【大室正志】50年後 自然妊娠は珍しいものに

2019/9/7
9月3日に放送された『The UPDATE』では「なぜ日本は不妊大国になったのか?」と題し、株式会社ジーンクエスト代表・高橋祥子氏、株式会社ヘルスアンドライツ代表・吉川雄司氏、NPO法人Fine理事長・松本亜樹子氏、大室産業医事務所 産業医・大室正志氏をゲストに迎え、少子化が進む日本の妊活のカタチについて議論を交わした。
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番組の最後に、古坂大魔王が最も優れていた発言として選ぶ「King of Comment」は、大室正志氏の「(不妊治療を)考えないことにしてきた」に決定。
結婚したカップルのうち、約6組に1組が不妊で悩んでいると言われている日本。
不妊大国とされる要因は、多くの人にとって性への“タブー感”があるからだと大室氏は指摘する。その背景とは?番組放送後、お話を伺った。
なぜ日本は不妊大国になったのか?
番組冒頭では、日本における男女の不妊の割合などのデータが取り上げられた。
大室氏は、晩婚・晩産化の流れに対し、まだ世の中の不妊治療への理解が追いついていない、と語る。
大室 日本人の多くは、性へのタブー意識を持っています。特に男女間において、下ネタを抜きにして真正面から性について話すことは、ほとんどありません。
そんな状況ですので、子供は「授かりもの」という考えが、いまだに根付いています。
晩婚化に伴って、自然妊娠が当たり前ではなくなってきているにもかかわらず、不妊治療については、当事者以外みんなよく分からない。
子供ができなかった場合、またはできにくい場合、どうするかということに対し、社会も個人間でも、あまり向き合わないようにしてきた結果だと思います。
また、19世紀に西洋から“輸入”された、好きな人と結ばれた末に、子供を授かるのが望ましいというロマンチックイデオロギーが広がったことも、それに拍車をかけています。
それまでの日本はお見合い結婚が普通でしたし、「イエ」を存続するための養子縁組も珍しくありませんでした。もちろんそれが現代に合うとは思いません。
しかし、輸入元である欧米が、既に同性婚の養子縁組、精子バンクによる出産など、多様な形を許容するように社会をアップデートしている。
一方、極東の島国で、19世紀の教えを後生大事に守り続けるのは、違和感があります。
自由恋愛⇒結婚⇒出産の3点セットが揃わないとダメというコンプリート信仰から、もう少し自由になっても良いのではないでしょうか。
性教育の問題点
番組内では、自身も10年にわたる不妊治療の経験者であり、妊活コーチとして、研修や講演などを行う松本氏も、性教育の問題点を指摘。
「生理、妊娠、避妊、中絶、性病は教わったけど、不妊は学校で教わらない。」
「妊娠したいと思った時に初めて『できない』という現実を突きつけられ、びっくりする方が非常に多い」と語った。
妊娠=「人工授精」になる未来
日本産科婦人科学会の調査によると、2016年の出生児の5.4%、約18人に1人が体外受精によって生まれている。
出所:厚生労働省、日本産科婦人科学会
産業医である大室氏は、従業員から、不妊治療に関する話を聞く機会が増えている、と実感。
今後人工授精については、今よりもっとカジュアルに話されるようになっていく、という。
大室 特にここ1、2年で女性社員から不妊治療の話を聞くことが、非常に増えてきました。
勝手な予想ですが、このままいけば、50年後には、妊娠と言えば人工授精を指すことになり、自然妊娠は珍しいものになると思っています。
子供は授かるものではなくて作るものという認識が広まり、コミニケションツールとしてのセックスと生殖行為は、別になるのではないでしょうか。
倫理的にクリアすべき問題はあるかもしれませんが、人間は本能に逆らい進化してきた動物。
その是非は別にしてテクノロジーの進化は止められません。自然妊娠比率が逆転する日はそう遠くないと思います。
「不妊」を扱う難しさ
日本は、生殖補助医療の治療件数が世界トップであるにもかかわらず、出生率は最下位。
番組内では、日本に不妊治療に関する法律がまだないこと、共通のガイドラインがないことなど、技術面以外の課題が語られた。
さらに、観覧していた胚培養士(顕微授精や体外授精などの生殖補助医療を行う)も発言。
「日本の場合は、高齢の患者が多い。また高齢の患者に対して、倫理観などの制約から、効率の良い治療ができない」と現場の声を語った。
ツイッターでは、今まさに不妊治療を受けている人などから、切実なコメントも。
番組終盤、MCの佐々木紀彦も「今日は不完全燃焼感がありますね」と漏らした。
大室氏もまた、不妊というテーマを扱う難しさを語る。
大室 不妊の話って、観ている方で、それぞれ論点が違うと思うんです。社会の仕組みの問題、テクノロジーの問題、性教育の問題……
人によって議論の優先順位が違うので、「もっと治療について話してほしかった」と思う人もいれば、「保険制度の話をしてほしかった」と思う人もいるかもしれない。
これは社会の人口を維持するための大きな問題なので、そういう意味では1時間ですべてに触れることは非常に難しい。
でも、このテーマが取り上げられたこと自体は、良いことだったと思います。個人的には、特別養子縁組制度などの選択肢についても話したかったですね。
家族というのは血縁関係だけではなく、「機能」であるということ。男のお父さんがいて、女のお母さんがいて、血の繋がった子供がいる。
今はこの形であるべきだ、という抑圧が強すぎるように思います。
不妊について語ると、どうしても「妊娠することが善だ」という印象になってしまう。
ですので、ちょっと混ぜ返すようだけれど、家族そのものに、もっといろんなカタチがあってもいい、ということは、最後に付け加えたいと思います。
9月10日のテーマは「音声コンテンツ」
音声をめぐるビジネスが世界で沸騰しています。日本でも、RadikoやVoicyが人気を呼び、有名起業家などによるビジネスコンテンツも充実しています。
一方、日本では「音声を聞く文化」が浸透しづらいという声もあり、成長産業であると騒がれている現状に、懐疑的な見方もあります。
なぜ今音声コンテンツが熱いのか。果たして、音声コンテンツ市場はバブルなのか。
NewsPicksアカデミア編集長:野村高文、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授:柳瀬博一氏、Radiotalk代表:井上佳央里氏、J-WAVE:渡邉岳史氏、中国の音声プラットフォームを運営する、シマラヤジャパンの安陽CEO、さらに飛び入りゲストも交えて、音声コンテンツビジネスについて、徹底討論します。
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<執筆:星彩華、編集:木嵜綾奈、デザイン:山田隆太朗>