どの企業も「柔軟な働き方」を追い求めているが、「そうはいってもやりたいようには働けない…」と感じるビジネスパーソンも多いはず。
実際のところ、従業員の新しい生き方・働き方は、企業の「働き方改革」施策を待っていても始まらない。しかし「手段としての働き方改革」がまだまだ制度として行き届かなくても、私たち働くひとりひとりの心次第で、柔軟に仕事を楽しむことができるのではないか。
本連載では、誰もが今日から実践しようと思える、優しいマインドセットを書籍『CHANGE─未来を変える、これからの働き方─』(谷尻誠〔著〕、エクスナレッジ)より、4回にわたって紹介する。

#1 【谷尻誠】"しつこく考え込む"と、あなたの仕事はもっと楽しくなる【全4回】
#2 【谷尻誠】ビジネスで一番強いのは、「相手の本当の望み」を見抜ける人
#3 【谷尻誠】結果を出すには、「僕にない能力を持っている人」を味方につける

「コミュニケーションが苦手」の処方箋:「励まし上手」になる

仕事の種類に関わらず、対面でもネットを通じてでも、人とコミュニケーションする能力はないよりあったほうがいい。それでも、人と話すことや交流を持つことが苦手だと思っている人は少なくないと思います。
コミュニケーション下手は、ある意味、運動音痴とか方向音痴と同じようにどうしようもないこと。苦手なものはしょうがない。
そんなコミュニケーション下手への処方箋は、励まし上手になることです。どんなに会話やコミュニケーションが下手でも、人を励ますことならハードルも低いはず。
仕事で悩んでいる人がいたら、疲れている様子の人がいたら、元気のない人がいたら、「大丈夫?」「あなたならやれるはず」「元気を出して」と声を掛けてみる。悩んでいる人に解決策を言う必要もないし、アドバイスをする必要もありません。「励まし上手になる」ことを心掛けて過ごせば、苦手なコミュニケーションが少しラクになるはずです。
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ここでもうひとつの処方箋を紹介しましょう。コミュニケーションが苦手な人ではなく、もっとコミュニケーションが上手くなりたい人への処方箋です。
それは「誘い上手になる」こと。コツは誘う目的をはっきりさせることです。誘いを受けてもらえる可能性が高い目的を伝えるといったほうが正確でしょうか。
例えば誰かをごはんに誘いたい時、誘う目的は「僕と」じゃなくて「鮨を」だという点を明確に伝えるのです。「僕とごはんを食べに行こう」だと断られる可能性が高いけれど、「なかなか食べに行けない鮨屋の予約がとれたんだけれど、見栄を張って2席予約しちゃったので、悪いけど人助けだと思っていっしょに行ってくれない?」と言えば、少し可能性が芽生えますよね。
誘い上手になるポイントは、目的の設定にかかっているのです。

頼みベタの処方箋:仕事はスポーツだと考えてみる

人にものを頼むのがヘタ。上手に頼ったり甘えたりできる人がうらやましい...という人の場合、処方箋は2種類あると思います。
ひとつは、甘えたり頼ったりすることイコール、人に迷惑をかけるという意識につながってしまう人の場合。あるいは自分が相手より立場が低くなると考えてしまう人の場合。どちらも弱さを見せられない人ですね。
そういう時は「これはスポーツだ、チームプレーなんだ」と思うようにしたらどうでしょう。自分はディフェンスが得意だからがんばるけど、攻めるのは自分より上手な人がいるからそっちは甘えよう、と思えばいい。スポーツの最終目的は勝つことです。そのためには適材適所、役割分担が大切。プレイヤーそれぞれの力が発揮されるやり方を見つけて生かすことが、強いチームになる必須条件です。自分ひとりがオールラウンドプレイヤーになろうとせず、よりよいチームメイキングに心をくだくべきなのです。
仕事も同じ。よい結果を出すためには自分の弱いところを認めて、上手な人に託す。そのかわり自分ができるところを精一杯頑張ればいい。それだけのことなんです。
頼みベタのもうひとつのパターンは、「頼む」のではなく「指示」してしまう人の場合。「ここをこうしたいんだけれど、こんなふうにやって」と細かく指令を出してしまう。人に任せることができないわけです。
例えば「エベレストに登りたいんだけど、この道をこう歩いて、この日数かけて行くからいっしょに来て」と言われたらつまらないと思いませんか?それよりも、「エベレストに登りたいんだけど、いろんな登り方がある中から、いちばんいい道をいっしょに見つけていこう」と言われたほうが、頼まれた人も楽しく感じます。おおかた登り方が決まっているところに、ただ加わってと言われても心が動きにくいでしょう。
相手のやり方を尊重して、ひとこと抑えた頼み方をしてみる。それだけで「頼む/頼まれる」の関係性がうまくいくはずです。

