(ブルームバーグ): みずほフィナンシャルグループが1万9000人の人員削減、三井住友フィナンシャルグループは5000人弱相当の業務量削減。目を引くメガバンクの合理化計画に一役買っているのが、事務作業をソフトウエアに覚えさせて自動化する「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」技術だ。業務効率化を加速させる一方、銀行員にとっては個人の能力がより試される時代に入ることになる。

三井住友銀行の支店では、個人営業担当者が出勤してパソコンを立ち上げると、その日に訪問予定の顧客人数分の運用リポートが電子メールで届いている。前日帰宅前に顧客名をスケジュール管理ソフトに打ち込んでおくだけで、RPAのロボットが吸い上げ、預金口座、ポートフォリオ、保有商品の時価や為替レートなどの情報を顧客ごとにまとめてくれる。

メールを受け取る行員は3000人以上。これまで各自がそれぞれの顧客向けにリポートを作成していた朝の30分から1時間が節約でき、より深みのある商品説明をしたり訪問先を増やしたりできるという。

三井住友銀の完全子会社でRPAの導入支援を手掛けるSMBCバリュークリエーションの山本慶社長は、度重なるコスト削減指令に疲れた行員たちにとって単純作業を削減することが「前向きに働きたいという意欲につながる」と説明する。

支店への導入はあくまで一例だ。三井住友FGはグループ全体にRPAの導入を順次拡大しており、その効果もあって2019年度までの3年間で5000人弱分の業務量の削減を見込む。山本氏は「余力の創出であって単なるコスト削減ではない」という。そんな業務改革を二人三脚で支援してきたのが、RPAソフト開発の米ユーアイパスだ。

「三井住友FGの業務改革は、大規模に安定稼働できるというユーアイパスの高い技術があったからこそ実現した」と山本氏。現在、1000台以上の疑似ロボットがコンピューター上で動いているという。調査会社IDCは、世界のRPAソフト市場が19年の15億7750万ドル(約1710億円、予測値)から、22年には2倍以上の37億1540万ドルに拡大すると予測。競合としてNTTデータや英ブループリズムなどがある。

ユーアイパス日本法人の長谷川康一最高経営責任者(CEO)は、金融機関は特に自動化のニーズが高い業種だと考える。作業の正確性と高度なセキュリティーが求められるため、これまで簡略化が難しかった。低金利下での成長戦略が求められる中「時間的、精神的に多大な負担をかける手作業からまず社員を解放する必要がある」と力説する。

RPAの波に乗れるか

実際、RPAは急速に普及しつつある。主要9行のうち三井住友銀のほか、みずほ銀行、三井住友信託銀行など7行がユーアイパスのソフトを導入。17年2月の日本進出から1年4カ月かけて300社に到達した顧客企業数はその後、1年足らずで1000社に拡大した。長谷川氏は、地方銀行や官公庁などを中心に12月末までに2000社を目指すと意気込む。

海外ではRPAが人の仕事を奪うコスト削減の道具として使われた面もあったが、終身雇用制度が根強い日本では、安易な人員削減をせずRPAで社員の生産性を底上げしようという考え方が主流だという。

ユーアイパスは外資ながら開発投資の40%を日本関連に投入する。生産性を上げるという日本的な考え方を製品に反映させればうまくいくと確信しているからだ。長谷川氏は「社員が幸せになれて、ほかの企業も導入しやすい」と説明する。

マネックス証券の大槻奈那チーフアナリストは「金融業界の業務はコモディティー化が進んでいるのでRPAとの親和性は高い」として相当程度の業務の自動化が可能だとみる一方、顧客の利便性をないがしろにする省力化になっていないかきちんと点検する必要があるとくぎを刺す。

その上で、「人員削減は自然減も含め、何らかの形で起きると思う」と指摘。例えば、事務作業を主にしていた人を営業に回すといっても全ての人に適性があるわけではないとし「RPA化の波に乗ることができない人にとっては従来業務が減らされ、新しいことを身に付けないと生き残れない。銀行員にとっては厳しい時代になったと言える」との見方を示した。

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