【佐山×北野】労働市場は新時代へ突入。トップは「顔出し」せよ

2019/5/29
現役社員や元社員のクチコミによって個人の就職・転職を支援するVorkersが、「OpenWork(オープンワーク)」に生まれ変わった。昭和・平成型の働き方がもはや限界を迎えた今、企業はどのような姿勢で社員の本音に向き合うべきなのか。

今回はスカイマーク代表取締役会長・インテグラル代表取締役パートナーの佐山展生氏と、ワンキャリア最高戦略責任者でOpenWork戦略担当ディレクターへの就任を発表したばかりの北野唯我氏が、OpenWorkの価値について語り合い、新しい時代を生き抜くための企業と経営者のあり方を提示する。

ひと目見て「いける」と思った

──創業から12年たち、一定の地位を築いているOpenWorkですが、お二人は旧Vorkers時代からサービスをどのように見ていましたか?
佐山 初めて見たときに、これは「いける」と思いました。
 例えば、就活生による“人気企業ランキング”がありますよね? あれは、一橋大学の楠木建教授が言われるように、ラーメンを食べたことはないけどおいしそうな店の順位をつけているラーメン屋ランキングみたいなもの。ランクインした企業が実際に良い企業かどうかはわかりません。
 その点、OpenWorkの評価スコアは元社員、現役社員による評価だから信憑(しんぴょう)性が高い。経営者の資質まで的確に反映していると思います。
北野 佐山さんは、どうしてそう思われたのですか?
佐山 私は仕事柄、さまざまな企業の経営者と会うでしょ? 経営トップと会って、OpenWorkのその企業の評価を見ると、そのトップの経営者としての資質と評価にかなりの相関関係があることを実感しています。
 経営者と会ったとき、その印象で企業の評価スコアを予想してみると、かなり当たるんですよ。「この社長の下で働く社員は大変だろうな」と思うと、やはりスコアが低い(笑)。
 実際、私がOpenWorkを紹介したあるメガバンクの幹部は顧客となる企業のスコアを見てみることにしたそうです。それだけOpenWorkのスコアは、会社の実態評価に近く、信頼性がかなり高い数値だと思います。
北野 なるほど。場数を踏んできた佐山さんの直感と評価スコアに違いが少ないわけですね。

OpenWorkの理念に共感し戦略担当ディレクターに

北野 僕が思うOpenWorkの価値は、経営を科学するための検証可能な土台ができたこと。
 企業の実態の評価はこれまで、どちらかというと「感覚頼み」のところがありました。「あの部署やばそう」「あの人は今きつそうだな」というのは人間に対する嗅覚の鋭い人しか見抜けなかった。
 OpenWorkの評価スコアはトップの能力や組織の状態、社風といった定性的なものを数値化し、可視化した点が偉大です。人間ドックのように、企業の中身がどうなっているかがつぶさにわかるから、うまく活用すればさまざまな打ち手を考える材料にできます。
 お声がけいただき、今年1月からOpenWorkの戦略担当ディレクターを務めています。私が執行役員を務めるワンキャリアとの連携を強化すれば、「本当に日本を変えられる」と思ったこと、そして社長の増井さんや副社長の麻野さんと「一緒に働いてみたい」と思ったからです。OpenWorkの一員として、働きがいがある社会をつくるお手伝いができることにワクワクしています。

評価スコアは「社長と企業の通信簿」

──OpenWorkの評価スコアは、その企業のトップの資質や能力に大きく影響を受けるのでしょうか?
佐山 私は「社長の通信簿」の意味合いが強いと思いますね。
 銀行なら支店長、野球やサッカーなら監督やコーチが代わるだけでガラッと変わるでしょ? 人間の集団はトップで決まるんです。企業の価値は9割以上社長で決まる。だから、社長に会っただけで評価スコアの見当がつくんです。
北野 興味深いです。僕が役員を務めるワンキャリアでも働きがいを表すエンゲージメントスコアを毎月測定しているのですが、これがチームリーダーでガラッと変わるんです。リーダーが代わると、たった1カ月でメンバーの働きがいがぐんと上がることがあって。
佐山 組織の規模が小さいほど、社長やリーダーが組織に与える影響は大きくなりますからね。
 ただ、数千人規模までの企業にとっては「社長の通信簿」なのですが、数万人以上の規模の大企業になると少し意味合いが変わります。
 大企業では、社長の影響力は薄まります。だから大企業のスコアは、社長の通信簿というより組織の状態を表す「企業の通信簿」的な意味合いが強くなる。

