【松田宣浩】スタメン落ちの瞬間。巨大戦力で勝ち抜く思考

2019/12/1
松田宣浩はなぜ、36歳となった今シーズンも活躍できるのか。「若返っている」と話した前編『世界一のキーマンと、目から鱗の一言』に続く後編は、独自の打撃哲学、「イメージ」と「3年連続のスタメン落ち」について語ってもらった。

試合前に30分「瞑想」をして描く軌道

──歳を重ねてからもさらに成長し続けているとのことですが、強く実感し始めたのはいつぐらいからなのでしょうか。
 数年前ですかね。このころから、バッティングでは試合開始30分前くらいにスイングルームで瞑想をするようになったんですね。目を瞑って、相手ピッチャーを思い浮かべて、その球場で、自分が打席に立つ。
松田宣浩(まつだ・のぶひろ)1983年生まれ、滋賀県出身。中京高校から亜細亜大学を経て、2005年に社会人ドラフト希望枠でソフトバンクに入団。不動の三塁手として5年連続6度のゴールデン・グラブ賞に輝いている。ニックネームは「熱男」。
 それで、全方向にヒットとか、ホームランとかのイメージの線を作るんです。それを始めるようになって格段に良くなりましたね。
──え。
 わからないですよね(笑)。これ、選手たちに説明してもわからないって言われるんですけど……。
──すみません、わかりません(笑)。とはいえこれが先にお話されていた「イメージ」ですか。
 はい。
──例えばピッチャーが楽天の則本(昂大)投手です。球場はヤフオクドーム(来シーズンからペイペイドーム)。バッターが松田選手だとして……。
 全部のいい打球の線を描きます。三遊間のレフト前へのゴロのヒット、ライナーのヒット、レフトオーバー、センター前へのゴロの人、ライナーのヒット、センターオーバー、同じようにライト前、そして左中間、右中間、レフト線、ライト線、レフトスタンドへのホームラン、ホームランテラスへのホームラン、センター……その無数の線を描くんです。
 もちろん、見えないラインですけど、実際に打席に立つといいときはそこに飛んで行ってくれます。
 やっぱり、プロの投手の来たボールを打つって、相当難しいことなんですね。だからイメージ力というか、こうきたときにはあそこに飛ばしたい、こっちに飛ばしたいっていうのを頭で考えていく。ホームランにしていくんですよね。
 ヤフオクだったらあの辺に打ちたいな、っていう見えないボールの通過点を予測するイメージです。
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──それは軌道ですか? 落下地点のようなものですか?
 見えない軌道ですかね。ヒットのラインだけイメージしていれば、そこにボールが乗っかっていく感覚です。
──なるほど……それは打席中でも軌道がイメージされているわけですか?
 ありますね。凡打の軌道は描かないです。ここに打ったらヒットだっていうことを常に意識して。ベンチではそれを常に考えてずーっと待っています。
──もう少し具体的に教えてください。相手投手についてはどのくらい想像されますか。例えば、球種やスピードなども想像する。
 いえ、それはないです。打ったあとのイメージを全部描くんですよ。打ったあとのボールの軌道ですかね。
──で、その打球はその通りにいくわけですか?
 いっぱいいきますよ(笑)。
──今シーズンは139本のヒットを打っています。
 まあ、ヒットゾーンに飛んでるということなので、その意味ではほとんど軌道通りですね。
 だから、凡打というのはヒットゾーンに飛んでいないわけですが、ラインを想像していない。つまり凡打になる、ということですよね。
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──なるほど。
 今回の侍ジャパンでもあまり調子が良くなかったんですけど、国際大会は相手ピッチャーとの対戦経験が少ないですから、イメージが想像しづらい。それでも、ここに飛ばしたいという軌道はずっと描いていましたね。
 何を投げてくるかわからない投手に対応するには、相手の球の軌道を想像するよりは、自分の打球の軌道を想像した方が自分には合っているのかなと思っています。
──それは大事なルーティンに。
 僕にとって欠かせない大事なものですね。
 誰に言われたわけでもないんですけど、イメージすることが大事だな、と思い始めたのが数年前で。それで始めただけなんですけど、僕にはハマりました。
──イメトレをする選手の話はよく聞きます。特にピッチャーの方は自分が抑えたシーンを想像する。よくその反動で言われるのが、いいイメージを想定しすぎると、イメージ通りにいかなかったときに対応できなくなる、そういう感覚はあんまりないですか 。
 それはないですね。バッターって7割が失敗、3割あれば成功。それに限りなく近くするっていうのがバッターだと思っているので。(イメージの)一回の失敗っていうのは全然ね、問題ないんで。
──なるほど。イメージも大事ですし、そうやっていい意味で割り切った部分もあるから歳を重ねても成績が上がって行っているのですね。
 そうですね。現役の14年で考えればやっぱり後半の2015年以降に出せた成績というのは、いい形で成長できているのかなと思えますね。
 やっぱり若いときってそういうことを考えられないですよね。見えたものに対して勝負をかけるだけ、という部分がありますから。

