[東京 21日 ロイター] - 世界経済の不透明感などを背景とした長期金利の低下で、日銀が試練に直面している。大規模な国債買い入れにより潤沢に資金を供給しつつ、長期金利が過度に低下しないよう目配りする必要があるためだ。金利が低下しすぎると銀行収益への打撃が大きくなり、金融システム不安に発展しかねない。長期金利の低下圧力が強まる中で、日銀は難しい舵取りを迫られている。

10年物国債利回り(長期金利)は16日、一時マイナス0.255%をつけ、イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作付き量的・質的金融緩和)を導入した2016年9月以降の最低水準を更新した。21日もマイナス0.250%付近で推移しており、依然として低下圧力は強いままだ。

「金利が過度に下がりすぎると、YCCの下では手の打ちようがない」──。元日銀審議委員で野村総合研究所エグゼクティブエコノミストの木内登英氏はこう指摘する。

YCCは国債買い入れによって長期金利をゼロ%程度に誘導する政策で、誘導目標には一定の幅を持たせている。従来はプラスマイナス0.1%程度だったが、2018年7月に政策の枠組みを強化した際、黒田東彦総裁は「その倍くらいの幅を念頭において考えていく」と説明し、市場ではプラスマイナス0.2%が上下限金利として意識されるようになった。

しかし、長期金利は現在も床(フロア)であるマイナス0.2%を割り込んだ水準で推移しており、市場では9月の金融政策決定会合に向けて思惑も浮上している。

木内氏は「長期金利はレンジの下限を下回った状態が続いており、放置すると制度の信頼性が落ちるので、9月にも何らか対応をする可能性がある」と予想。具体的には、長期金利がマイナス0.2%を下回った状態が長く続く場合は、レンジそのものを撤廃するとの見通しを示した。

では、金利をレンジ内に戻すにはどうすればいいのか。理論的には国債買い入れを減額すれば、需給の緩和を通じて金利の上昇が見込まれるが、16日には残存期間5年超10年以下対象の国債買い入れオペを減額したにもかかわらず、長期金利は一段と低下した。

市場では、YCCは金利上昇を押さえ込むには威力を発揮するが、金利低下に歯止めをかけるには力不足との指摘が目立つ。

元日銀国際局長でオックスフォード・エコノミクス在日代表の長井滋人氏は「YCCの下では長期金利の低下を止めるのは難しいというのは、自分が現役のとき理論的問題として議論されていた」と明かす。

事情に詳しい関係者は、現在の政策は弾力的に運用されており、これ以上の金利低下は阻止するという一定の水準があるわけではないと説明する。雨宮正佳副総裁も1日の会見で「何か事前に固まったレベルがあるということではない」と強調した。ただ誘導目標から離れすぎるとYCCが形骸化するおそれもあり、日銀は難しいさじ加減を迫られている。

足元では、米連邦準備理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)は利下げを検討しており、金利を元に戻しすぎると、円高圧力がかかるリスクもある。

元日銀理事でみずほ総合研究所エグゼクティブエコノミストの門間一夫氏は「単に金利低下を止めるだけであれば、国債の買い入れを止めたり、国債を売ったりすればいいが、ベースマネーも増やさなければいけないので、その整合性を取るのは容易ではない」と指摘。「YCC導入後初めて、下限が試されている。どうするか、日銀も試行錯誤だろう」との見方を示した。

(木原麗花)