断りベタの処方箋:まずは自分自身が断る理由に納得する

僕は仕事でも遊びの誘いでも、以前はなかなか断れませんでした。誘ってもらったのに申し訳ないなと思って。特に仕事ならば、せっかく声を掛けてくれたのだから、その人のためになりたいなと考えていました。
でも、それを貫きすぎるとスタッフにも大変な思いをさせるばかり。徹夜続きが当たり前みたいになってしまって、結果的にいいパフォーマンスができなくなる。そのくらいなら、断る時は断って、きちんとスケジュールコントロールをしていかないとダメだなと思うようになりました。
大切なのは「休むことは効率を上げること」と考え、きちんと割り切ること。自分自身がそれに納得していれば、断る時もあれこれ余計な理由をつけず、「スケジュールがキツイので難しい」とすっきり断れます。
断るのがヘタな人は、断ったほうがよいことを心のどこかで納得しきれていないのだと思います。
もちろん、根性論的にガッツリ仕事をすることも人生の一時期には必要です。2〜3年間、やみくもに仕事に向き合ってがむしゃらに働くことで、仕事の向き合い方や自信のようなものが手に入る。それは一生ものの財産です。僕も独立したばかりの時は、寝ても覚めても建築のことを考えていました。
でも例えば海外の設計事務所を見てみると、みんな結構しっかり休んでいるのにパフォーマンスが高い。それはやっぱり「休んでいるから」なんですね。休むことも働くこと。休んでいる時に遊んだり楽しいことを見聞きしたり、旅行に行って新しいものに出合ったり、それは必ず仕事にフィードバックされるんです。
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スケジュール以外の理由で断るのは、「この人といっしょに仕事をしたくない」「この人のために自分の時間を使いたくない」と感じた場合です。これはもうクリアに、ばっさりと「もっといろんな人に会ったほうがいいですよ」と言って断ります。「予算がなくて条件が悪い」とか「次の仕事に広がりそうもない」など、オファーをされた仕事を断る理由は他にもあれこれあるでしょう。
でも「予算がない」は、僕だったら「予算がないのにすごいことができたらいいなあ」と思って受けてみようと思う。世の中のみんなが「お金がない仕事はちょっとツライな」と思って避けるのだったら余計に、僕らがすごいことを実現するチャンスがある。
「この仕事には広がりがないな」というのも同じです。僕らがそう思ったということは、たぶんほかの設計事務所やデザイナーも興味を示さなかったのでしょう。ということは、それはまだ価値化されていない未開拓の地。大化けする可能性だって秘めているんです。だからプロジェクトの内容だけで、断る/断らないの判断はしないですね。
「この人といっしょに仕事をしたくない」だけが僕が仕事を断る大きな理由だと書きましたが、逆もしかりです。信頼できる人だったらどんな条件でもやる。信頼できない人の場合は、どんなに条件がよくなくてもできない。
なぜなら、信頼できない人と仕事をして、万が一プロジェクトの途中でよくないことが起こったら、きっとその人のせいにするからです。「アイツのせいで失敗した」と。でも相手を信頼して始めた仕事ならば、失敗しても「自分の見る目がなかった、目を肥やさないといけないな」という糧にできる。
相手を非難して終わるのか、失敗を糧にできるのか。その違いは大きいと思います。
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ちなみに、自分に頼んでくれたと思っていたけれど、相手にとってみたらほかの人でもいいという場合もありますよね。だからこそ「頼まれたことは必ず引き受けなくてはいけない」と、自分をしばるのはやめたほうがいいかもしれません。
そういう時に僕はわりと、「ほかにも誰かに声を掛けていますか?」と聞いてしまいます。ああ、ほかの人でもいいんだなとわかった時点で「断る率」はぐっと上がる。
そのかわり、「何年でも待ちます、あなたにお願いしたい」と言われたら、これはもう断れなくなっちゃうのですが。
※本連載は今回は最終回です
(バナーデザイン:小鈴キリカ、写真:iStock)
本記事は『CHANGE─未来を変える、これからの働き方─』(谷尻誠〔著〕、エクスナレッジ)の転載である。