自分を見つめ直して周囲に助けを求めよう
朝起きたら気分が沈んでいて、仕事に向かう途中もなんだか憂鬱…。その原因はもしかしたら、前の晩に子どもやパートナーに八つ当たりした罪悪感かもしれない。あるいは、午前3時に目が覚めて「やることリスト」を思い出してしまったせいかもしれない。
これらは「燃え尽き症候群」の兆候のひとつだ。WHO(世界保健機関)は2019年5月、最新の国際疾病分類で燃え尽き症候群を「職場での慢性的なストレスに起因すると解釈される症候群」と定義した。
これは風邪のように私たちが「かかる」病気ではないし、鬱のような精神的な病でもない。燃え尽き症候群とはつまり、特定の職場環境と個人それぞれの相互作用を表すひとつの現象なのだ。
自分自身を理解すると人生の選択は大きく変わる
心理学者のエレーナ・トゥローニは、燃え尽き症候群について「職場環境とそれが自分に求めるもの、それに自分と仕事との関係の特質が組み合わさった結果」だと指摘する。
彼女が創設したロンドンのチェルシー・サイコロジー・クリニックに通う患者たちが抱える主な問題の一部も、職場のストレスと燃え尽き症候群だ。
「そして仕事との関係は通常、幾つもの層で構成されています。それらの層を解いて考え直す作業自体がつらい場合もあるが、それだけの価値はあります。自分自身を理解すれば、人生をどう生きるかについての選択は大きく変わるのですから」
燃え尽き症候群の兆候は4つのタイミングに現れる
いつ、誰にとっても、仕事はストレスの多いものだ。WHOは燃え尽き症候群について明確に「対処できていない慢性的なストレス」と定義している。その症状として多くの場合、仕事のストレスが私生活にまで浸透し、仕事以外の時間が楽しくなくなったり、生産的ではなくなることがある。
日常生活で注意すべき兆候は4つあるとトゥローニは言う。1つ目は睡眠。睡眠は感情面の健康の「バロメーター」になり得る。睡眠障害には、仕事関連の心配事が原因で寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりする症状が含まれる場合がある。
多くの場合、仕事のストレスが私生活にまで浸透し、仕事以外の時間が楽しくなくなったり、生産的ではなくなったりすることさえある
生活の中で気をつけるべき2つ目の時間帯は早朝だ。目が覚めた時や通勤中に不安を感じたら、それは燃え尽き症候群かもしれない。トゥローニによれば「胃が締めつけられるように痛んだり、起きた時に今日も頑張ろうと思えない」などの形で症状が現れることがある。「仕事に関連することが頭から離れない」こともあるという。
そうした胃の痛みや朝の不安感は、仕事とは関係ないように思えることもあるだろう。私たちは手近なところにある説明やきっかけにしがみつく傾向がある。苛々しているのは部屋が汚かったり、雨が降っていたり、あるいはバスが遅れていたりするせいだと考えるかもしれない。こうした理由は、一度きりなら通用するかもしれない。だが不安感などの感情が日常的なものになってきたら、注意すべきだ。
次は夕方。料理をしたりテレビを見たりして、頭を休めてリラックスしたい時間だ。だがそれが出来ない。メールやスラックのメッセージに返事をしなければならなかったり、あるいは、ほかの仕事を終わらせなければならなかったり。まだ終わっていない仕事のことばかり考えてしまうこともあるかもしれない。
最後に、仕事関連のストレスが向けられる対象になりやすいのが、親しい人と過ごすときだとトゥローニは言う。神経が張り詰めていると、まず怒りっぽくなる。「気持ちが安定せず、困難に対処できるだけの強さを持てない」とトゥローニは言う。そのためにパートナーに普段よりもきつい反応をしたり、子どもの言動に我慢ができなくなったり、自分が最も近い関係にある人々から切り離されたような感覚に陥ったりすることがある。
イギリスの医療関係者保健プログラム(医師やその他の医療従事者のための支援サービス)では、気づかないうちに普段の生活に忍び込んでいる可能性のある経験や言動を明らかにする上で有効な問診のリストを作成した。
燃え尽き症候群を撃退するにはどうすればいい?
