【習慣化の法則】三日坊主は、あなたのせいじゃない。“変わりたくない脳”に打ち勝つ方法

2019/6/17
 元号が変わり「ダイエットのために毎日走ろう」「毎日英語を勉強しよう」などの目標を掲げた人は、少なくないはず。果たして、今日までどれだけの人が継続できているだろうか。続けられるのは、強い意志とメンタルを持つ人だけなのだろうか。

 三日坊主を打破し、行動を習慣化する方法について、国内外で多くの法人・個人に良い習慣を定着させてきた、習慣化コンサルティング株式会社・代表の古川武士氏に、そのメソッドを聞いた。

「習慣化コンサルタント」という仕事

──  古川さんは、「習慣化コンサルタント」という聞きなれない肩書きをお持ちです。どのような活動をしているのでしょうか。
 習慣化コンサルティング株式会社を立ち上げ、法人・個人に向けて習慣化の法則を教えています。法人向けでは、最近は「働き方習慣」というテーマで、講演やワークショップを手がけています。
 働き方改革で残業を減らそうとして、社内の業務プロセスや、給与体系を見直す企業は多い。ですがやはり、社員一人ひとりの仕事のやり方、習慣を変えないと、抜本的に生産性を高めるのは難しいんです。そんな背景があり、多くの企業から引き合いをいただいています。
 個人に向けては、習慣化メソッドに関する書籍出版やポッドキャストの配信、パーソナルコーチングなどをおこなっています。
── そもそもなぜ、習慣化コンサルタントを目指したのでしょうか。
 私自身、以前は何をやっても続かない、いわゆる「飽きっぽい」人でした。英会話も三日坊主、早起きも苦手で、片付けもできない。
 そんな状態だったので、最初から習慣化をテーマに活動していたわけではありません。まずは、ビジネスコーチングの職で独立しました。
 そこで多くの経営者やビジネスパーソンの話を聞いているうちに、あることに気づきました。成功している人は例外なく、良い習慣を持っているのです。さらに、コーチングを受ける理由の根底には、「やるべきことは分かっていても、一人では続けられない」という思いがあることにも、気づきました。
 多くの人が、「良い習慣が人生を変える」と気づいている。でも、やる気や根性といった感情論では、短期的には頑張れても、すぐに失速してしまう。
 そこで、習慣化のプロセスを客観的に分析して「習慣化の法則」を作ることを、思い立ちました。仕組みとして良い習慣を身に付けられるようになれば、多くの人の人生を、良い方向に変えられると思ったのです。

習慣化を阻む3つの壁

── では習慣化の法則は、どのように生み出したのでしょうか。
 100人以上に習慣作りについてインタビューし、パターンを抽出して言語化していきました。そうすることで、さまざまな法則が見えてきたのです。
 たとえば、一般的に1つの行動を21日間続ければ、習慣になると言われています。ですが、3週間で完全に禁煙できる人は、なかなかいない。
 習慣化に必要な日数については他にも諸説ありますが、勉強する、ブログを書く、ダイエットする、禁煙する、ポジティブ思考を身に付ける、などさまざまなカテゴリが、一律で1つの法則に当てはまるなんて、ありえないと気づいたんです。
 インタビューで分かったのは、続けたい習慣によって定着する期間が違う、ということ。勉強する、日記をつける、片付けるなどの「行動習慣」は1ヶ月程度で習慣化しますが、早寝早起きやダイエット、禁煙などの「身体習慣」は3ヶ月、ポジティブ思考や発想力などの「思考習慣」は6ヶ月が必要でした。
 加えて、何か新しく始めたい・やめたいと思ったとき、「続く人」と「続かない人」には、違いがあるはずですよね。両者の意見を集約すると、習慣化するまでには3つの壁があると分かりました。
 ある行動を、30日かけて習慣にすると仮定しましょう。1つ目は最も辛い時期となる、最初の7日間。勢いよくスタートを切るも失速し、いわゆる三日坊主になりやすい「反発期」です。実は40%以上の人が、この「反発期」で挫折してしまいます。
 2つ目は、反発期を越えるも、体調やイレギュラーなことに振り回されて挫折しやすい「不安定期」。これは8日目から21日目に、起こりやすくなります。
 そして最後の壁が、マンネリ化して続ける意味が分からなくなる「倦怠期」。22日目から30日目の間に訪れます。習慣化するには、この3つの壁を乗り越える必要があるのです。

