【座談会】もう“レガシー”と言わせない。タケダに浸透する「バリュー」&「グローバリズム」

2019/12/20
馬渕 私がタケダにジョインしたのは2019年1月です。これまで日本企業が経験したことのないような規模でシャイアーを買収したタケダにおいて、私の約20年のグローバル人事としての経験を生かしたいと思ったんです。
 特にタケダは創業から約240年がたつ歴史のある会社ですが、グローバル化が進み、タケダでリーダーシップを取る「タケダ・エグゼクティブチーム」に日本人は2割強しかいません。
 だからこそ、国内でグローバルな環境で活躍できる人材を採用・育成し、タケダ・エグゼクティブチームに日本人を増やすことで貢献したいと考えました。
山中 私は馬渕さんのように他社でのキャリアはないのですが、新卒でタケダに入社して以降、社内転職をするような形でキャリアを築いてきました。
 というのも、製薬会社にMR職で入社すると、その後のキャリアは“ずっとMR”というケースも多い。だけど、タケダの場合は新しいチャレンジができる体制が整っているんですよね。
 だから、MR職で経験を積んだ後、社内の研修制度を活用して海外に渡り、帰国後はまったく違うことにチャレンジしたいと思って、ポートフォリオマネジメントや事業開発を行う部門に異動しました。
 もちろん、最初にMR職を経験したことで、患者さんを深く理解できましたし、その視点を持って他の職種に挑戦したことで、今まで見えなかった世界が見えるようになりました。
 私は日本で働いていますが、海外の同僚と日々メールや電話会議でやり取りすることも日常的にあります。日本にいながらグローバルな環境で仕事をしている、という実感は強くありますね。
馬渕 多彩なキャリアパスですよね。他の会社でキャリアを積もうと思ったことはなかったんですか?
山中 そうですね、他社に行かずともタケダ内で様々なキャリアにチャレンジできたので。
 しかも、新しい挑戦を自由な働き方で実現できるのは、子育て中の私にとってすごくありがたいことでした。
 タケダの自由な働き方は、ここ10年で大きく変わってきました。グローバルカンパニーに舵を切ったことで、様々な国の人たちとのコミュニケーションが増えましたし、一緒に働く人もいろんなバックグラウンドを持つ人たちが集まるようになり、働く場所や時間に縛られない多様な働き方ができるようになりました。
ウィリアム 私がタケダに決めた理由は、約240年の歴史を持つレガシー企業にもかかわらず、まるでスタートアップのように変化し続けていることと、将来の医療のためにしっかりとした価値観を持つ会社だったことです。
 たとえば、どの製薬会社も患者さんを第一に考えるものですが、本当にそれを実行できているかは会社によってレベルが違います。その点、タケダは長期的な戦略で本当に実行している。
 この“長期的に戦略に取る“ことが驚きでした。たとえば、外資系企業であれば3カ月や半年、1年単位で業績を考えがちですが、タケダは3年後、5年後を考えた長期的アプローチをしている。
 現在では2025年、2030年の医療を考えて研究開発や、他社とのコラボレーションなどを進めながら、組織の能力を高めている。それが世界中の製薬会社とはずいぶん違う点で、私にはとても魅力的に感じています。
馬渕 ウィリアムさんが言うように、どの業界でも短いサイクルでカスタマーニーズを捉えて、ビジネスを最大化するという発想がありますよね。
 でもタケダの意思決定は、「タケダイズム(誠実/公正・正直・不屈)」と、それに基づく優先順位(患者さん中心の「Patient」、社会との信頼関係の構築「Trust」、レピュテーションの向上「Reputation」、事業の発展「Business」)から成り立っており、決してブレません。
 これは、マネジメント層から新入社員まで、タケダの全世界・全社員に無意識レベルで浸透しているカルチャーです。入社して国内支店を回って、様々な社員と話をしたときに実感し、本当に驚きました。
ウィリアム 私は、かつて海外の製薬会社に在籍していましたが、そこでは「患者さんファースト」とは言いながらも、結局業績やパフォーマンスが大事にされていました。でもタケダの場合は違った。
 たとえば、別の製薬会社で仕事をしていたとき、会議での発表はだいたい“業績”からスタートします。しかしタケダは、患者のインタビューをまず最初に発表し、タケダが患者さんにどのように貢献するのか、ということを最初に示します。
