巨大テック企業をはるかに超える

ウーバー・テクノロジーズは、不調に終わった新規株式公開(IPO)の直前、交通や雇用、運転手の賃金、ベンチャーキャピタル(VC)投資、サンフランシスコの住宅価格など、さまざまな角度から影響力を分析されていた。
しかし、とくにテクノロジー業界で正しく評価されていない、ウーバーの「遺産」がある。スタートアップの立ち上げに与えている影響だ。
ベンチャーキャピタル、ウェーブ・キャピタル(Wave Capital)のジェネラルパートナー、デイビッド・ローゼンタールによれば、ウーバーの成功を再現したいと望む(投資家にとっては喜ばしいことだ)元従業員たちが創業したスタートアップは34社に上るという。
それぞれの歴史における同時期に、グーグル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムといった企業から生まれたスタートアップの数をはるかに上回っている。
こうしたスタートアップのグループを「ウーバーリング」とでも呼ぶことにしよう。
いくつかのウーバーリングは、ウーバーと同様、輸送に注力している。バード・ライズ(Bird Rides)は電動スクーターの新興企業で、最新の評価額は約20億ドル。ビーム(Beam)は、東南アジアで電動スクーターのレンタルを行っている。
アイク(Ike)とコディアック・ロボティクス(Kodiak Robotics)は、自動運転トラックのスタートアップだ。
ウーバーのCEOだったトラビス・カラニックも、クラウドキッチンズ(CloudKitchens)を立ち上げ、デリバリー専門店のための厨房レンタルサービスを開始した。古巣と競合することになるかどうかはまだわからない。

メンタルヘルスや医療サービスも

現実世界で人やモノを運ぶこととは無関係なウーバーリングもある。
ゴールドマン・サックス・グループからウーバーに入り、物議を醸している自動車リース事業の責任者を務めたアンドリュー・チェーピンは、オンライン・セラピー・サービスを提供するベイシス(Basis)を創業した。
同氏は「Medium」のエッセイで「メンタルヘルスの問題を解決するには、博士号を持つ専門家が必要という概念を覆す」と宣言している。
ウーバーの本拠地で配車事業を指揮していたイルヤ・アビゾフは、医師による高額な診療に代わるサービスとして、オンラインで患者と医師を結びつけるフォワード(Forward)を立ち上げた。
ウーバーでクリエイティブ戦略を担当していたカーリー・レイヒーは、モダン・ファーティリティー(Modern Fertility)を共同創業した。自宅で不妊治療検査や関連情報が受けられるサービスだ。

ウーバー出身者が「多産」な理由

なぜ、ウーバー出身者はこれほど多産なのだろうか。
最も明白な理由は、資金を持っていることだ。初期の従業員たちはIPO前に株式を売却し、家を購入できるくらいの資金を手にした。その結果、リスクを取る余裕が生まれたのだ。
ウーバーの起業的な文化も影響していると、ローゼンタールは考えている。初期のウーバーは「極めて分権的」で、各拠点の責任者が「大企業の従業員というよりは、ミニCEOに近い」権限を享受していたという。
そのような役割に秀でている人物は「『典型的な』従業員より起業家に向いている」とローゼンタールは分析する。
問題は、これらのスタートアップが、ウーバーの成功だけでなく、同社が法や規制に対してとっていた敵対的な態度まで再現しないかどうかだ。
電動スクーターが都市の道路を安全に走行できるか、電動スクーター会社は利益を得られるかといった問題はあるものの、現在のところ、ウーバーリングの振る舞いには問題はないように見える。彼らはおそらく古巣から学ぶところがあったのだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Brad Stone記者、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:©2019 Bloomberg L.P)
©2019 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.