従業員の多様性や給与、昇進判断など、企業の人事部はこれまで以上にデータを分析する必要に迫られている。そのすべてをこなし、さらにそれ以上のものを提供しようとしているのが、トゥワイン(Twine)だ。

ウォートン・スクール同窓生が創業

職場におけるジェンダーギャップや多様性への配慮が大きな関心を集める現在、自社のそうした状況を把握しておくことは必要不可欠だ。人事担当者は通常、多様性に関する統計値や従業員の給与、業績などの各種データを手にしているが、それらをまとめて簡単に分析する手段は持ち合わせていないことが多い。
そこに好機を見出したのがトゥワイン(Twine)だ。
ニューヨークに拠点を置くスタートアップである同社は、企業の人事部が従業員のデータを整理して分析し、幹部が人事に関する判断を下す際に、より多くの情報を提供できるようにするソフトウェアを手がけている。
顧客企業はダッシュボードを通じて、性別による賃金格差の是正や、多様性に配慮した雇用など、特定の取り組みの進捗度をモニターすることが可能だ。さらには、個々の従業員の業績を評価し、その従業員が昇給や昇進に値するかどうかを判断できるといった細かい分析にも対応している。
トゥワインの共同創業者ジョセフ・クアン(29歳)は「幹部ミーティングの席で、しばしば唐突に持ち上がるそうした問いにも答えられる。通常ならデータを取り出して分析にかけるだけで、何時間、何週間もかかるところだ」と述べる。
クアンは2017年に、ペンシルバニア大学ウォートン・スクール(経営大学院)で同窓だったニキル・スリバスタバ(31歳)とともに、トゥワインを立ち上げた。同社はまだステルスモードであり、2019年中に正式に事業を開始する予定だ。
それでもすでに、メモアプリのエバーノート(Evernote)や、血液検査を手がけるガーダントヘルス(Guardant Health)といった企業に採用されていると、クアンは明かす。ただし、売上高の詳細については言及を控えた。
正式に事業を開始した際には、企業規模やその他の要素に応じて、企業顧客から年間1万~10万ドル単位のサービス料金を徴収する計画だ。
トゥワインはこれまでに、エンジェル投資家や、カリフォルニア州メンローパークに本拠を置くベンチャーキャピタル会社トリニティ・ベンチャーズから計270万ドル(約3億円)の資金を調達している。

「ミッション」を探して、3度の試行

他の企業がほしがる製品をうまく思いついたようにみえるトゥワインだが、現在のミッションにたどり着くまでに、創業者チームは3度の試行を繰り返した。
クアンとスリバスタバが最初に思いついたアイデアは、ウォートン・スクールの在院生と修了生のネットワークを使って、職業上の関心が似ている人同士を結ぶという、役に立つマッチメイキングサービスだった。ユーザーがアンケートに回答すると、志望するキャリアに基づいて、アルゴリズムがユーザー同士を結びつける。
2人はウォートン・スクールとの契約を獲得し、最初の2週間で数百人がサービスに登録したと、クアンは述べる。同氏は今も、ウォートン・スクールのサービス運営に協力している。
さらに2人は、また別のビジネスを思いついた。属する業種や関心の対象に基づき、企業の従業員向けにジョブマッチングを行うというものだ。しかし、このアイデアは失敗に終わった。企業に売り込むはずのサービスだったが、企業は通常、人材の流出につながるようなことは望まないものだ。
ここへきて、2人は手詰まりに陥った。いくら分析のスキルがあっても、それを使って解決すべき問題が存在しないのだ。
そこで、クアンとスリバスタバは、聞き取り調査を開始した。ニューヨークとシリコンバレーで、200人を超える企業の最高人材活用責任者と最高人事責任者に、特に困っていることは何か、尋ねたのだ。
その結果判明したのは、複数種類のプラットフォームを利用していて、それらが必ずしも互いに連携していないことから生じる問題だ。
たとえば、従業員の福利厚生管理システム「バンブーHR」(BambooHR)には、採用管理システムも含まれるが、人材獲得ソフトウェアサービスの「グリーンハウス」(Greenhouse)とは連携していない。
これらのツールを単一プラットフォーム上で統合させることができれば、企業にとって大きな助けになることがわかった。人事担当者が、すでに獲得した人材をつなぎとめることに集中できるからだ。
「測定できるものは管理ができる」とクアンは言う。「どんな人材が社を離れ、またどんな理由や条件が人材をとどまらせるかを把握することで、時間や労力をはるかに効果的に費やすことが可能になる」

人事部のテクノロジーは必須事項に

べイン・キャピタル・ベンチャーズのパートナー、サラ・スミスのような投資家は、トゥワインの大きな強みはデータ可視化だと評価する。2018年当時、サンフランシスコに本拠を置き、シード投資を手がけるグラフ・ベンチャーズのパートナーだったスミスは、トゥワインへの投資を提案した。
「企業の人事部がテクノロジーに投資することは、かつてはそれが望ましいというレベルだったが、今では必須事項になった」とスミスは言う。失業率が3.8%前後で推移する現在、企業は従業員をつなぎとめるスキルを磨く必要があり、「そこにトゥワインの大きなチャンスがある」とスミスは述べる。
たしかに、トゥワインには競合も多い。最大のライバルは、人事関連のデータ収集および可視化を手がけるタブロー(Tableau)やルッカー(Looker)といった企業だ。両社が提供するチャートやグラフは、顧客企業が自社の雇用状況を把握するのに役立つ。
ただし、これらのプラットフォームは、質の高いデータを収集するいっぽうで、互いにシームレスに連携していないため、ユーザーはすべてのデータをまとめて分析するのが容易でないと、クアンは指摘する。
さらにトゥワインは、社内に課題を抱えてもいる。クアンによると、同氏はまだ共同創業者からCEO兼リーダーの役割に移行する過程にあるという。
社を率いるためには、現在の営業責任者としての役割を捨てなくてはならない。創業者の1人として、クアンはこれまで見込み客にコンタクトして売り込む役目を担ってきた。今後はその責務を、他の誰かに任せる必要がある。
「創業者にはマジックが働く。熱意があり、市場に詳しいことが、顧客を獲得するのに役立つ。同じような営業担当者を見つけてバトンを渡すというのは、これまでにない課題だ」とクアンは述べた。
COMPANY PROFILE
社名:トゥワイン(Twine)
本社所在地:ニューヨーク市
創業:2017年
2018年売上高:非公開
従業員数:8名
原文はこちら(英語)。
(執筆:Emily Canal/Staff writer, Inc.com、翻訳:高橋朋子/ガリレオ、写真:metamorworks/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.