[東京 19日 ロイター] - 7月21日の参院選後、外為市場で円高が進むのではないかとの観測が広がり出した。来年の再選を目指すトランプ米大統領が、いよいよ対日通商交渉に本腰を入れ、同時に円安けん制姿勢を強めるとの見方だ。大統領が繰り返しドル高に不満を示していることから、米国がまさかの「ドル売り介入」に踏み切る可能性があるとの思惑まで浮上している。

<米大統領ツイッター、言及ない日本市場の関係者色めく>

東京市場関係者の間で、今夏の円高観測が高まったのは今月3日夜。トランプ大統領が「中国や欧州は為替操縦ゲームを派手に楽しんでおり、米国と張り合うため金融システムにお金をつぎ込んでいる。われわれも『対抗』すべきだ」と記したツイッターがきっかけだった。

日本とは一見、関係のない発言に参加者が色めいたのはなぜか──。

複数回のトランプ大統領来日をうまく切り抜けた日本が、ドル高/円安への苦言を免れたようにも見えるが、額面通りに受け取った参加者は多くない。「トランプ大統領は明らかにドル高に不満を持っているのに、円に対する批判が全くない。やはり、参院選後まで批判を控える『握り』があったに違いない」(トレーダー)との読みが、市場の一角でささやかれている。

日々、多くのコメントで世界経済をにぎわせるトランプ大統領の「片言隻句」に対し、参加者がことさら意味深長に捉えたのは、もちろん背景がある。

大統領が来日中だった5月26日、対日貿易交渉について「大部分は7月の日本の選挙後まで待つことになる。大きな数字を期待している」とツイッターへ投稿していた。

安倍晋三首相が必勝を期す国政選挙の邪魔はしないから、来年に迫った自身の再選も援護してほしい。首脳会談でそうしたやり取りがあったのではないか。その当時から市場では、そんな思惑が駆け巡っていた。

<通貨高に不満の大統領、ドル売り介入のシナリオ>

米民主党の大統領候補が依然乱立しているにも関わらず、トランプ大統領の再選が容易ではないとの見通しも、そうした観測に拍車をかけている。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙とNBCニュースの世論調査によると、民主党の大統領候補であるジョー・バイデン前副大統領、エリザベス・ウォーレン上院議員、バーニー・サンダース上院議員は、トランプ大統領を上回る支持を獲得。カマラ・ハリス上院議員もほぼ互角の支持を得た。

外為市場の一部では、当初の想定よりも支持率が「低空飛行」となっているトランプ大統領が、ドル売り介入を強行し、票田の製造業などにアピールする可能性がありそうだと、そのシナリオの実現可能性について真剣に議論されている。

日本の為替介入に激しく異論を唱えてきた米国の通貨政策からすれば、極めて考えづらい手法といえる。だが、国境の壁建設や突然の高関税賦課などを押し進めてきた豪腕トランプ政権に「異例などない」(外銀幹部)からだ。

もし、米国が実際に介入したらどうなるのか。「ドルは下落し、円は上昇。米国外のリスク資産は軟化する。しかし、各国通貨当局が米国と協調する可能性は低いし、貿易戦争をさらに激化させるなど、数々の難題に直面する。他国が何らかの反応を示せば(介入が)逆効果となる恐れもある」(ゴールドマン・サックスのストラテジスト、マイケル・カヒール氏)という。

<夏の円高、イメージ先行でも拭えぬ不信>

一方、為替市場では、気温の上昇とともに「夏の円高」懸念が風物詩のように意識されてきた。

ただ、安倍政権が発足した2012年末以降、7月と8月に月間でドル/円が下落したのは、ともに6回中3回。両月ともに円高となったのは17年の1度しかなく、安倍政権の下では、夏の円高の記憶が薄れつつある。

夏の円高シナリオの裏には、いくつかのルートのマネーフローの存在がある。1つは、グローバル投資家が休暇の間、資産を米国債へ集めるので米金利が低下しやすいことだ。

また、米国債の利払いや償還が集中して国内投資家の手元に入り、その資金が円に換えられ、国内実需の休暇入りで流動性が低下した市場で短期筋の仕掛け的な円買いがワークしやすくなる──などが意識されてきた。

だが、近年では夏場に米金利が顕著に低下した形跡はなく、国内大手投資家が薄商いの下でまとまった円買いに動くことも多くない。「そのままドルで保有して、再投資へ回すのが一般的。円転しても投資先がない」(都銀関係者)と、日銀の超緩和政策の長期化による日本市場の「様変わり」もある。

それでも今夏の円高懸念が拭えないのは、米国の通貨切り下げへの警戒感が強まっているためだ。

ムニューシン財務長官は18日、ブルームバーグとのインタビューで、通貨政策について「将来に検討することはあり得る問題だが、現時点でドル政策に変更はない」と含みを持たせた。

国際通貨基金(IMF)は17日に公表した年次報告書で、ドルは短期ファンダメンタルズに基づくと6─12%過大評価されているとの見解を示した。

夏の円高の再来があるのか、その帰すうは、米当局の動向が鍵になりそうだ。

(基太村真司 編集:田巻一彦)