勝負の世界で結果を出すということ

──一方で、昨シーズン、今シーズンと大事な局面、クライマックス・シリーズでスタメンを外れる試合がありました。最後の侍ジャパンの決勝戦も、です。思うところはなかったんでしょうか。
 正直に言えば、去年の日本シリーズ、クライマックス・シリーズで外されたときは、悔しかったし腹が立ちました。これまで経験したことがなかったし、全試合に出たのに、という思いは胸の中にありましたね(143試合に出場し32本塁打、82打点を記録)。
 でも、今年に関してはその経験があったので、納得していました。
──というのは、どうやって納得したのでしょう。
 僕たちは当然、勝負の世界にいます。こういう思いをするのは自分だけじゃない。結果が出なければ他の選手が出る、それだけですよね。去年はなかなか理解できなかったけど、一回経験をしたことで理解できるようになったということです。
──それも成長ですか。
 そうですね。去年がなければ今年、怒っていたと思います。なんで30本打ったのに、全試合出たのに変えられたんだ?ってなっていたはずですからね。
──それで結果を出してしまうホークスも凄いですが。
 ホークスは総合力があって、選手を代えても結果を出せる。それは強みですよね。そういうチームにいるという幸せとだからこそもっと頑張らなきゃいけないという二つの要素があると思いますね。
──そうやって考えられるようになるのはメンタル的にも人間的にもタフにならなければいけないと思います。スタメンを外れる、というのは監督から伝えられるわけですか。
 監督室に呼ばれましたね。「外す」と。
──シンプルに。そこで、「わかりました」となるわけですか。
 はい。それだけです。
──ピリッとした空気にはならないんですか。
 いや、なりますよ。シリアスな感じに。
──そもそもマネージャーから「監督室に」と言われる瞬間に察知するものですか。
 そうですね。
──昨年は、そういうこともわからなかった。
 え? なんで? ってなっていましたね。
──反論とかは……。
 それはしないです。もちろん、胸の内では反論しましたけど(笑)。ただ、外すと決まったら、どうあがいてもスタメンでは出られないので。あくまで自分の中でとどめます。
──どうやってメンタルをリセットするのでしょうか。クライマックス・シリーズも大きな声でチームを鼓舞している姿がありました。
 それはもう、次の試合でチャンスをもらえるまで頑張ろう、と。そういう気持ちにはすぐなれますね。
 もともと、お山の大将で野球をやってきたことがなかったんですよ。バリバリのスーパースターだったこともないですし、フォアザチームが野球人生でしたから。そういう野球人生には感謝ですね。
代名詞となった「熱男」ポーズ。ホームラン後のパフォーマンスは、球場全体が大きな盛り上がりを見せる。こうした姿勢も、自身の野球人生がもたらした。
──でも、そうした姿勢が今回の侍ジャパンでも生きていたのではないでしょうか。アマチュア時代にはベンチでも声を出す姿がよくありますが、プロではあまりありません。それを松田選手はしていましたが、チーム力を底上げしていたように思います。
 別に声を出したからといって打てるわけではないですよね。もちろん数字や給料が上がるわけじゃない。じゃあ何のためか、って言われたら自分のためなんですよ。
 打って、走って、守って、声を出す。周りからも「元気がいい、活発な選手だ」と見られたいと思っていたんです。それをモットーにやってきた。声って結果が出ていないのに出していたら、「何やこいつ」って思われるかもしれない。だから、自分でプレッシャーをかけているんですよね。
──自分のためにやっていることが、結果的にチームのためになる。
 そうです。それこそ侍ジャパンでも決勝でスタメンを外されわけですけど、稲葉監督に「マッチ、ごめん」って言われた。でも、そのときはもう「監督、全然、全然です」「一生懸命、声を出します」って言ったのだけ覚えているんですけど。
 結局、勝ちたいし、世界一になりたかったらできるんですよ。
 だから監督がどうとかではなく、状況がそういう姿に変えてくれるんじゃないかなと思います。
──なるほど。そうした結晶が「世界一」だったんですね。
 はい。だからこそ嬉しかったんです、やっぱりね。
──最後に、プレミア12も盛り上がりは準決勝、決勝こそ満員の球場でしたが、それ以外の試合では空席もありました。これからの野球の代表を盛り上げる必要性もあると思いますが、選手目線ではどう考えますか。
 この答えは難しいですね。もっと代表戦をやるのか、逆に試合を減らしてプレミア感を出すのか……。多すぎても価値は落ちると思いますけど、試合があるだけ関心が集まる可能性もある。例えば、サッカーはシーズン中にも代表選がありますよね。
 これは選手も考えなければいけないですね。
──そうした姿にも期待しつつ、また来年の活躍を楽しみにしております。
 はい、ありがとうございます。
(編集:日野空斗、黒田俊、デザイン:松嶋こよみ、写真:具嶋友紀)