[広州(中国)/ヤンゴン 27日 ロイター] - 中国の製造業者の間では近年、国内の経営コスト上昇から生産拠点をベトナムやカンボジアなど東南アジア諸国に移す動きが起き始めていたが、米中通商紛争でこうした流れが勢いを増している。とりわけ価格の安いローテク製品メーカーで拠点の海外移転が目立つ。

防弾チョッキやライフル銃用バッグなどを製造する広州市の雅科達旅遊用品の経営者は、数年前に一部製造部門を東南アジアに移すことを考えたが見送っていた。しかしトランプ米大統領が昨年9月に中国からの輸入品2000億ドル相当に追加関税を課すとこれが決定打となり、米顧客向け防弾チョッキをミャンマーで製造することを決断した。

雅科達旅遊用品は利益の半分以上を米国からの受注が占める。この経営者はミャンマーへの移転に満足しており、「まさに災いが福に転じた」と述べた。

雅科達旅遊用品のミャンマー工場は昨年12月に生産を開始。工場長によると、製品は米国と欧州に輸出され、従業員600人は常に注文の消化に追われているという。

一方、同社の珠江デルタにある従業員220人の広州工場は、主に中東、アフリカ、欧州向けの製品を生産している。

ミャンマーはイスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害で国際的に非難を浴びているが、一部の中国企業が安価で豊富な労働力に引かれて移転先に選んでいる。

ミャンマー当局のデータによると、今年4月までの1年間に承認された中国関連プロジェクトは5億8500万ドル増加。中国からの資本流入が工業セクターの発展を後押ししている。

中国・山東省を拠点とするタイヤメーカー、ACMXグループも米中通商紛争の発生を受けて、生産の一部を海外に移し、2年前にベトナム、タイ、マレーシアでの生産に踏み切った。労働力や原材料のコストが低く、米国の反ダンピング関税を避けられるとの理由だった。

経営幹部によると、米中通商紛争が激化したため、同社は海外生産比率を20%から50%に引き上げる計画。

雅科達旅遊用品やACMXに見られる生産拠点の海外移転の動きからは、米中通商紛争で中国メーカーが守勢に立たされ、顧客層の多様化や国内販売の増加、第三国での生産拡大などを迫られている様子が読み取れる。

こうした経営戦略を実行に移すには時間と費用がかかるが、利ざやが薄い小規模な輸出業者は必ずしもこうした負担を賄えない。一部の小規模メーカーにとってはベトナムやフィリピンでさえ高嶺の花だ。

中国商務省・国際問貿易合作研究所の梁明所長は「実際に海外に拠点を移している企業はほとんどない。海外に拠点を移すと、米中が合意すれば損失を被るリスクがある」と述べ、国内メーカーによる海外移転に否定的な見方を示した。

貿易面で圧力が高まれば、中国政府は今後数カ月以内に成長てこ入れのために緩和策を一段と強化するとアナリストはみている。また投資家は中国政府が人民元安をどこまで容認するかにも注目している。

雅科達旅遊用品のミャンマー工場の現場責任者は、ミャンマーの労働者の質が中国に比べて劣り、雨季には道路が冠水して、毎日8─9時間の停電が起きると嘆き、「米中通商紛争がなければミャンマーに拠点を移すことはなかった」と述べた。

(Joyce Zhou記者、Ann Wang記者)