[名古屋市 5日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は5日、名古屋市で開催された金融経済懇談会であいさつし、新たなフォワードガイダンスを導入した背景について「政策金利について下方バイアスがあることを明確にした」と説明した。ただ「追加緩和手段を政策金利の引き下げに限定したわけではない」とも付け加えた。

日銀は10月30─31日の金融政策決定会合で新たなフォワードガイダンスを導入。具体的には、これまでの「当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在の極めて低い長短金利の水準を維持する」を、「物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれる恐れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定」に変更。「現在の長短金利の水準を下回る」という文言を新たに追加することで、政策金利を引き下げる可能性があることを明記した。

黒田総裁は新たなフォワードガイダンスのポイントについて、1)フォワードガイダンスを「物価安定の目標」に向けたモメンタムと明確に関連付けた、2)緩和方向を意識して政策運営を行うというスタンスを政策金利のフォワードガイダンスにも反映させた──と説明。ただ、緩和方向は意識するものの、「追加緩和手段を政策金利の引き下げに限定したわけではない」とも述べた。

追加緩和の手段については「政策金利の引き下げに加えて、資産買い入れの拡大やマネタリーベースの拡大ペースの加速など、その時々の経済・物価・金融情勢次第でさまざまな対応がある」と従来の説明を繰り返し、「今後も、さまざまなリスクを注意深く点検しつつ、経済・物価・金融情勢を踏まえ、予断を持つことなく、適切な政策運営を行っていく」と強調した。

<海外経済回復は半年後ずれ>

黒田総裁は、海外経済の持ち直し時期について「これまでの想定より半年程度後ずれする」との見通しを示した。ただ「この先、一段と減速するとはみていない」とも指摘。「総じてみれば緩やかに成長していく」との見方を維持した。

日本経済についても「当面、海外経済の減速の影響が続くものの、国内需要への波及は限定的となり、2021年度までの見通し期間を通じて、景気の拡大基調が続く」との基本シナリオを維持したが、「海外経済の動向を中心に下振れリスクが大きい状況は変わっていない」とも付け加えた。

物価に関しては「需給ギャップがプラスの状態を続けることや予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていく」との見通しを繰り返す一方で、「下振れリスクの方が大きく、引き続き、物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれる恐れに注意が必要な情勢にある」と警戒感も示した。

<超長期金利の過度な低下注意>

黒田総裁は地元経済界との質疑応答で「長期・超長期金利の過度な低下は、保険や年金などの運用利回りに影響を及ぼし得ることに注意が必要だ」と述べ、長期・超長期金利の低下をあらためてけん制した。

為替については「経済や金融のファンダメンタルズを安定して推移することが望ましい」として、「為替相場をはじめ、国際金融市場の動向が日本経済・物価に与える影響について引き続き十分目を凝らしてみていきたい」と語った。

一方、金融システムに関しては「金融機関は資本と流動性の両面で相応の耐性を備えており、全体として日本の金融システムは安定性を維持している」との見方を維持した。

*内容を追加しました。

(志田義寧 編集:青山敦子)