その人の直面している状況がどれぐらい深刻かによって、セルフケア、マインドフルネスからセラピーに至るまでのさまざまな対処法を勧めるとトゥローニは言う。
彼女によれば、最初のステップは「マインドフルネスのための短い音源を聴くこと」だという。(オンラインでさまざまな音源が無料で提供されており、「3分間のリラックス」などと検索するといいとトゥローニは言う)。この活動と、ハーブティーを飲むなどの「(リラックスを)促進する」別の活動を組み合わせてもいい。
多くの場合、問題はストレスを抱えているのにその状況を十分に理解できていないことだ。マインドフルネスはものごとの実態を見抜く力を育む助けになり得る。
スケジュールがパンパンでストレスを抱えている人は、勤務時間中に3分間、瞑想の時間を取るのさえためらうかもしれない。だが3分間は決して長い時間ではない。ハーブティーを1杯飲んだって、仕事を怠けていることにはならない。心配事について考えてばかりいるのではなく、マインドフルな時間にするのならば、ちょっと歩くだけでも同じような効果が得られる。
マインドフルネスは心の平穏をもたらす可能性があり、それ自体が目的にもなり得る。だがトゥローニは、マインドフルネスは混乱を振り払ってものごとをはっきりさせる有効なツールにもなると示唆する。「多くの場合、問題はストレスを抱えているのにその状況を十分に理解できていないことだ。マインドフルネスはものごとの実態を見抜く力を育む助けになり得る」と彼女は言う。
気持ちが安定してきたら、それは問題解決に取り掛かるいいタイミングかもしれない。自分に共感してくれる上司の手助けが得られれば理想的だ。問題は、時間が経つにつれて変化してきた役割を自分が管理しきれなくなったことかもしれない。野心から無理をしすぎたことかもしれない。あるいは、特定の問題をめぐって同僚や上司との関係が緊迫したものになってきたことかもしれない。
これらのステップは「セルフケア、問題の評価、さらには自力で、あるいは協力的な従業員の助けを借りて出来る限りの問題解決を試みる努力の組み合わせ」だとトゥローニは言う。
それでも燃え尽き症候群から抜け出せなかったら?
人と仕事の関係はとても複雑な性質を持っていると、トゥローニは架空のクライアントを例に挙げて説明する。この人物は、常に両親から成果を出すよう強く求められて育った。両親にとって、何も成果がないことは到底満足のできる状況ではないのだ。こういう人物が大人になると、きわめて競争の激しい組織の中の、きわめて野心的な職場環境を選ぶことで、無意識に子どもの頃と同じような状況をつくり出してしまう。「これはひどく有害な組み合わせだ。自分が納得していない子どもの頃のトラウマ的な経験を再現し、それに合う職場環境をわざわざ選んでいる」とトゥローニは言う。
そうした状況を助長している根本的な原因は、プロの手助けなしには見つけにくい場合がある。恥ずかしい、という気持ちが邪魔になる可能性があるのだとトゥローニは指摘する。ひとつ障壁になり得るのが、「セラピーが必要だということは、自分が何らかの失敗をしたか、自分に何かおかしなところがあるのだという考え方」だというのだ。エクササイズと栄養が体を健康な状態に維持するのと同じように、セラピーも健康な精神を維持するひとつの方法だと考えればいいのだと彼女は言う。
誰かに助けを求めるのは精神的につらいこともあるし、セラピーも医師も選択肢があまりに多くて混乱することもあるだろうとトゥローニは認める。彼女のオススメは実用的なアプローチだ。まずは異なる複数の問題について、どのようなセラピーが有効かを調べて、色々と試してみるといい。複数のセラピストに会ったり、電話で話をしたりしてみてから、どれにするかを決めるといいだろう。自分に合うと思う人が見つかるまで、じっくり選べばいいのだ。
仕事が嫌い、仕事が大好き、あるいは仕事との関係が複雑──このどれもが、燃え尽き症候群の原因となる慢性的なストレスにつながりかねない。
どうやったら自分が幸せに働くことができるのか。それを考える時間は、どれだけ忙しい日々を過ごそうとも必要だ。
元の記事はこちら(英語)。
(執筆:Cassie Werber、翻訳:森美歩、写真:azatvaleev/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.