人はなぜ続けられないのか

── 頭では続けようと思っていても、続かなくなる原因の壁が、3つも登場するのはなぜでしょうか。
 それは、脳が変化を嫌うからです。脳は「いつも通り=いつもの習慣」をキープするようプログラムされているので、いつもと違うことをやろうとすると拒否するんですね。
 人の1日はすべて習慣で構成されています。たとえば、朝は8時に起床して朝食を食べずに出かけ、会社に着いたらパソコンを開いてメールをチェックする。12時にランチをして、19時までには会社を出て、夜はお酒を飲みながら夜更かしするというのも、すべてが習慣。
 この、“いつも通り”を繰り返すことで、安定と安心の日々が送れると、脳に設定されています。そこに新しい習慣を加えようとすると脳が抵抗するから、3段階に分けて壁が出てくるというわけです。
 それから、続かない人の多くが、新しく加える習慣のことしか考えていないケースが、多くあります。「朝から晩まで、すべての行動や思考が習慣」ですから、新しい習慣を加えるなら、他の習慣も変えないといけない。
 たとえば、「英語を毎朝1時間勉強する」を習慣にしようとする場合、起床時間も変更する必要があります。
 さらにいえば、1時間早く起きるなら1時間早く寝る必要があり、そのためには日中の働き方や、帰宅後の習慣も見直さないといけない。つまり、1つの習慣を加えようとしたら、1日を構成しているすべての習慣を変えなければいけないのです。
 それができないと、「英語を毎朝1時間勉強する」という目標は、三日坊主で終わってしまうでしょう。

第一歩は“ゆるく”踏み出す

── どうしたら続けられるようになるのでしょうか?
 続いている人に共通するのは、“ゆるく”始めていること。最初の目標設定が低いんです。続かない人ほど気合を入れてスタートしようとするので、脳は強烈に抵抗します。
 「1時間走る」「1時間勉強する」というハードな目標を掲げても、最初のモチベーションは長く続きません。だから最初の反発期は、小さくゆるく始めるのがポイントです。
 たとえば、私は片付けがあまり得意ではないので、それを習慣化するために「毎日15分だけ片付けをする」という目標を作りました。毎日完璧に片付けるのをゴールにするのではなく、一角だけでも15分ずつ片付けていけば、いずれ全体が綺麗になるだろうという発想で始めたんですね。
 すると、意外に爽快感があって「片付けることは楽しい」と思うようになり、片付けが苦ではなくなりました。
写真:PeopleImages / Getty Images
── 「ダイエットのために平日はジムに通おう」と決意しても、ジムに足を踏み入れるまでに時間がかかる、というのを避けるために、初動を簡単にするということですね。
 そうです。毎朝7時に起床する人が5時起きに変えるのは大変ですが、15分の早起きを1週間続けるのはできるかもしれない。反発期はウォーミングアップの時期と捉えると続きやすくなります。
 15分早起きが慣れてきたら、脳はその行動を習慣化してくれるので、抵抗がなくなったタイミングで30分、45分、1時間と徐々に起きる時間を早めていけばいいと思いますよ。

飲み会の日はサボっても良い?

