【鍛錬可能】ビジュアライズは、ロジック8割センスが2割

2019/11/27
スティーブ・ジョブズに端を発するテキストを極力廃したワンビジュアル・ワンメッセージのスライドや、ここ数年で激増したインフォグラフィックなど、ビジネスの場面でビジュアライズの重要性が増している。

NewsPicks Studiosは、2014年、インフォグラフィック・エディターとしてNewsPicksにジョインし、2019年からはチーフ・ソーシャル・エディターも兼任するNewsPicksの「ビジュアライズ」のリーダー、櫻田潤にインタビュー。

櫻田のキャリアをベースに、ビジネスの世界でインフォグラフィックをはじめとしたビジュアライズが盛んになっている背景と、そのスキルの構造およびトレーニング方法について話を聴いた。

ねっからの「まとめ」フェチ

──櫻田さんは「インフォグラフィック」ということばが日本に浸透する以前、2010年頃からサイト「ビジュアルシンキング」(現在も更新中)を運営されています。もともと、要素をまとめてビジュアルにするのが得意だった?
東京生まれ。学習院大学経済学部卒。2010年に企業で働きながら、個人サイト『ビジュアルシンキング』を立ち上げ、インフォグラフィックに関する情報発信と制作を開始。2014年にインフォグラフィック・エディターとして、NewsPicksに参画。インフォグラフィックを用いた記事の編集・デザインを担当。2019年より、チーフ・ソーシャル・エディターも兼任。個人では2018年より、コミュニティ『ビジュアルシンキングラボ』を主宰。著書に『たのしいインフォグラフィック入門』『図で考える。シンプルになる。』ほか。最新刊『たのしいスケッチノート』では手描きの効用と手法を丁寧に解説している。
櫻田 得意かはともかく、好きではありました。これはもうフェチといっていい域で(笑)。たとえばいまは、趣味のサッカープレミアムリーグを観ていてもこのようにまとめてしまいます。
 映画なんかもそうで、すぐにこうしてノートに書きます。これは『イエスタデイ』という映画を観たときのものです。印象的なシーンをセリフといっしょにイラスト化したり、チラシからいいコピーを抜き出したりしています。
 学生のときから大事なところを抜き出して、わかりやすくまとめるのが好きで。テストの時期は重宝されましたね。冗談抜きに、図書館にいったら誰もが僕のノートの写しを使っている状況でした。この手描きでまとめる作業が、自分のビジュアライズの原点です。

「ドラッカーでバズった」のがはじまり

──ずっとデザイン畑のキャリアですか?
 それがぜんぜん違って。経営学部を出て、プログラマーになったところから社会人生活がはじまりました。何かをノートにまとめたり、絵を描いたりいはずっとやっていてデザインに興味もありましたが、「作品」と呼べるようなものではなかったので、面接などで見せる機会もなく。
 その後30歳を過ぎたあたりで、Webデザイナーに転向しました。
──未経験から?
 独学でサイト制作はやってたんです。アドビのWeb制作パッケージみたいなのを買って。そこにはPhotoshopやDreamweaverなんかが入っていたと思います。自分の好きなグラフィックもこのツールで作られているんだと思うとうれしかったですね。新しいおもちゃを手に入れたような高揚感がありました。
──使用感はどうでしたか?
 Web系のことがやりたい時はDreamweaverとFlash、グラフィック系のことをしたい時はPhotoshopと、自分のモードに応じてツールが用意されているのがよかったです。
──サイトを立ち上げられます。
 2010年ごろに「ビジュアルシンキング」という自分のサイトを立ち上げて、そこに載せたドラッカーのまとめがいまでいう「バズ」を起こしました。はじめは図解に過ぎなかったのですが、徐々にそれを進化させてインフォグラフィックをつくるようになり、『たのしいインフォグラフィック入門』という本を書きました。これを読んだ、当時NewsPicks編集長だった佐々木(紀彦)さんから連絡があり、インフォグラフィックエディターとしてNewsPicksに合流したという流れです。

