【北野唯我×ROXX中嶋】履歴書と面接だけで「逸材」を見抜けるか?

2019/10/29

面接の正解がわからなくて、みんなが失敗していた

── お二人はそれぞれ採用ビジネスに携わっています。自社ではどんなふうに人材を見極めているんですか。
北野 僕の場合、採用面接では志望動機や経歴みたいな話をまったく聞かないんです。見ているのは、嘘がつきにくい項目だけ。
 中嶋さんも経営者だからたくさん採用されてきたと思うんですけど、「しゃべりがうまい人」っているじゃないですか。でも、しゃべり下手な人でも採用してみたら、めちゃくちゃ活躍するケースもある。
1987年生まれ。博報堂で中期経営計画の策定やM&A、組織改編業務を担当。米国留学を経て帰国後、ボストンコンサルティンググループに転職。2016年、新卒採用サービスを運営するワンキャリアに参画し、最高戦略責任者 執行役員に。2019年1月から子会社の代表取締役、オープンワークの戦略担当ディレクターも兼務。著書に『転職の思考法』(ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)など。2019年に2冊の新刊を発行予定。
中嶋 ありますね。特に面接では高く評価されるためのパフォーマンス勝負になってしまいやすいから、企業のカルチャーや業務の得手不得手みたいな、能力の高さや低さではない部分をマッチングさせることが難しいんでしょう。
 ただ、面接の正解っていまだによくわからなくて、僕の場合は論理的な説明ができて、声が大きいタイプを評価しやすい傾向にあります(笑)。
 そうすると、優秀そうに見えたから採用したけれど、自己評価が高いだけだったり、能力は高くてもカルチャー面でミスマッチが起こったり。株主や知人に「どうやったら見極めができるのか」と聞いてまわったくらい、課題意識がありました。
1992年生まれ。青山学院大学在学中の2013年にROXX(旧・SCOUTER)を設立し、HRtech領域で事業を展開。2016年、副業で人材紹介ができる「SCOUTER」、2018年、求人流通プラットフォーム「agent bank」をリリース。2019年、月額定額制リファレンスチェックサービス「back check」を提供開始。
北野 採用面接ってやろうと思えば誰にでもできるけど、誰もがうまくはできない仕事の典型なんですよね。文章を書くことや、歌を歌うことと構造的には似ていると思っています。
 精度を上げるには高度な専門性が必要で、かなり難しいことに取り組んでいるのに、その技術の質が見えにくい。見極めのコツに、答えは出たんですか?
中嶋 さまざまな方々からアドバイスをいただいて出た結論は、「みんな正解がわからなくて失敗していた」ということでした。多くの経営者が失敗を繰り返しながら、過去の経験や勘を頼りに面接していたんです。北野さんは、どうやって見極めているんですか?
北野 先ほどの嘘がつきにくいことを聞くという話の続きにもなるのですが、僕がいつも必ず質問するのは、休日の行動です。何をしているときに楽しいと感じるのか、何にお金を使うのか。そういった話ですね。
 なぜかというと、プライベートな時間にこそ、個々のプロトコルや原理原則が表れるからです。監督者がいるときの行動と、そうでないときの行動では、どちらにその人の本質が出やすいか。間違いなく後者ですよね。
 例えば、土日は趣味と実益を兼ねて勉強会に出ている。これを10年間続けているなら、誰も見ていなくてもそういう行動を取れる人だということがわかります。
 一方、前職で前年対比130%の売上に貢献してMVPを取りましたという人がいたとする。それ自体は素晴らしいことなのですが、よくよく話を聞いてみたらチームでMVPを取っていて、その人の同僚がメインで数字を作っていたかもしれない。
中嶋 そういったことを履歴書や面接だけで見極めるのは難しいですよね。じゃあどうすればいいのかと考えて生まれたのが、リファレンスチェックサービス「back check」です。
 これまでもエグゼクティブクラスの採用ではリファレンスチェックが当たり前のように行われてきましたが、もっと広く手軽に使えるサービスがあれば、企業と候補者の双方にとって、メリットがあるんじゃないか、と。
北野 UIはどうなっているんですか?
中嶋 企業側の画面では、人事担当者が候補者の上司や部下など、リファレンスチェックに回答してほしい推薦者のポジション(候補者との関係)を設定し、候補者の連絡先・回答期限・質問内容を登録するだけでリファレンスチェックを依頼できます。
 その後、候補者本人が前職の上司や同僚らの個別の連絡先を登録して回答を依頼します。
北野 質問事項は任意で決められる?
中嶋 ポジションや募集職種によって聞くべき質問が異なるので、職種ごとに各50問程度、プリセットで用意しています。それをベースに企業側で取りたい質問を選択し、自由項目も加えられるんです。
 一般的なところだと、コミュニケーションに関するものや、目標に対する成果、指示がなくても動けるかといった項目があります。これらを会社全体の中でどれくらいできていたかを基準にして、5段階評価、または自由記述で回答してもらいます。
 既存のリファレンスチェックの相場は、1件あたり5万~10万円ほど。人数が多くなるほどコストもかさむので、部長や執行役員などのエグゼクティブクラスの採用に限定する形で使われるのがほとんどです。
 back checkの場合、月額定額制かつ月10万~20万円の価格帯で提供することで、一般の社員やアルバイトの採用においてもお使いいただけるようにしています。

