[東京 24日 ロイター] - 複数の関係筋によると、日銀が29―30日に開く金融政策決定会合では、海外経済の減速を背景に拡大する経済・物価の下振れリスクについて集中的に議論が行われる見通しだ。国内需要が堅調に推移する中で、現時点で日本経済を巡る中心的なシナリオや物価のモメンタム(勢い)は維持されているものの、年後半としていた海外経済の回復時期は後ずれする懸念が高まっている。

下振れリスクに対応するため、政策金利のフォワードガイダンス(指針)強化などを含め緩和強化に前向きな意見と慎重な意見が政策委員会の中で混在し、日銀内にも温度差がある。

日銀では5月以降、トランプ米大統領が中国からの輸入品への関税を引き上げるなどの米中間の摩擦を中心に、海外経済の不透明感は一段と高まったと認識している。ITサイクルや中国経済の持ち直しの遅れなどで、年後半としていた海外経済の回復シナリオは、やや後ずれしているとの指摘が多い。

このため、日銀内では世界経済の動向が日本の経済・物価に与える影響を注視していくべきだとの声が広がっている。

ただ、黒田東彦総裁は「回復の足取りが非常に遅れ、大きな問題になるとはみていない」とも述べており、現時点で日本経済の見通しに大きな変更を加える状況にはなっていないとの見方だ。

実際、生産や輸出で大きく想定を下回る数字は出ていない。1日に発表された日銀短観でも、製造業の弱さに対して、非製造業は堅調なことが示された。注目された設備投資計画も「思ったよりも強かった」(幹部)と評価している。

海外経済のリスクは高まっているものの、現時点では堅調な内需への波及は限定的にとどまっている。経済の緩やかな成長や物価2%に向けたモメンタムなど、経済・物価の基本的なメカニズムは維持されていると判断しており、会合では、物価安定目標2%の達成に向け、これまでの強力な金融緩和政策を粘り強く続けていく姿勢が確認される見通しだ。

だが、高まる先行きの下振れリスクに対応するため、何らかの措置が必要との指摘も一部にある。先行き不確実性の高まりが物価のモメンタムに与える影響を警戒する見方だ。

市場では、具体策として、4月に「当分の間、少なくとも2020年春頃まで、極めて低い長短金利水準を維持する」と明確化したフォワードガイダンスの想定期間について、さらに長期化するとの見方が根強い。

これに対して日銀では、すでに「2020年春より先でもかなり長い期間にわたって継続する」(黒田総裁)ことを表明済みで、金利低下局面におけるフォワードガイダンス強化の効果自体に懐疑的な見方がある。

むしろ金融緩和手段の手詰まり感を印象付けてしまう可能性を懸念する声もあり、単純な延長には慎重な向きが少なくない。

その一方で、緩和強化姿勢を明確にしている30―31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での政策決定内容や、不透明な要素の多い7月24―25日に開かれる欧州中央銀行(ECB)理事会を受けた市場の反応を注視したいという見解が浮上している。

中でも市場の政策維持観測が強いECBが追加緩和に踏み切った場合は、ユーロが対円でも急落し、円が全面高になる可能性について丁寧にウオッチしたいとの声が出ており、そのケースでの追加緩和に積極的な見方もある。

黒田総裁は、急激な円高の進行など市場変動を通じて日本の経済・物価に悪影響が及び、物価のモメンタムが損なわれるような事態になれば「ちゅうちょなく追加緩和を検討する」と繰り返し述べており、欧米中銀の決断次第で状況が大きく変わる可能性もある。

同日に発表される経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、19年度の消費者物価指数(除く生鮮)の見通しが4月のプラス1.1%から小幅下方修正される可能性がある。全国コアCPIは、4月がプラス0.9%、5月がプラス0.8%、6月がプラス0.6%と1%割れで推移している。今後、エネルギー価格の下押し圧力が強まるほか、携帯電話の通話料の引き下げなども影響する。ただ、一時的な要因に拠るところが大きく、先行きの物価見通しに大きな変更はない見込み。

足元の物価が小幅下方修正されても、需給ギャップはプラスを維持しているほか、予想インフレ率も横ばい圏で推移しており、物価のモメンタムは維持されている、と判断している。

(清水律子 伊藤純夫 編集:田巻一彦)