ビジュアライズは、ロジック8割センスが2割

──わかりやすく楽しいイラストを描いたり、美しいプレゼン資料を作ったりといったビジネスにおけるビジュアライズのスキル。これは何で構成されると思いますか?
 ロジックが8割、センスが2割です。そしていずれも、トレーニングによって後天的に身につけることが可能なスキルだと考えています。
──ロジックとは?
 情報の関係の把握と、それをビジュアル化するパターンのストックです。ビジネスにおける図やイラストって、すべて「関係」を示していますよね? AとBは重なりあうところがあるのか、それとも階層構造なのか。前者ならベン図を使いますし、後者ならピラミッドで描くのがわかりやすい。考え抜けば必ずいずれかのパターンに行き着くはずなので、まずはストックを増やすことが大切です。ロジックには良し悪しがあり、正解があります。
──センスは?
 センスには正解がありません。良し悪しはなく、代わりに好き嫌いがある。じぶんの「好き」の集積がセンスです。「なんでそれがいいと思うの?」と聴かれたときに答えられるのがロジックの部分で、説明できないもの、むしろ説明できちゃいけないものがセンスだと考えています。俗にいう「センスが悪い」というのは、好き嫌いがはっきりしていない状態を指すのではないでしょうか。
──どうやって鍛える?
 たとえばいま、隔週で必ず美術館に行き、展示を見ることを習慣にしています。同じ展示を2周するのが常です。1周目は説明書きなどを敢えて読まず、直感だけで好きな作品を10点メモします。2周目はその10点の共通点を考えます。色のときもあるし、構図のときもありますね。そのうえでさらにベスト3を決めることもあります。そうやって自分の「好き」を研ぎ澄ましていくイメージです。

手描きと動画は同じ

──インフォグラフィックの定着をはじめ、ビジネスの分野でビジュアライズへの注目度が増しているのはなぜでしょうか?
 情報の過剰供給と文脈の複雑化によるものだと思っています。たとえばトランプ大統領の話ひとつとっても、中東の状況や、アメリカ国内の人種問題についても理解が必要で、しかもその情報が複数の記事や書籍、ときには動画と、バラバラのチャネルで展開されています。こうした、細切れかつ複雑な情報を受け取ることへの疲れが、インフォグラフィックをはじめとしたビジュアルの需要に転化しているのではないでしょうか。
──今後もこの流れは続く?
 そうでもないと思います。今後はARやVRの分野に需要が出てくると考えているのですが、そうなると必要なのは問い合わせに対してインタラクティブに応えるビジュアル。
 AとBってどうなってるんですかと言われたときにその関係性を、さっき言ったことと逆ですが、小分けにして図示することが求められるのではないかと。しかも、自動生成が増えていくでしょうね。「ロジック8割」のところでお話した通り、パターンは決まっているので。
──文脈を作って、ストーリーで語るようなビジュアライズは減っていくのでしょうか?
 そうじゃないかと。ただ、僕らの仕事がなくなるかというとそうではなくて。自動生成のものが増えたとき、改めて手描きにスポットライトがあたると思っています。広告なんかもそうですけど、作り込まれたものはだんだんと受け入れられなくなっている。
 手描きって、すごく人格が出るんですよね。巧拙を超えた魅力があって、それは僕からすると、動画や音声コンテンツの台頭と同じ流れにある。グラフィックにも、個人の強い個性が求められるようになっていくのではないでしょうか。
──自動でできるところは、AIをはじめとした技術に任せていくと。
 そうですね。まさに僕が今後、アドビに期待しているところです。AIカンパニーとしてのアドビには、多大な可能性を感じます。画像データに関して、作成経過のデータや、広告効果との連動データを持っている。これは、GoogleやFacebookにもない、アドビ独自のデータです。これを使った、アドビならではの機能・サービスの誕生がたのしみです。
 AIによる自動化が進めば、これまで抵抗があった人も気軽にビジュアライズができるようになります。誰でもクリエイターになれる状況をライバル増と歓迎しない人もいるかもしれませんが、僕はそうは思いません。
 どんどん自動化できるところは自動化して、本来、時間をかけてこだわりたいところに時間をかけれるようになる未来は、多くのクリエイターにとってはもちろん、ビジュアライズをビジネスに活用するビジネスマンにとっても、うれしいことだと思いますね。
(撮影:吉屋亮、執筆・編集:株式会社ツドイ、デザイン:松嶋こよみ)
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