流動化する個人に「リファレンス」という武器を

北野 なるほど、企業が抱えてきた採用の課題を解消するいいサービスですね。
 僕が最近のトレンドだなと感じているのが、「嘘がバレる」こと。例えば、食べログのようなCGM(Consumer Generated Media)が生まれたことによって、飲食店は実態とかけ離れた嘘をつきにくくなりました。いくら美しい広告を打っても、クチコミ評価が低い店はどうしても選ばれにくいじゃないですか。
 僕が携わっているクチコミを投稿できる就職クチコミサイト「ONE CAREER」や、社員による会社評価の「OpenWork」でも、企業の評価データがどんどん溜まっているから広告宣伝だけでは嘘がつけなくなっているんです。
 一方で、求人への応募者はいくらでも嘘をつける状況になっている。back checkは、そうした非対称性のバランスを取るソリューションでもあるんでしょうね。
中嶋 終身雇用がもう期待できないなかで、若い世代の平均転職回数は必然的に増えています。どんどんチャレンジすること自体はいいけれど、企業との騙し合いみたいになってしまっては、しっかり誠実に仕事に取り組んでいる人が損をしてしまう。
北野 そういう意味では、back checkの登場は個人に武器を持たせることにもなるなと思いました。
 これだけ雇用の流動化が進むと言われているにもかかわらず、転職活動で前職の実績を載せられるのは履歴書くらいしかない。海外だとLinkedInが広く浸透していますが、日本では自分をPRすることに恥ずかしさを感じるカルチャーがあります。
 そうすると、先ほど話に出たように「しゃべりのうまい人」や「声が大きい人」に評価が偏りやすくなるんですよね。
 でも、自己PRが苦手な人でも、採用してみたらめちゃくちゃ活躍するケースもある。リファレンスという客観的な評価指標が加われば、履歴書と面接の評価だけではこぼれ落ちていた人材を見つけ出しやすくなるかもしれません。
中嶋 そうなんです。リファレンスチェックってあまり認知されていないし、知っている人もネガティブチェックのイメージを持っている。だからback checkでは、候補者自身がリファレンス回答者を選択できるようにしました。
 場合によっては前職でうまくいかずに転職する方もいますが、真摯に働いていた人なら、誰にもリファレンス回答を依頼できないことはない。
 いまのところback checkの回答率は93%で、しかも応募者の良さを伝えるようなポジティブな回答が大半です。面接では落とされかけたけれど、リファレンスの結果が良くて採用された人もいます。
北野 候補者としても採用されたいから、ちゃんと依頼するわけですね。面接で相手の良さを引き出せるかどうかは面接官のスキルにもよりますから、その揺らぎをシステムで解決するのがとても良いですね。
中嶋 リファレンスでは、自己評価と他者評価の差分もわかります。実績を誇張しているケースの逆で、謙遜して実績を過小評価してしまっている候補者も少なくありません。
 前職で真面目に仕事に取り組んだことで、それを客観的に伝えてくれる味方ができる。結果、自分が望む環境を選択できるのは素敵なことですし、企業側もミスマッチや取りこぼしを最小限に抑えることができるようになると考えています。

