クリエイティブ業界にはまだまだ課題が山積

この20年間にわたり、クリエイティブ業界が様々な問題に取り組んできた様子を私自身のキャリアを通じて見てきた。例えば、多様性とインクルージョン(多様性の尊重、包括性)、公正さの向上といったものだ。そして長年の取り組みから、多くの変化がなされたと考えている。
マーケティングやマスコミ・広告の各業界ではいま、こうした問題についての認識が確実に高まっている。雇用する側は、よりオープンな姿勢で問題に対処しており、従業員たちも、以前よりエンパワメントを得たという感覚を持っている。
しかし実際には、まだまだ問題は山積みだ。あるアメリカの研究からは、クリエイティブ業界で働く88%は白人であり、その割合は昔から変わっていないことが明らかになっている。世界的な代理店では、女性がリーダーやマネジメントを務める割合は全体の3分の1に満たない。
とりわけPR業界はきわめて同質的な傾向にあり、働く人の10人に9人が白人だ。また、PR職に就く人たちのうち女性は3分の2を占めるが、彼女たちが働くPR会社の70%以上は男性が経営している。
多様性に関するこうした数字は、問題のごく一部を示すだけだ。インクルージョンを推進する取り組みも効果が上がっているとは言えない。

注目を集めるようになってきた「多様性」を求める声

問題を論じる声が大きくなってきたとはいえ、私に言わせれば、企業がそうした取り組みに関心を持つのは、大きな見返りが得られる場合や、自社に関する否定的な事柄が暴露されるのを出し抜こうとするときだけということが多い。
注目されていなくとも、従業員に長期的な変化をもたらそうと熱心に取り組んでいる企業は、実際にはわずかだ。
より多様性があり、インクルーシブで公正さのある企業を本気でつくりたいのであれば、たった一度きりの事後対応的な取り組みでは不十分だ。日頃から少しずつ、かつ積極的な行動を心がけてこそ、状況を一変させ、今後もずっと続いていく文化的なシフトを起こすことができる。
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が実施した調査では、マイノリティのバックグラウンドを持つ従業員の圧倒的多数が、「洗練された新たな取り組みを始めるより、蔓延する日常的な偏見に立ち向かう雇用主や同僚が増えるほうが大事だ」と答えている。
しかし一企業に勤めるひとり、しかも重要な地位についているわけでもない人間が、それだけの違いを本当にもたらすことができるのだろうか。
私は大声で、「できる」と叫びたい。
そこで、企業内でいますぐに誰でも取り組むことができる、多様性とインクルージョン、公正さの向上に向けた手段を紹介しよう。最初は少数の動きであっても、いずれは大きな流れを起せることを忘れないでほしい。

1.ミーティングではちゃんと発言する

多様性と内包性、公正さの向上を目指した、あらゆるかたちや規模の取り組みは、誰しもに理解されやすいものではない。新しい取り組みはそれについて話し合う人数が多ければ多いほど、ミーティングの場で壁にぶつかることが多い。
チームで毎日行う定例や、大勢のクライアントを前にしたプレゼンテーションなど、ミーティングの機会は数多くあることだろう。そうした場で、公に自分の意見を聞いてもらい、現状について疑問を投げかけるのだ。
週に1度の部署ミーティングで発言するなんて取るに足らない行為だと思えるかもしれない。しかし、そうした小さな行動が積み重なってこそ、会社規模の大きな変化が生まれる。
同僚のすべてが発言できる機会を確保するとともに、発言の多すぎる人や、他人の話に割り込む人を抑制することで、周囲の人たちの働き方を変えられるはずだ。

2.適切な人に、適切な評価を与える

マイノリティの人の働きをきちんと評価することは重要だ。それと同時に、誰かの仕事が、多様性や内包性、公正さという面で不十分である場合には、疑問を呈することも大事なことだ。
チームの進捗状況を確認する機会や、クライアントとの電話を聞く機会が次に訪れたら、その働きがしばしば見過ごされてしまうチームメンバーに対して、賛辞や励ましの言葉をかけよう。面と向かっての会話ができない場合でも、チャットアプリ「スラック」やメールでそうするだけでも違いはある。そうした行為を習慣化すれば、全員にとっての基準となっていくはずだ。

3.チームのメンバー構成を見直す

多様性とインクルージョン、公正さが看過されていると私が最も頻繁に感じるのが、チームやグループのメンバーの選び方だ。そうした状況こそが、部署のみならず企業全体における不公平感を増幅し、長期的な問題を発生させている。
新しいプロジェクトや計画、クライアントのためにメンバーを集めることになったら、しかるべき人材がそろっているかどうか、自問してほしい。そうしたチームに、必ず選ばれているのは誰か。逆に、一貫して除外されているのは誰か。
こうした問いに対する答えをできるだけ早く見つけ、活躍の場が十分に与えられていない、マイノリティに属するメンバーをバックアップすれば、本当の意味での変化をより迅速に起こすことができる。ほかの人に対しても、同様の行動を起こすよう促せるようになる。

4.会社の上司や幹部に対して声を上げる

上司との1on1や、飲み会で幹部に問題提起するときなど、私的ならびに公式の場で改善を求めて上層部に訴えることが重要だ。
多様性とインクルージョン、公正さの向上を目指した取り組みは、説明責任を問う場が発端になることが多い。とはいえ、従業員たちが力を合わせて努力しない限り、その目標を達成するのは困難だ。
これまでも述べてきたとおり、こうした議論は、たったひとつの大規模な取り組みがあって初めて起きるというものではない。日常的に、改善の余地がある状況に気がついたときに声を上げるだけでも、変化を起こすことができる。
次に上司が無神経な発言をしたときや、特定のメンバーの考えに耳を貸そうとしない場面を見かけたときは、意見を述べて、解決策を提案しよう。

5.リーダーとしての立場を良い方向に活かす

新米マネージャーでも、経営幹部でも、組織をリードする立場にあるのなら、積極的に模範を示してチームを導こう。
会社がより良い場になるように、誰もが恐縮して口にしない質問でも、尋ねてみよう。多様性を仕事のうえで優先している人を積極的に評価し、優先しない従業員とは話をしよう。
また、自分自身に偏見がないか、改善できる部分はないかをじっくり考えてみてほしい。
仕事の場におけるほかの優先事項が、こうした努力の障害になっていると感じたら、思い出してほしい。自分がやらなければ誰がやるのだ、と。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jennifer Risi、翻訳:遠藤康子/ガリレオ、写真:Rawpixel/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.