── 7日間の反発期を乗り越えた後、不安定期に突入するとのことですが、ここで気をつけるべきことは何でしょうか。
 8日目から必要になるのは、続ける仕組みを作ることです。具体的には、「例外ルール」を設定し、「継続スイッチ」を探しておくこと。
 たとえば、8日目から15分の早起きを30分、1時間と段階的に早めていくと、「突然のトラブルで終電になった」「飲み会が続いてギリギリまで寝たい」などイレギュラーなことによって、1時間の早起きができない日もあるでしょう。
 そこで役立つのが「例外ルール」。イレギュラーなことがあった翌朝は、「1時間ではなく10分だけ早く起きる」「特別な日としてサボる」と設定したら、罪悪感なくサボれますよね。人は行動目標をサボると自己嫌悪に陥りがちですが、例外ルールさえ設定すれば、挫折せずに済みます。
 次に「継続スイッチ」について。人には、「ご褒美」があるとモチベーションが続く、友達と一緒にやって後に引けない状況に追い込むと続くといった、さまざまな継続スイッチが存在します。
 早起きの場合は、朝食用に美味しいパンを買う、朝活のコミュニティに入る、SNSで宣言するなど、モチベーションを継続させるための方法はたくさんある。
 たとえば飲み会があった夜、歯を磨かずに寝てしまいたい誘惑に駆られることもありますよね。そんな時のために、磨くと爽快感のある歯ブラシを用意しておく、なども有効ですよね。
 ご褒美でも追い込み系でも何でもいいので、自分のスイッチは何なのかを探しておけば、不安定期は乗り切れると思います。

脳の最後の抵抗は、“快感”で抑え込む

── 最後に訪れるのが倦怠期ということですが、乗り越えるためのポイントはありますか?
 倦怠期は最後の難関です。これまで順調に続けてきたことなのに、なぜか突然飽きてしまったり、続ける意味が分からなくなったりする時期。なぜなら、まだ習慣化しきれていない行動に対して、脳が現状維持に戻そうと最後の抵抗をしているからです。
 ここでポイントになるのは「楽しいと思える変化をつける」こと。たとえば、ジョギングを続けたいなら、いつもとは逆のルートで走ってみたり、イベントに参加したり、ウェアやサングラスを新調したりする。
写真:LarsZahnerPhotography / Getty Images
 勉強を続けたいなら、おしゃれなカフェに行ったり、音楽をかけたり、テキストを変えたりする。こうして意図的にでも変化をつけることで、再度モチベーションが湧いて楽しく続けられるキッカケとなります。
 人間はとてもシンプルで、楽しいことは続くし、辛いことは続きません。だから、「爽快感」や「楽しい」「嬉しい」などの快感が得られるようになると、脳も習慣化してくれるんです。
 逆に、ノルマを課して苦痛を感じるような続け方をしていたら、習慣化する前に挫折します。ダイエットするために嫌いなジョギングを少しずつ始めるよりも、泳ぐことが好きなら水泳を少しずつ始めた方がいい。もともと苦痛にならないことなら、仮に途中でやめてしまったとしても復活のハードルは低くなりますから。
── ジョギングで、走った距離と消費したカロリーを計測するアプリなどがありますが、そういったツールは有効ですか?
 有効です。人間は自分の行動結果を数字で定量的にフィードバックされると、続けるモチベーションにつながる生き物。だから、なんとなく走るよりも、記録を残せるツールを使った方が効果的ですよ。
 最後に、生活をガラリと変える大きな習慣変容は、脳にとって強烈な違和感になります。だから、変えないといけない強い理由や目的が必要になる。
 それよりも、痛みを伴わずに習慣化できそうな、ハードルの低い小さなことから始めると、新しい習慣が身に付く成功体験が増えて、少しハードな習慣化にも挑戦しやすくなります。
 爽快感や楽しさなどの「小さな報酬」が習慣化につながります。そのサイクルを回して、なりたい自分に近づけるよう、まずは小さな一歩を踏み出してみては、いかがでしょうか。
(取材・編集:金井明日香 構成:田村朋美 撮影:小島マサヒロ デザイン:九喜洋介)