企業は評価スコアをどう生かすべきか

──「社長・企業の通信簿」となるスコアに企業はどう向き合うべきでしょうか?
北野 僕は2つあると思っています。1つは「企業がうそをつくことはマイナスだと認識すること」、2つ目が「企業がどの方向に進んでいるかを見るための指標として使う」です。
 まず1つ目。求人広告ではいいことを言っているのに、入社してみたら「全然違った」「広告はうそじゃないか」と印象が変わることがあります。対外的なイメージはとてもいいのに評価スコアが2点台の企業もある。
 これは外見と中身にギャップがある、つまり「期待値を下回った」状態。企業にとっては、明らかにマイナスです。
 このギャップを埋めるためにも企業は評価スコアを上げていくべきだと思うし、働きがいを示すスコアがもっと社会に浸透してほしいと思います。
──2つ目の「企業が間違った方向に行っていないかを見る指標として使う」とは?
北野 実はこの評価スコアって、数字がものすごく良い企業とものすごく悪い企業はあえて見る必要ないと思うんです。
 例えば、OpenWork上位に常にランクインするGoogleについては、OpenWorkがなくても“働きがいのある企業”だとみんなが知っています。逆に事件を起こすようなブラックな企業はメディアの報道によってさらされてしまい、社会の知るところとなるでしょう。
 本当にスコアが必要なのは、それ以外の90パーセントの企業。エラーを起こして少しスコアが下がった場合、クチコミを見て改善や対策を講じたり、その成果が出たかどうかをスコアの変動で検証したりしてほしいですね。
 スコア自体が、3.2か3.3かという数値そのものに本質的な意味はありません。

企業は3年で変わることができる

佐山 まったく同感です。重要なのは変化率や差分。それらを見て、会社が今向かっているのは良い方向か、悪い方向かを判断すべきです。4.0が3.8に下がってきたら、何か悪いことが起こっている、と考える。
 企業は3年あれば十分に変われるんです。OpenWorkのような自社の状態をモニタリングできる機能や指標があるのだから、経営者は評価スコアを「自社の通信簿」ととらえて活用すべきです。
 私もスカイマークの評価スコアは気にしていますよ。まだまだ取り組みが必要なことがいっぱいありますが、ありがたいことに今少しずつ上昇していて、業務改善や組織改革の効果が表れてきたと実感しています。逆に下がってきたら、経営者として原因を探り、対策を打たないといけないでしょう。
北野 「3年で企業は変われるか」という視点で自社の評価スコアを見るのもいいかもしれませんね。
 今、手元に2015年と2018年で比較して大きく評価スコアが改善した企業のランキングがあるのですが、これを見るとスコアが改善したのは社長が代替わりした企業ばかりではないようです。
各年の現職回答数10件以上の企業に限定し、小数点第5位までを元に集計
佐山 社長が代わらずとも、社員の評価が良くなっているということは、各セクションのヘッドを会社がうまく運営している、会社の仕組みが良くなってきているなど、さまざまな要因が絡んでいるのでしょう。

働きがいに最も影響するのは給与ではない

──評価スコアによって「勝つ企業」もあれば「負ける企業」も出てくると思います。今後、評価される「勝つ企業」はどんな企業になると思いますか?
北野 人をどれだけ育てられるか、だと思います。
 OpenWorkの評価スコアは「待遇の満足度」「社員の士気」「風通しの良さ」「社員の相互尊重」「20代の成長環境」「人材の長期育成」「人事評価の適正感」「法令順守意識」の8つの評価指標をもとに算出しています。
 これらのなかで総合評価との相関が最も強いのは、給与の良し悪しに代表される「待遇の満足度」と思うかもしれませんが、実は違うんです。
 一番は「人材の長期育成」、次点が「社員の士気」です。
総合評価と8項目の評価指標の相関を割り出し、ランキング化
 僕の大好きな言葉に、「その企業の1年後を見たければ営業力を見よ。その企業の3年後を見たければ商品力を見よ。その企業の10年後を見たければ採用力を見よ」というのがあります。
 この続きをつくるなら、「企業の100年後を見たければ、人材の育成力を見よ」だと思います。100年以上繁栄を続けている組織といえば、「国」ですが、長期的な国力を決めるのは教育、人を育てる力ですから。

社員の働きがいを上げることは経営者の責任である

佐山 もちろん企業は利益を出さないと話になりませんから、まずは事業価値を上げること。ただ、利益の追求だけではダメで、経営者は社員の働きがいもちゃんと上げていかなければなりません。
 この図を見てください。縦軸に収入(経済的満足度)、横軸にやりがい(精神的満足度)を取ってみます。
 同じ収入でやりがいが上がったり、同じやりがいで収入が上がると満足度は上がりますよね。しかし、少しやりがいは減るが収入は少し上がると、まあいいかと同じ満足度になります。これが同じ満足度の曲線、等価値曲線になります。
 例えば、新入社員のときは給料が低くても、やる気に満ちあふれているので、高いやりがいを感じているものです。この●のポイントにいます。しばらくは給料も上がり、やる気も上がって、右上に向かって動いて満足度は増加します。
 しかし、時間がたつと給料は上がっていきますが、やりたくないこともさせられたり、だんだんやる気や働きがいが下がり始め、そしてある年齢になれば給与も頭打ちになり下がり始めるかもしれません(図の曲線の動き)。こういうパターンも少なくないのが実情ではないでしょうか。
北野 曲線がとんでもない動きをしていますね(笑)。
佐山 OpenWorkは、この社員の働きがい曲線が描ける精神的満足度の定量化を可能にしこの評価軸を生み出したわけです。
 我々、経営者は、社員のみなさんの収入とやりがい両方を年々上げていける経営を目指すべきです(右上に伸びる図の点線の動き)。経営者が経済的な満足度と精神的な満足度、両方を意識した経営をすればその企業は活性化し、いい人材も集まるようになるでしょう。

