僕らは採用を“我慢する”と決めた

2019/5/15
2016年夏のとある休日。三井物産の稲田大輔と、リクルートの中下真はその日、実に8時間をかけて侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を交わしていた。
自分たちのアイデアで、本当に世の中を動かせるのか。これをビジネスに落とし込んだとき、一歩目はどういう形にするのか。
それまでもよく会って、お互いに考えていることを話してきた間柄だ。しかし、この日だけは違った。
議論を終えて食事をした帰り道を歩きながら、2人の心の中には、ある種の“確信”が宿っていたに違いない。
「これってもう、後戻りできない気がするね」
「楽しいよね」
ワクワク感が止まらなくなった2人は、とはいえ感情だけではどうしようもない「事業」としてのステップを、その後3カ月くらいかけて詰めていく。そして、約半年後の2017年4月、ついに起業に至る──
2019年5月、新たな資金調達を実施し、累計約20億円もの資金を集めた教育テックスタートアップ「atama plus(アタマプラス)」。
代表の稲田大輔(特集第1回)や、テクノロジーを担当する川原尊徳(第2回)については、メディアで取り上げられることも少なくない。しかし、この会社を知るにはもう1人、理解しなければならない人物がいる。
そんな最後のパズルのピースこそ、中下真。リクルート最大事業のHR(人材)部門の年間MVPを入社5年目で獲得したトップセールスだ。社長秘書を経て、31歳でリクルート中国(RGFチャイナ)の社長を務め上げた人物である。
中下真(なかした・まこと)アタマプラス共同創業者
鹿児島県出身。小さい時から教師になるのが夢で東京大学教育学部へ進学。ビジネスにも興味を持ち、教育事業を展開していたリクルートに入社。人事、営業、経営企画、リクルートHD社長秘書、リクルート中国社長など13年間多様な経験を積み、2017年atama plusを創業。代表の稲田大輔とは彼の髪がふさふさの時から友達。
アタマプラスがここまで成長してきた理由について、代表の稲田は、中下というトップセールスに一切営業をさせなかったことだ、と分析する。
それほど完成度の高いプロダクトを磨き上げ、ゆえに中下はスタートアップにとって最も大事な「採用」に集中できたというのだ。
最終回の本日は、これまでほとんど光が当たることのなかった3人目の共同創業者・中下真のインタビューをお届けする。
*第1回
【新】新しい「数学の教科書」をつくろう
*第2回
教えてAI 先⽣。あなたが学習し直すべき「弱点」
「やりたいことをやる人」で集まる
──なぜ、東大同期の稲田さんや川原さんと一緒に起業したんですか?
中下 もともと僕は、ずっと教育に興味があった。小学校の時から先生になりたかったんです。大学では教育学部に進み、文部科学省に行こうかとも思ったけど、キャラじゃないなと。
僕は、立場が上だろうが下だろうが、関係なく何でも言うタイプだし、「こうしたい」と思ったら、自ら動かしにいく。そういう性格なんです。
霞が関は、そんな自分を受け入れてくれる場所ではなさそうだと思って、当時は高校生の進学支援をやっていた、民間のリクルートを選んだ。
リクルートが嫌になったわけではなくて、社長秘書もやったし、リクルート中国(RGFチャイナ)の社長もやって、大好きな会社なんだけど。
でも僕は、何か世の中を動かそうと思ったら、誰とやるかってめちゃくちゃ大事だと思ってる。それは別に、(代表の)稲田がよかったとかじゃなく、どんなメンバーでやるかが大事。
つまり、やりたいことをやるために、会社を作ってやる。本当にこれがやりたい人で集まらないと、いくら土台の上に何を積み重ねても、積み重ならない。
リクルートにはリクルートのやりたいことがあって、そこに共感する人が集まっている。
同じように、僕らには僕らのやりたいことがあって、そういう人たちが集まってやる。その方法が、これを実現するには一番いい。
起業したのは、自分たちでやりたいなあ、と思ったのが大きいですね。
起業にこだわってたわけじゃない
──起業そのものには、こだわりはない。
うん。
──起業前、稲田さんと徹底議論して、ビジネスとしても「勝ち筋」が見えたと。
いや、ビジネスとしての勝ち筋って言われると、すごく違和感があるんだよな。
勝ち筋なんて、1回見えたと思っても変わるということを、リクルート時代にずっと体験してきているから。見えはしないし、作ればいい。やりながらいくらでも変わるから。その都度、勝ち筋は探せばいい。
むしろ、「本当にこれって世の中を動かせるかな」「どうやったら動かせるかな」とずっと話してきた感じ。
──「世の中を動かす」とは。
いきなり明日、日本全国の「学び方」が大きく変わるとは思わなかったんだ。
いきなり「教育制度を変えるべきだー!」と言っても変わらない。だから、実質的に変わっていくステップが見えるかというのは、結構大事にした記憶があるな。
──学び方は、どう変わらなきゃいけないと?
やっぱり、一人ひとりに合わせたものにしたい。それが一番かな。
実はそこに、誰もがすごく苦しみを覚えている。勉強だけで言うと、得意な子も不得意な子もいる。音楽でも図工でもそう。
僕、音楽がすごく苦手なんだけどさ。学校で、いきなりむちゃくちゃうまく歌えって言われるテストが始まっても、なかなか苦しくて。僕からすると、もっと基礎から教えてもらいたいなって思うし。