 他にも、患者さんの課題を解決するソリューションを届けるために、R&D(研究開発)の人が患者さんと会話することもあります。
 患者さんに貢献するためには、疾患のどのような症状が改善してほしいのか、疾患によってどのように生活に支障をきたしているのかなどの情報を徹底して聞かなければならないからです。これはタケダに入社して驚いたことですね。
山中 バリューは、何か行動をするときの判断基準になっています。それが全員の根底にあることは、いろんな部署を経験したことで強く実感しましたし、事業開発で新しいビジネスを考えるときも、それが重要な意思決定の基準になっていました。
 一人の患者さんが困っていることに対して、どのように貢献できるかは、どの部署のどの会議でも当たり前に会話されているし、多様な人が集まった組織の共通認識になっている。これは、タケダの特徴だと思います。
ウィリアム まず、タケダが持つ各国のグローバル拠点と日本とを比較して言えるのは、日本には製造やマーケティング、セールスなどすべての機能がそろっていること。
 普段は仕事で関わりがないようないろんな部署の人と会議で顔を合わせられますし、患者さんのためになるソリューションを考えるために、各国から集まった人たちと会議をすると、それぞれの国からいろんなことを学べます。
 そして、日本で実行できる。例えるなら、まるで“小さな国連会議”に参加しているような感覚があってとても面白いですね。
 また、社内だけでなく、将来の製品開発に向けて病院や政府などとつながってイノベーションに満ちたプロジェクトを推進できるのも、日本のタケダじゃないとできないことと感じています。
馬渕 加えて、日本の本社は、企業カルチャーの発信拠点としてとても重要な場所になっています。バリューは日本でビジネスを続ける中で培ってきたカルチャーだからこそ、他の国で働くよりも深く感じられますし、それを経験した人が海外に行くことで日本企業の文化を世界に広げることができる。
 だからこそ、そんなバリューを体現しながらも、世界を担っていくようなリーダー人材を、“日本”のタケダから輩出したいと考えています。
 そのために、グローバルに活躍できる人材の育成を強化しています。2020年からは、グローバル人材を輩出することを目的とした、新しい採用基準を本格的に導入する予定なんです。
ウィリアム タケダの考えるグローバル人材とはなんでしょう。
馬渕 英語力だけがグローバル人材としての資質とは考えていません。リスクを取れること、組織に頼らないこと、意思疎通としてのコミュニケーションができることです。
 採用ではこうした点を鑑みながら、ゆくゆくは日本からリーダーを輩出していきたいと考えています。
 こうして採用した方には、まずMRとしての経験を積んでいただいてから、本人の希望や実績も考慮してグローバルに羽ばたいていただければ、と。
 人材輩出という点においても、日本という場所がタケダにとって、さらに意味のある重要な拠点にしていきたいのです。
山中 グローバルという視点ですと「メガファーマ」という立場ですが、タケダには日本企業のリーディングカンパニーとしてのポジションもあります。
 リーディングカンパニーだからこそ、国内外の企業や産官学との、業界を超えた様々なコラボレーションを実行していますし、常にそれに対して模索しているので、ビジネスの幅を広げていける土壌がある。
 製薬業界内からも「日本で開発してもらえないか」といった、海外の企業から声がかかるケースがとても多いんですよね。それが他の国にない“タケダジャパン”の面白さで、日本の本社で働く魅力だと思います。
ウィリアム 外資の製薬スタートアップを含め、多くの企業が日本市場に参入したいと思っているし、実際にタケダは200を超える世界中の企業と手を組んでいますからね。
 世界中に、日本の企業に興味を持って、働きたいと思う人はたくさんいます。だけど、実際に飛び込んで慣れるのは大変なこと。タケダは、オランダ出身で日本語を話せないけれど、日本の本社で働きたい私を受け入れてくれた。
馬渕 それは私も実感しました。周りの人をすごくケアしてくれるし、いざというときも誰かが手を伸ばしてくれます。自分一人で踏ん張らないといけないことがなく、毎日助けてもらいながら仕事ができている。
 これも、グローバル企業でありながら、お互いに助け合うという精神性を持った日系企業ならではの魅力かもしれないですね。
(執筆:田村朋美 撮影:依田純子 デザイン:小鈴キリカ 編集:海達亮弥)