5台に4台は載っている。謎の巨大サプライヤーが持つモビリティへの影響力

2019/5/17
世界を走る車両の5台に4台はこの会社の部品が入っている──。それが、年商5兆円、自動車部品の世界最大級のグローバルサプライヤー、コンチネンタルの力だ。

ほぼすべての自動車メーカーとの取引があるからこそ、次世代モビリティ環境づくりの中核的存在を担えるという強力な自負がある。この巨大プレイヤーは、どんなビジョンを描いているのか。同社日本法人のトップでモビリティ業界経験30年のプロ、バート・ヴォーフラム氏に語ってもらった。

交通事故をゼロにする

──自動運転やシェアリングサービス、MaaS(Mobility as a Service)など、新しいテクノロジーや仕組みが生まれ、移動の手段(モビリティ)が大きく変わってきている今、コンチネンタルが掲げるビジョンを教えてください。
ヴォーフラム 私は30年間、自動車業界で働いていますが、今が一番エキサイティングです。テクノロジーの発展により、自動車のインテリジェンスは従来にない速度で進化し、ビジネスモデルも多様化しています。こんな激動のモビリティ業界を楽しんでいます。
 例えば、世界ではいまだに年間130万人もの方々が交通事故で命を落としているという悲しい現実があります。日本は劇的に死亡事故を減らしており、2018年には政府が記録を始めた1948年以来最も少なくなりましたが、それでもまだ3532人もの人が亡くなられています。
コンチネンタルは「ビジョンゼロ」を掲げています。これは、交通事故を「過去の遺物」にするというもの。その実現には段階があります。まずは、交通事故での死亡者数をゼロにし、そして負傷者数をゼロに。そして交通事故そのものをなくしたいという考えです。
 交通事故をなくすためには、法整備や教育の充実、モラルやマナーの形成などさまざまな要素が必要ですが、テクノロジーが貢献できる側面も大きいと思います。
 ドライバーの運転をサポートするシステムをつくることができれば、不注意による事故を防ぐことは十分可能です。コンチネンタルは、テクノロジーの部分で次世代の安全なモビリティに貢献したいと考えているのです。
1965年、ドイツ・レーゲンスブルク生まれ。シーメンスAGにて開発、購買、戦略プランニングを担当後、ドイツやアメリカにて複数事業部の地区統括ダイレクター、グローバルR&D責任者などを歴任。2016年7月に来日、シャシー&セーフティー部門日本・韓国事業担当シニア・バイス・プレジデントに就任、同年10月から、シャシー&セーフティー部門の日本における合弁会社コンチネンタル・オートモーティブ株式会社(CAC)のプレジデント&CEOおよびコンチネンタル・ジャパン代表を務める。
──自動車を構成する部品は多種多様ですが、コンチネンタルはどんなジャンルで貢献しているのでしょうか。
私たちがつくる製品は、ほとんどが自動車メーカーに提供するもので、一般ユーザーの方が直接私たちの製品を見ることはあまりなく、イメージが沸かないかもしれませんね。
 コンチネンタルでは、自動車を構成するあらゆる部品をつくっており、全部をご紹介するには少々時間が必要ですが、注力しているのが「安全」「コネクティッド」「インテリジェント」「クリーン」の4分野。この4カテゴリをシャシー&セーフティー、パワートレイン、インテリアとグループ会社などの事業部門で、タイヤまでを含む幅広い製品群を持っています。
 中でも、コンチネンタルのビジョンに直結する「安全」はかなり力を入れている分野です。
 一例を紹介すると、レーダーやセンサー。今では自動車にレーダーやセンサーが付いていることは当たり前になってきましたが、20年前の1999年に高級車を対象にレーダーセンサーの提供を始めました。
 レーダーや各種センサーの導入によって、自動緊急ブレーキが実現し、万が一ドライバーがよそ見をしていても、レーダーセンサーが検知して衝突の被害を未然に防ぐことが可能になったのです。
 導入当時は、高価格帯の車両モデルへの提供でしたが、継続的に開発を行うことで、小型化とコスト削減が可能となり、小型車両にも搭載できるようになりました。すべてのドライバーに安全を提供するという意味で貢献できていると思っています。
 すべての製品に言えますが、インテリジェント化している自動車において、今は単一のスキルだけではクオリティの高い部品は作れません。
 コンチネンタルは、ハードウェア、ソフトウェア、デザインなど多種多様なスペシャリストが籍を置き、「異能」同士が団結し、製品開発に力を注いでいます。こうした人材をすべて社内に抱えているプレイヤーは世界で見てもコンチネンタルだけだという自信があります。
 私の立場で最も重要な仕事は、こうしたスペシャリストがミッションの達成に向けて集中して仕事に取り組める環境をつくることです。
 少し話はそれますが、コンチネンタルの歴史は1871年に遡り、ゴム製品を製造する工場とともに、馬蹄のゴム製緩衝材からスタートいたしました。馬という、ある意味もっとも古いモビリティの「部品」を作っていたということです。
 ゴムという素材にすることによって馬が雪や凍った地面でスリップを起こすことを防ぎ、これによってモビリティが飛躍的に向上するというイノベーションを起こしました。
 その後も1892年にドイツで初めて自転車用空気入りタイヤの生産開始するなど、イノベーティブな商品を生み出す企業として歩み始めたのです。
 常識を疑い自由な発想で、最先端の技術を取り入れ、モノづくりにこだわった証でしょう。
 社員が自由な発想で仕事に取り組めるよう、コンチネンタルの社員は以下の4つの価値観を大切にしています。
 この4つの価値観を浸透させることで、多様なメンバーがそろっているダイバーシティな環境でも一丸となって進んでいけると信じています。

