲ、的野弘路 デザイン:小鈴キリカ 作図:大橋智子)