私のいちばんの趣味は「即興劇」という演技の一種だ。観客の前で即興で演じると聞くと、とても自分には無理だと思われるかもしれない。しかし私たちはすでに毎日、即興を強いられている。
事実、即興の演技には、職場での有意義なやりとりにも通じる要素が含まれている。
いまの自分のビジネスにおける成功は、即興劇から学んだティップスによって得られたと感じている。実際のところ、グーグルやペプシコ、メットライフ、マッキンゼー・アンド・カンパニーといった企業でも、社員研修に即興劇をとりいれている。
すべての企業が、次のチーム開発イベントに向けて、従業員を即興劇の教室に参加させるべきだと言っているわけではない。これから紹介する4つのシンプルな方法を実践すれば、最も価値ある即興劇のルールを職場にとり入れることができるはずだ。

ルール1:まずは「ノー」をやめて「イエス」を言う

この演劇のルールを聞いたことがある人は多いだろう。たとえば殺人事件のシーンで、1人目の役者が「心配無用。私はFBIだ!」と言ったとき、2人目が「違う。あなたは歯科医だ」と答えたとしたら台無しだ。それ以上シーンが発展しない。
即興劇の役者はまず、共演者がつくり出した現実を受け入れる。職場でのやりとりも、全く同じだ。同僚の視点や同僚にとっての現実を否定することは、協力的でもないし、生産的でもない。
まずは、相手の言葉を受け入れ、そこから話を発展させよう。たとえ賛成できなくても、「同僚にとっての真実」を受け入れる努力をしてほしい。
その一例として、同じ職場で働くジャックとアナのやりとりを紹介しよう。
ジャック:「研修は、3段階の構成にするのが最も効果的だと思う」

アナ:「面白いアイデアね。そうすれば、日常業務から長く離れなくて済むし」

ジャック:「スキルを磨く時間もできる」

アナ:「そうね。そうすれば、学習の機会が増え、会社にとどまる人が増えると思う」
このやりとりでアナは、ジャックのアイデアに必ずしも賛成しているとは限らないが、まずは受け入れ、尊重している。アナはジャックのアイデアを聞き、それについての自分の意見を述べることで、会話を続かせようとしている。

ルール2:「ブロックする人」にならない

即興劇の世界では、誰かが共演者の行動を無視すること、関与を拒むことを「ブロッキング」と呼ぶ。
会議で、誰かが新しいアイデアを口にしたときのことを思い出してほしい。別の誰かが即座に、そのアイデアがうまくいかない理由を話し始めたことはないだろうか? そうしたことが起きると、多くの従業員は、革新的になること自体をためらうようになる。
次に同じような場面に遭遇したら、新しいアイデアをブロックしたいという衝動を抑えるべきだ。まずは、同僚が共有してくれたことを受け入れ、そのアイデアを膨らませることで支持を表明しよう。
もし受け入れられないのであれば、さらに情報を求めてから異議を唱えよう。目的は、どうすればうまくいくかを考え、詳細な計画を作成することだ。

ルール3:競争ではなく、関係を築くために「自分の物語」を使う

役者たちが生き生きした相互関係を築こうとせず、ほかの役者より優位に立とうとすると、即興劇はつまらなくなり、失敗への道を歩み始める。
職場も、舞台と同じだ。人間関係は、1人の主役を引き立たせるものではなく、意見交換を促すものであるべきだ。「職場で最も賢い人物」であることに全力を注いではならない。同僚や顧客とつながることに集中すべきだ。
互いを深く知るほど、コラボレーションはうまくいく。例えば、あなたの家庭が難しい状況にあることを顧客や上司が知っていたら、あなたが遅刻した場合でも、親身になってくれるだろう。
私にはとても信頼できる上司がいるが、昔は彼の下で働く人は「ひどい仕事の振り方をする」と感じていたそうだ。しかし上司は、部下たちと深く知り合うことで、部下たちの意欲をかき立てる方法を学んだ。両者の関係が改善すると、彼らは山積みの仕事を、信頼の証と受け取るようになった。
つまり、上司は部下たちに、このチームは大きな何かを成し遂げられる、と伝えることに成功したのだ。

ルール4:「積極的に聞くこと」を練習しよう

即興劇では、魅力的なシナリオをつくり上げるため、役者は常に、共演者の行動から何かを得ようとしている。説得力のあるシーンをつくるには、全員のせりふ、ジェスチャー、エネルギーが重要だ。せりふを重ねるごとに、シーンは展開し、形になっていく。
職場の会議で誰かが発言しているとき、最高にスマートで重要な言葉を返すことばかり考えてはいけない。そうしたら、あなたのせりふは、あなたのせりふだけになってしまう。
そうではなく、まずは、発された言葉をよく聞き、共有された情報に反応しよう。あなたが最初に考えついた「最高にスマートなアイデア」は、あなたが適切な発言の機会を得たときには、すでに形を変えているかもしれない。
あなたが管理職であれ、新入社員であれ、ビジネスの場では、「その場に集中して存在すること」が極めて重要だ。そうすれば、目の前にいる人の言葉に本気で耳を傾けず、自分が次にどう発言するかばかりを考えている行為は減るだろう。
積極的に傾聴すると、同僚が伝えようとしている事柄の核心に迫ることができる。また、適切な質問を投げ掛け、そうしなければ得られないような情報を得ることができる。
本物が求められる今の時代、職場で求められるのは真正のやりとりだ。そう、この記事では演技について語ってきたわけだが、それでも、大事なのは真正であることなのだ。
職場で表舞台に立ったときは、本物の自分を引き出すためのツールとして、即興劇を思い出してほしい。アイデアを発展させ、有意義な関係を築き、リアルタイムでコラボレートしていくことで、可能なかぎり「最高の自分」になれるはずだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Bob Dusin、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:monkeybusinessimages/iStock)
2019年11月より「Quartz Japan」が立ち上がりました。日本語で届くニュースレターについて詳細はこちらから
© 2019 Quartz Media, Inc.
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.