レガシー企業を変革するただ一つの可能性

北野 いわゆるレガシー企業に代表される大企業がスコアを改善するにはどうすればいいと思われますか?
佐山 うーん、正直レガシー企業を変えるのはかなり難しい。
 大企業になれば社長の影響力は薄まるとはいっても、やはり企業を変えるのはトップです。ミニバイクぐらいの規模なら社長ひとりで動かせますが、空母みたいな大企業だとひとりでは簡単には動かない。ただ、変えられる可能性がまったくないわけではありません。
北野 変えられる可能性を見極めるポイントは?
佐山 「やる気」でしょうね。OpenWorkの評価スコアでいえば「社員の士気」が高いところ。
 この資料で見ると、レガシー企業は「社員の士気」が2点台と低いでしょう? これはすべての事業部を合わせた平均で、もうどうしようもない部署も混ざっているからこんな数字になる。
現在の時価総額ランキング上位であり、平成に躍進した4社を「平成ビッグ4企業」としてピックアップ。一方、平成元年の時価総額ランキングでは上位だったが、その後上位から沈んだ4社を「レガシー企業」とした(2019年4月集計時点の数値)
 大きな会社全体をいっぺんに変えるのは難しいので、まずは事業部で切り分ける。そしてそれぞれやる気で見極めて、やる気のあるところは伸ばし、ないところは対策を打ってそれでもだめなら撤退する。
 どんな手を打ってもやる気が下がっている部署は社員の士気を上げるシナリオをもう描けなくなっているわけですから。
北野 評価スコアをもとに変わる可能性の高い部署を見つけ、そこを伸ばすと。評価スコアの新しい活用法ですね。実際に、大企業の事業部ごとに評価スコアを出したらまったく違う結果が出てくるでしょう。
佐山 レガシー企業を変えたいのなら、まずはそのままではびくともしない巨岩を切り分けて、動かせる単位にすることです。

OpenWorkの第一歩、トップは「顔出し」せよ

──OpenWorkによって企業の実態が明らかになる時代に、企業に求められる意識は?
佐山 現実から目をそむけないことですね。評価スコアは信頼性の高い「社長や自社の通信簿」ですから、それにいかに向き合えるか。
北野 企業は今後、管理から透明化へ向かうと思います。これまでは企業が社員を囲い込んで管理してきましたが、これからは人材の流動化によって企業の実態が可視化され、誰でも見られるものになる。企業は透明かつフェアであることが重視されていくはずです。
 そこでまずやるべきことは、経営者の「顔出し」だと僕は思います。佐山さんがおっしゃるように経営者は企業にとって重要な要素。トップが何を考え、何をしているのかを社員に見せる努力をもっとしたほうがいい。具体的には経営陣同士のSlackでのやりとりや財務諸表を見せるとかでもいいかもしれない。
佐山 私は2015年9月にスカイマークの会長に就任してから、毎週欠かさず写真付きの「さやま便り」を全社員に送っています。トップの「顔出し」です。前の週にどこへ行ってどんなことをしたとか、事業に対する思いをつづっています。写真を撮り、トリミングや色補正まで自分でやるので3時間もかかっちゃって大変ですが。
北野 え? 佐山さんがご自分でつくるんですか。
佐山 自分でつくるのが重要なんです。ただ、その効果は大きいです。スカイマークが飛んでいる全国11カ所、どの空港でも社員が私を認識してくれていて、声をかけられる。毎週私のメールアドレスと携帯番号を載せているから、社員からの相談や提案、飲み会の誘いも来ます。
 トップが日々何を考え、何をしているか、どこを目指すのかを全社員に自分で伝えるのが経営者の仕事だと思います。いくら素晴らしいことを会議室で言っても、伝わるのはせいぜい20、30人。それで企業全体を動かすことはできません。頻繁に、全社員に、自分の考えや日々の動きを伝えることによって初めて、人は動き、会社が変わるのだと思います。
北野 たしかに。スポーツなら監督の顔を知らずにプレーするとかありえないのに、実際の企業、とくに大企業ほど、社長が「何をしているかわからない人」になってしまっています。
佐山 トップが頭の中を社員にオープンにして組織や社員と真剣に向き合えば、それはスコアに反映されます。その経営姿勢こそが風通しのいい企業、ひいては透明性の高い労働市場をつくっていくのだと思います。
(構成:横山瑠美 編集:樫本倫子 写真:的野弘路 デザイン:堤香菜)
【働きがい研究所 by OpenWork】
OpenWorkデータに基づく「働きがい」の分析結果を随時リポート。就職、転職前だけでなく、働き方について考える参考にぜひ一読を。

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