【藤井薫】 強者ばかりがリーダーになるとは限らない

2019/4/27
4月23日に放送された『The UPDATE』では「令和時代に稼げるスキルとは?」と題して、ライフイズテック取締役の讃井康智氏、"4人の子供全員を東大理3に合格させたプロママ"佐藤亮子氏、リクナビNEXT編集長の藤井薫氏、Creative Strategist 工藤拓真氏の4名をゲストに迎え、令和時代に働く若者は、どのようなスキルを身につけるべきか、議論が行われた。
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番組の最後に、古坂大魔王が最も優れていた発言として選ぶ「King of Comment」は、藤井氏の「僕はヘンなおじさん」と「可愛げが必要」が選ばれた。
番組冒頭では、「ケンタウロスのような人」こそが、令和時代に必要なスキルだと述べていた藤井氏に、改めてこれからの時代を生き抜く術について伺った。

価値を決める需要者の「心」を感じなければいけない

「ヘンなおじさん」について意味を問うと、藤井氏はこう答えた。
藤井 ヘンにはいくつもの漢字が当てはまりますよね。変化の”変”だったり、異質なものを編み上げる”編”だったり…。
その中でも、もっとも重要なヘンは、ボーダーを超えていくという意味で、辺境の”辺”です。
まず、これからの時代において抗えない波がいくつかあります。人口の減少やテクノロジーの発展、そして、目に見えないものの価値が高くなるサービス経済化などですね。
目に見えないものの価値というのは、たとえば今でいうサブスクリプションサービスなどです。そうなると、”人間が何を欲するのか”を察する力が必要になってきます。
たとえば、砂漠でコーラが売ってたら1000円で買うかもしれないけど、凍えるほど寒い日だったら10円でも買わないかもしれない。
価値というのは、需要者側が決めるものです。
加えて、テクノロジーの発展ですね。現在すでに医者が遠隔治療を行うテレイグジスタンスなどがありますが、今後も我々人間の力はさらに拡張されていくでしょう。
【完全図解】テクノロジーで変わる「仕事の未来」
地球の裏側まで自分の頭や手足が使えるようになる。そうなると、当然、次世代の子どもたちの働き方は、その両親のものとは大きく変わってしまう。
この変化を生き抜く上で必要なのは、テクノロジーというエンジニアリングと、「これだったら1000円出してもいい」と考える人の心を感じる能力、その両方です。
番組では、オックスフォード大学准教授のマイケル・オズボーン氏が選ぶ「2030年に必要とされるスキルBEST20」を紹介。
【未来予測】10年後に「売れるスキル」「廃れるスキル」
たしかに、心理学(2位)や心理療法・カウンセリング(11位)、哲学・神学(12位)など、人間の性質や思想について察知する能力が、いくつもランクインしていた。

先人の叡智を知らなければ、文化は痩せ細る

加えて、藤井氏は未来だけではなく歴史を知ることの重要性も唱える。
藤井 STEM教育(科学・技術・工学・数学の教育分野)ばかりをやるのではなく、ちゃんとこの世界というのは、今は亡き先人たちの思いの上に成り立っているのだ、ということを知っておかないといけません。
たとえば、途中から母国語が英語に変わってしまった国などがいくつかありますが、そうなると祖父母の手記を読むことができない孫世代が出てくるんですね。
今まで積み上げられた叡智を共有されることなく、時代が分断されてしまう。そうなると、文化はやせ細っていきます。
カラオケを想像してみてください。カラオケで歌うことができるのは、過去に聴いた音と、まだ聴こえてない音、そのどちらも想像し理解できるからです。
同じように、過去と未来のどちらも統合することが、今を生きていく上では重要です。
“これからの時代を生き抜く”と考えると、つい未来予測ばかりに気をとられ、過去をないがしろにしがちだが、時代は繰り返すものでもある。
過去から学ぶことは、これからの時代の変化を理解していく上でも、大きな助けになるだろう。

弱者は強者の力を引き出す

また、時代に対してアクションを起こしていく上で、「外道」の存在が必要だと藤井氏は語る。
藤井 時代に大きな変革をもたらすとき、そこには”外道”がいます。当時は、キリストもブッダも外道でした。
正統派とは大きくかけ離れたことをやっていたせいで、この人をこらしめようという勢力もありました。
しかし同時に、そんな外道を認め、むしろ広めていこうとするセカンダリーの人たちもいたんです。世界が変わるときには、必死にやっている可愛げのある人と、一緒に二番目に裸踊りをしてあげるような人の両方がいます。
結果、点が線になって、ムーブメントになる。
このムーブメントが起こるために必要なのは、説得ではありません。この時代を共に生きている、同じ痛みを引き受けている、一緒に生きていきたい、と思ってもらえる”可愛げ”です。
「リーダー」と「フォロワー」の関係性については、箕輪厚介氏が「宗教家がこれからの時代に稼げる仕事だ」と発言。
対して、佐藤亮子氏が「その宗教家に寄っていく人たち(のスキル)はどうなるのか?」と反論するなど、番組内でも議論があった。
歴史は繰り返すとは言うものの、与えることができる強者が一人勝ちし、そのフォロワーである弱者は消耗してしまう、永遠に逆転しない関係性がそこにある、という世界が果たしていいものなのか
藤井 まず、一つ言えるのは、「強者」と「弱者」の関係性が、必ずしも「与える」と「与えられる」の関係性になるとは限らないということですね。
たとえば、人間社会での子どもや老人の存在について考えてみてください。
彼らは若くて働き盛りの人たちに比べたら、仕事もできないし、役にも立たないし、リーダーシップの力も特別にあるわけではないと考えられています。
でも、”めでたい言祝ぐ(ことほぐ)存在”として昔から大切にされてきました。彼らの共通項は“弱々しい”ことです。守ってあげたいと強者の力を誘発するような存在。
つまり、本当にこの社会を作り上げているのは、強者ではなく、彼らが守りたいと思っている相手、弱者なんです。強さとは相対的なものであり、弱者が強者の力を引き出すんです。
お互いにお互いを生かし合っている。そしてこの関係性において、必ずしも強者が「与える」側とは限らないのです。
お遍路さんを思い浮かべてください。彼らお坊さんは、外で立っているとお布施をもらうんですね。そのときに「ありがとう」と言うのは誰か。お布施を”あげた側”の人間です。
”人のために何かをしたい”という思いを引き出してくれたことに対し、感謝するのです。そのとき、お互いの関係は逆転します。施しを受けた相手の方が、「与える」側となっているのです。
つまり、強者ばかりが、リーダーになるとは限らないのです。むしろ、最初は弱々しくてもいい。それでも必死にやっていれば、周りが放っておけない”可愛げ”が出てくるし、結果的に人が集まってきます。
そういう意味で可愛げがあることは、これからの時代を生き抜く上でも、必要なスキルだと思います。

次回は「日本は移民を受け入れるべきか?」

5月7日(火)のテーマは「日本は移民を受け入れるべきか」。
少子高齢化の影響で若者が減少する中、日本政府は、外国人の人材受け入れ拡大を提唱。一方で、日本で働く移民からは、低賃金労働など不当な扱いを受けているという訴えもでてきています。
日本の移民問題について、豪華ゲストと多面的に議論します。
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<執筆:園田もなか、編集:木嵜綾奈、デザイン:斉藤我空>