自動車業界の中心、日本からリードする

──コンチネンタルで働くことの醍醐味とは何でしょうか。
 コンチネンタルは完成品としての自動車を製造するメーカーではありません。あくまで、自動車メーカーにテクノロジーを提供するサプライヤーです。
 自動車メーカーは一般的にわかりやすいですし、消費者との直接的なつながりを持てますから、一見するとそちらのほうが魅力的に見えるかもしれません。
 確かに完成品をつくる喜びは大きなものだと思いますが、部品サプライヤーには完成車メーカーにはない醍醐味があると思います。お客様のニーズや課題に合わせたテクノロジーを開発し提案できること、さらに複数のお客様と同時にお取引ができることでしょう。
 しかも、コンチネンタルはグローバルでビジネス展開し、実績を評価していただき、ほぼすべての自動車メーカーとお付き合いができる顧客基盤を築いています。
 米国、欧州、日本の自動車メーカーが販売する車両5台のうち4台に、コンチネンタルの何らかの部品が搭載されているのがその証拠。影響力が大きい仕事に携われる醍醐味があります。
 また、日本で働きつつ、グローバルな仕事ができることは魅力でしょう。コンチネンタル・ジャパンのモットーは、「リーディング・グローバル」です。
 日本には、世界レベルでビジネスを展開する自動車メーカーが複数存在します。世界を代表する自動車メーカーの方々とともに直接仕事ができ、世界チームでコミュニケーションできる。コンチネンタル・ジャパンの魅力は、グローバルネットワークと、大きなビジネススケール、さらに日本で仕事ができる、この組み合わせにあると自負しています。
 また、多様なメンバーがそろっている環境で、自分とは異なる才能とともにチャレンジできる環境があることも自信を持って言えます。
 コンチネンタルの本社はドイツにありますが、ドイツ以外の他の欧州や米国、アジアなど、さまざまな国のメンバーでチームを構成しています。
 同じ考えを持った者同士で仕事をするよりも、ダイバーシティあふれるチームで仕事をしたほうが、いい結果が生まれる可能性も高まりますし、何よりメンバーのキャリアに広がりを与えることができると思っています。
 コンチネンタルには自分の道を自分で模索する自由、チームスピリットがあり、また生涯にわたっての学びをサポートしています。仕事内容も多種多様で、さまざまな分野や部署があるので、限界はありません。日本法人に所属しながらも、他国の拠点で働くことも可能です。
──モビリティはこの先5年、10年先、大きく変化していくでしょう。全く予想がつかない世界が待っているようなイメージですが、コンチネンタルはサプライヤーとしてどんな未来像を描いていますか。
 手前みそですが、コンチネンタルは今、とても恵まれたポジションにいると思います。これまでの実績がもたらした、世界のほぼすべての自動車メーカーという幅広いカスタマー基盤で、私たちの技術を提供することができる。
 大きな変化の渦中にあり、私たちの仕事は単に自動車を進化させることではなく、モビリティ全体に変革を起こすことだと思っています。その意味で、社会的存在価値、社会的役割は非常に大きいと感じています。
 たとえ完成車をつくっていないとしても、10年後は「モビリティと言えば、コンチネンタル」と多くの方々が連想してくださる状況が目標です。この目標の達成に向け、今いるメンバー、そしてこれから迎え入れるメンバーとともにチームとして進んでいきたいです。新たなモビリティ世界を創造してみたい方にはぴったりの職場だと思います。
(取材・編集:木村剛士 構成:狩野綾子 撮影:森カズシゲ デザイン:黒田早希)