友人どうしで創設した会社が成功

 10年前、僕は親友と一緒に事業を始めた。当然のことながら、親しい友人と会社を立ち上げるのは難しいと、いろいろな人から言われた。
 しかし、実際には友人どうしが創設した企業は多い。元ハーバード・ビジネススクール(現在は南カリフォルニア大学)のノーム・ワッサーマン教授が1万社のテクノロジー系スタートアップ企業を対象に行った調査によると、創業者の40%が事業を始める前から友人どうしだったという。
 この調査結果は、彼の著書『起業家はどこで選択を誤るのか』にまとめられたが、そこでは友人どうしで企業を設立した場合、失敗の確率が高くなることも示された。創業者チームに友人が一人増えるごとに、創業者が会社を離れる確率が30%増えるという。
 僕はこの数字を疑ったりはしない。しかし、大学時代のルームメイトで33年来の親友でもあるアダム・フィンガーマンとアプリ開発会社「アークタッチ」を創業したことは、私が人生で下した一番良い、正しい選択だった。
 設立から10年が経ったいま、僕はこれまで道のりを誇りに感じている。僕らは会社を2人のチームから200人のチームへと成長させ、世界でもトップクラスのこのアプリ開発事業を経営している。そして、さらに強い絆を持った親友になっている。
 この記事では、親友と起業しようと考えている人のために、僕ら2人の経験から得られた5つのポイントをお教えしよう。

1.お互いについて正しく知る

 スタートアップの設立には適切なスキルが不可欠だ。だからこそ、親友のスキルを正しく把握することが必要だ。「友だち」という信頼感から、その仕事上の能力を過剰に見積もってしまうことは多い。
 僕がアダムとアークタッチを設立したとき、僕らはお互いを非常によく知っていた。友人としてだけでなく、仕事上の関係もあった。大学卒業後、僕らはともにアップルで働き、3社のスタートアップで一緒に仕事をした。彼に何ができるか僕は知っていたし、彼のほうも同じだった。
 また、僕らはお互いに完璧に補完し合えることもわかっていた。僕らのバックグラウンドはともにエンジニアリングと製品管理で共通していたが、ものの考え方は大きく異なっていた。僕はどちらかというとリスク志向で、新しいチャンスにワクワクする。アダムのほうは実行面に優れていて、僕のアイデアが脇道に逸れていたり、単純にバカげていたりすると、ためらわずにそれを指摘する。僕らは陰と陽なのだ。
 もしあなたが一緒に仕事をしたことがない友人と共同創業を考えているとしたら、その友人の仕事ぶりをどう理解すればいいだろうか。一番効果的なのは、相手についての話はお互いの元同僚に聞くという裏技だ。
 失敗や対立の解決、弱みなど、聞きにくいことも掘り下げよう。そして、わかったことをお互いが話し合う。こうすることで、事業を長年存続させるのに欠かせない、オープンなコミュニケーションの習慣が確立され、共同創業を中止すべきだという赤信号も見えてくるかもしれない。

2. すぐに忘れる

 仕事上での対立は、それを解決しようとする限り健全なものだ。しかし共同創業者と親友関係にあると、その対立は深刻化かつ、ただの「ケンカ」になるかもしれない。
 対立を解消する場を設けることは重要だ。そしてそれ以上に重要なのは、すぐに忘れることだ。今日モヤモヤしていることも、明日になればそれほど重大だと思わなくなる。だから次の日に解決を持ちこそう。僕らもこれまでにたくさん対立してきたが、時間をおいて解決すれば、そもそもなぜ腹が立ったかさえ覚えていないこともあった。

3. 友情を障害ではなく資産とする

 もし友人と事業を立ち上げることに成功しても、絶対に「これからは友だちではなく共同経営者」と区別して接するべきではない。友情あっての起業なのだし、つまるところ、スタートアップを運営するなら、それに費やす時間は膨大だ。それほど多くの時間をオフィスで過ごすときに、仕事とプライベートの境界線を分けなくたっていい。
 アダムと僕のミーティングでは、ほとんど毎回、仕事とプライベートの両方について話し合ってきた。こうして人生を分かち合うことが、何にも増して、私たちの人間らしさを強めている。僕たちの友情はチーム全体にも共有されているように思う。それによって、ワークライフ・バランスという絵に描いたような概念も、少し現実的なものになっているようだ。

4. 2人とも出資する

 友人と会社を立ち上げるなら、迷わず2人で「資金」を投じるべきだ。
 もちろん、事業に大きく賭けられるだけの資金を誰もが持っているわけではない。だが、創業者自身が自分のアイデアを十分に信じて、自分のお金を投じられるくらいでないのであれば、もっと別のことをやったほうがいいだろう。
 共同創業者がいる場合、両者がそれぞれに自分の資金を投じることが非常に大切だ。もし、1人しか資金を拠出しなかったら、やがて問題が生じてくる恐れがある。あるいは、事業が大成功した場合、当初に合意した条件よりも、出資した側がより多くを得る権利があると思い始めるかもしれない。

5. 経営の主導権と意思決定を明確かつ公平に分ける

 一般的には、共同創業者間で経営の主導権を平等に保った状態で、事業を運営することはできないと考えられている。しかし、この常識は間違っていると、アダムと僕は証明した。そのことを私は誇りに思っている。
 10年の間、僕らは経営の主導権と意思決定を半々にしてきた。書類上は僕がアークタッチのCEO(最高経営責任者)で、アダムは「最高経験責任者」だ。
 しかし、実際には僕らは共同リーダーで、困難な意思決定にともに取り組んでいる。これまでには意見が激しく対立したこともあったが、そうした時こそ私たちの関係、および親友ならではの信頼感が資産となる。
 僕らは誰が最終的な意思決定者となるかを明確に記していない。そうした文書は限られた範囲しかカバーしないので、僕はそういう文書を信じていない。たいていの意見の対立は、予測できないものなのだ。
 だからアダムと僕は意思決定において、文書にはなっていない公平の基準を採用している。
 ある問題に関して意見が分かれたら、それぞれに主張を述べる。そして一緒に意思決定を行う。だから、時には相手に譲歩することもある。また、どうしても譲りたくない問題の場合、この先の意思決定での譲歩を約束することもある。長年の公平感が、意思決定を動かしていく。
 契約書にも落とし込めないのに、どうしたら何が公平かわかるのだろうか。
 ここで重要になるのが信頼感だ。もしアダムが、彼にとってこの意思決定は他の意思決定より重要だと言うのであれば、僕は彼を信じる。そして、僕が同じことをアダムに言ったら、僕は彼を信じる。
 これが、30年以上の友情によって築かれた信頼感だ。この信頼感が僕らの事業にうまく生かされ、事業は10年経った今も続いている。
執筆者のEric N. Shapiroは、サンフランシスコのアプリ開発企業、アークタッチの共同創業者でCEOでもある。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Eric N. Shapiro、翻訳:東方雅美、写真提供:アークタッチ)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with JEEP.