「個」の時代が、経営に変化を求めている

── リファレンスチェックに回答する側は、自分の職場を辞めていった元同僚に協力するわけですよね。抵抗なく回答してくれるものなのでしょうか?
中嶋 現状、依頼からの回答率は90%を超えています。リファレンスの質問項目の一つに、「(応募者の)転職を引き止めましたか?」というものがあります。
 引き止めたいと考えたが、最後は個人の自由を尊重して応援したいと書かれる方が非常に多い。仕事で貢献してくれたことに対して、リファレンスチェックを通じて応募者の次の挑戦を後押しする、そういったポジティブな動機で書いていただく方の多さには、正直驚いています。
 転職はコソコソやるものだという時代から、その常識が徐々に変わってきているのを肌で感じています。
北野 今の時代、転職する可能性は誰にでもありますからね。僕ももし、自社の社員から「2〜3年のうちに次へ行くつもりです」と言われたら、0.1秒で「君の出した結論なら応援する」と即答します。本音は別として、ですが。
 昔はよく、一つの職を最低3年は続けろと言われていましたし、勤続年数が短いと転職でも不利になった。でも、優秀な人ほど1年半や2年を分岐点に、離職率が高まるというデータもある。
 要は、仕事を身につけられるかどうかって、ビジネスサイクルを何回まわしたか、なんですよね。今の50代、60代はビジネスサイクルが長かったかもしれませんが、IT企業なら1年もあれば相当なPDCAをまわせるし、成果も出せます。
中嶋 確かにそうです。ビジネスサイクルのスピードとスパンが変わってきているのに、まだ雇用側の意識が追いついていないですよね。このことは、採用後の人材育成を考えても問題になる。
北野 面白いのが、OpenWorkに登録された2400社のデータで、ぶっちぎりで満足度の低い項目があるんです。それが「人材の長期育成」。
 これは社員側の不満ですが、地方の経営者へのアンケートでも、経営課題だと感じることのトップ3に常に入るのが「人材の採用と育成」です。
中嶋 まさにビジネスサイクルの短期化によるものですね。
北野 こういう結果が出る理由の一つは、日本では「会社が自分を育ててくれる」という社員側の期待が高すぎること。
 もう一つは、「個の時代」なのにそれを活かすための組織戦略がないこと。経営サイドが近視眼的になっていて、長期的な視点で人を育てる余裕がないことが大きいのかなと。
 今の状況を踏まえると、これからの企業には「人材開発」ではなく「人材プロデュース」が求められると思います。
 どうすれば個人が輝けるのかを考え、ステージに合った活躍と成長の場を用意する。会社がそれを用意できなければ、いくら引き止めても個人は次のステージを求めて転職していくわけですから。
中嶋 僕も北野さんとまったく同じことを考えていたんですけど、会社の中で成長が頭打ちになったら、次は伸びている業種や会社に行くしかない。そういった選択肢は溢れています。
 そこにはお金も人も集まっているし、その環境がさらなる成長を生む。そうやってうまく循環することが、「雇用の流動化」ですよね。
北野 手を抜きながら同じ会社に10年在籍している社員と、1年半しかいなかったけれど圧倒的にバリューを出した社員。企業にとってどちらがいいかというと、本質的には後者のはずなんです。それは、個々の社員のためでもあるし、日本経済のためでもある。
 個人が生産性を高め、働きやすく、自分に合ったキャリアパスを描ける世の中へ。back checkは、その変化を後押しするツールになると信じています。
(編集:宇野浩志 執筆:熊山 准 撮影:後藤 渉 デザイン:月森恭助)