問題は「シャドーIT」だけではない

職場は進化しており、ますます多くのコラボレーションツールが企業に導入されている。それによって多くの人が自分のやり方で仕事をし、生産的かつ組織とつながっていると感じることができている。それは、人間中心の職場の基盤だ。
しかし、IT部門のリーダーが従業員の望むワークスタイルやテクノロジーに関するニーズの変化に応えることができなければ、従業員は不満を覚えたり、ないがしろにされていると感じたりする。結果、士気の低下やバーンアウト(燃え尽き)、業務の非効率化、離職につながってしまう。
従業員は無視されていると感じると、自ら対策を講じて「シャドーIT」、つまり承認されていないテクノロジーを業務に使用することが少なくない。それは、フィッシングやランサムウェア攻撃など重大なセキュリティ脅威を招き、知的財産や多額の金銭、社会的信頼などを失うことになりかねない。
セキュリティ会社エントラスト・データカードが新たに発表した調査によると、IT部門の管理体制が不十分だと、セキュリティだけでなく従業員の満足度と生産性にも影響を及ぼすことが分かった。
調査では、経営幹部からジュニアアナリストまでIT部門で働く1000人を対象にシャドーITの経験について聞いた。そして、セキュリティ以外の脅威にもつながる、彼らとリーダーとの間の溝が明らかになった。
IT部門のリーダーが従業員の希望するテクノロジーの使用を認めないことで組織に生じるリスクについて、エントラスト・データカードの最高情報セキュリティ責任者(CISO)、マーク・ルシーに話を聞いた。危険度の高い7つリスクを紹介したい。

1. 生産性が急激に低下する

リーダーにとって手綱を緩めるのは難しいかもしれないが、従業員は可能な限り最も効率的な方法で仕事をさせてもらえると、権限を与えられていると感じる。そして、効率的な働き方は人によって異なる。
リモートワークという人もいれば、アプリやデバイスを介して作業することという人もいる。実際、自分のワークスタイルを選択し、希望するツールを使用する自由が与えられると、従業員の生産性は向上する(調査では97%がそう答えている)。
課題は、従業員の希望と、セキュリティおよびリスク管理のバランスを取ることだ。従業員の生産性と満足度を向上させるものなら、リーダーは上層部と協力してこのバランスを取り、実行可能な選択肢として設けるべきだとルシーは説く。

2. 従業員エンゲージメントが低下する

従業員のエンゲージメントが低下すると、やる気や協調性の欠如、バーンアウトにつながる。さらに、いったん低下したエンゲージメントを向上させるには、個人的な要因と職業的な要因の両方により、厄介で時間がかかる可能性がある。
ただ、シンプルな解決策が1つある。調査では、自分が好むテクノロジーの使用が認められれば、仕事に対するエンゲージメントが高まると96%が答えている。

3. 協力が減り、孤立が増す

クラウドベースのアプリは私たちの働き方を変えた。私たちをデスクから解放し、リモートワークの革命を起こした。それらがなければチーム間の共同作業が制限され、リモートワーカーの孤立が助長される。そして、私たちが未来の働き方に向かうのを阻害してしまう。
新しいツールはリーダーを圧倒するほど多数存在するが、排除することは解決策ではない。それどころか、排除すればシャドーITの問題に拍車をかける恐れがある。新しいツールの使用を制限もしくは禁止すれば、従業員が規則に反する方法でそれを使用することになりかねない。
新しいツールを無視するのではなく、それについての提案を従業員が容易に行える明確な手段を設けるようと、ルシーはアドバイスする。そうすれば、従業員が提案したツールを承認するプロセスができるだろう。

4. 従業員は「無視されている」と感じ、不満を募らせる

従業員からのフィードバックを受け入れているということと、それを実行することは別問題だ。調査では、新しいテクノロジーに対するすべてのリクエストを実行している企業のIT部門はわずか12%だった。こうした状況では、従業員は無視されていると感じ、不満を募らせる。
従業員のリクエストに適時に対処することにより(リクエストを受け取ったと知らせることもその1つだ)、彼らの提案は評価され、真剣に受け止められているという認識を高めることができる。

5. 忠誠心が欠如する

IT部門で働く人の93%は、ワークスタイルを選び、希望するツールを使用する自由を与えられると、長期的に会社に忠実になると答えている。
それが与えられないと、従業員は自分のスキルを発揮できる別の場所を見つけるかもしれない。今日の雇用環境では、自由を与えることが従業員の定着につながる。リーダーは、従業員が最適なツールを選択できるようにする必要がある。
一方で、セキュリティとコンプライアンスの観点から、従業員は求めるものすべてを手にすることはできないだろう。結局のところ、従業員はITを活用して生産性を高める会社に残るはずだ。

6. 社内に対立が起きる

たいていの従業員は柔軟性を重視しており、リーダーがマイクロマネジメントすると不和が生じる。経営陣に方針を見直す姿勢が感じられない場合は特にそうだ。
ITのマネジメントに関しては、そのやり方に問題があるとIT部門と他部門の間に中程度から重度の対立を引き起こすと、従業員の約半数(46%)が答えている。

7. リーダーに対する信頼の低下や恐れが生じる

IT分野で働く人の5人に1人は、他人をトラブルに巻き込みたくないという理由で、シャドーITの懸念について発言することに気まずさを感じている。従業員が規則違反を2回しただけでも、その懲罰で最も多いのが解雇であることを考えると、それも納得だ。
この調査結果が示唆するのは、厳罰は恐怖を生んでセキュリティ目標を損ない、また従業員はリーダーを信頼するのではなく恐れるべきという考えを強めてしまうということだ。
シャドーITの懸念について発言することに気まずさを感じないと答えた80%の人は、大半がその理由にリーダーが発言を歓迎していることを挙げた。
ルシーはリーダーに対し、従業員から潜在的なセキュリティ上の懸念を告げらたら、過剰に反応せず、議論して、全従業員に役立つリスクベースの解決策を見つけるようアドバイスする。そうすれば、従業員は自分や他人への影響を恐れずに問題を上司に申告できると感じるはずだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Marcel Schwantes/Founder and Chief Human Officer, Leadership From the Core、翻訳:中丸碧、写真:shapecharge/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.