仕事のパフォーマンスは「歯」が上げる。働く人が歯に投資すべき理由

2019/4/26
健康な身体をつくるため、食事に気を配り、ジムにも通い、毎年健康診断にも行っている──。そんな健康志向のビジネスパーソンも見落とす意外な盲点、それは「歯」だ。

口内環境は全身の健康に大きく影響するだけでなく、歯の治療となれば多大な時間とお金がかかる。第一印象を決めるうえでも、口元は重要なファクター。それにもかかわらず、「歯が痛くなったら歯医者に行けば良い」と日々のケアを怠っている人は、少なくないのではないか。

ビジネスパーソンが健康的に働き、最高のパフォーマンスを出せるようにするためには、どんなセルフケアが最適なのか。『デキるビジネスマンはなぜ歯がきれいなのか?』の著者である歯科医師の吉野敏明氏と、日本では珍しいCHO(最高健康責任者)室を立ち上げたDeNAの平井孝幸氏に聞いた。

健康は「口」から始まる

── 日頃から健康に留意しているビジネスパーソンも、意外に歯や口のことは、見落としがちに感じます。
吉野 ほとんどの病気は口から始まっている。そう言っても過言ではないくらい、身体の部位は互いに働きかけていて、口内環境が身体に及ぼす影響は大きいんです。
 私の家系は、300年ほど続く東洋医学を専門とする一族で、家の中に薬を挽く炉があったり、タンスの中にあらゆる漢方薬が入っていたりという環境で育ちました。
 西洋医学は、医学を歯科や内科という風に分類し、症状に対して抗生物質や鎮痛剤を処方する対症療法的な学問です。
 一方で東洋医学では細かい分類はせず、全身を包括的に診ることで、病気の根本原因を除去しようとします。
 たとえばうつ病の患者様は、うつ症状の他にも、難聴や歯ぎしり、それに付随する頭痛や腰痛などのさまざまな身体症状を訴えます。
 それらの症状に対して、うつ症状は精神科、歯ぎしりは歯科と分けていては、根本的な心の治療にはなりません。
 こういった場合、東洋医学に基づく噛み合わせの治療から始めることが、有効なケースも実は多いのです。
 私は歯科医師ですが、目指しているのは現代の「口中医」なんです。口中医は明治初めまで1200年近く日本の医療の中枢を担った医術家で、口から全身を診るのが特徴です。
 体の一部分を診ても分からないことが、全身を包括的に診て初めて分かることも多々あります。
 現代医学の最先端技術と、東洋医学の知恵を組み合わせ、口から日本人の健康改善に貢献していきたいと思い、私は歯科医の道を選んだんです。
平井 私は、DeNAで2016年1月から健康経営を推進しています。健康経営とは、従業員の健康をサポートすることで企業の生産性を向上させるとの考えのもと、健康増進の取り組みを経営的視点から行う組織開発手法のことです。
 DeNAでは2016年だけで約100回の健康セミナーを実施し、腰痛撲滅プロジェクト、喫煙室改造や美味しくて健康的なサラダランチの開発など、社員の健康をサポートするためにさまざまな活動を行ってきました。
また、東京大学医学部附属病院22世紀医療センターで、健康と働き方の関係の研究もしています。
 その中でもいま最も注力していることの一つが、口内ケアの啓発なんです。
 というのも、日本では口に関する知識やセルフケアの意識が足りないことで、虫歯や歯周病の治療のためにお金や時間、仕事の生産性まで、損をしているビジネスパーソンが非常に多いと感じるからです。
 たとえば私の周りにも、虫歯や歯周病の治療に合計100万円かかったという人や、治療のため毎月歯医者に通っている人が、結構いるんですよ。
 定期検診を受け、日頃から正しくケアをしていれば、そんな大金や時間を使わずに済んだ可能性も高い。
 ですがヒアリングしてみると、お酒を飲んだ日は歯を磨かずに寝てしまうこともあるとか、デンタルフロスや歯間ブラシの存在すら知らない人も多く、「これは何とかせねば」と思いました。
──歯を疎かにすることで、将来的には健康にどのような影響があるのでしょうか。
吉野 たとえば、代表的な生活習慣病である糖尿病は、歯周病と深く関連があることが分かっています。さらに高齢者が亡くなる主要因の一つである肺炎は、口から入った細菌が肺まで到達して発症するケースがほとんどです。
 考えてみてください。細菌が身体に入る入り口って、ほとんど口か鼻なんですよ。なので、肺炎の患者さんには、抗生物質を処方するだけでなく、口の中を清潔にすることが必須です。
 病院で口内の掃除を徹底したら、肺炎の発症件数が大幅に減ったという実例もあります。
 さらに認知症のリスクも、歯が正しく機能していないことで高まりますね。人間は噛むことで思考力を鍛えているので、咀嚼できなくなると思考力も衰えてしまうのです。
 もともと歯は28本生えているのですが、歯が20本以上残っている人と20本未満の人では、認知症の発症率に大きな差があるんですよ。
平井 残っている歯の本数により、老後の食欲や食事量もだいぶ変わってくるといいます。歯をどれだけ健康に維持できるかどうかは、将来的に命に直接関わってくる問題だと思います。
 だからこそ私も、若い頃からもっと歯に投資すべきだと訴えているのです。

歯が汚い=仕事ができない?

── 日本では身体の健康診断に行くのは一般的ですが、歯となると定期検診には行かずに、「歯が痛くなってから歯医者に行く」という人が多いと思います。なぜなのでしょうか。
吉野 その習慣の原因の一つは、日本の国民皆保険制度があると思います。たとえば民間の医療保険が主流の米国では、虫歯になったらものすごくお金がかかってしまう。
 だから米国では予防歯科が発達していますし、歯のケアに対する意識が高いんです。
平井 DeNAでは、社員が歯の定期検診に行くモチベーションを上げる取り組みをしています。DeNA用に作成してもらったカードを持って、提携しているクリニックに定期検診に行くと、社員は特典がもらえるんです。
 この施策のおかげで、社員が検診に行くようになってきたんですよ。
写真:Wavebreakmedia / Getty Images
吉野 それは素晴らしいですね。ですが虫歯や歯周病の予防だけではなく、身だしなみとしての口元のケアにも、欧米と日本には大きな差があると感じています。
 たとえば、欧米の一流会社の役員で、歯並びが悪かったり歯が汚れていたりする人は、まずいない。
 欧米には、「歯が不潔な人は自己管理ができない人」「歯が汚い人は育ちが悪い」といった考えがあり、インテリ層は社会的ステータスを保つためにも、歯をきれいにしているものです。
 ですので、欧米では、歯が汚いだけで「この人は仕事ができない」と、レッテルを貼られてしまう可能性があるのです。
平井 欧米では「歯が汚い人は出世しない」ともいいますよね。
吉野 そうなんです。「人は見た目が9割」といわれますが、その中でも人間が最初に見るのって口元なんですよ。
 これは哺乳類全体に言えることで、たとえばシマウマがライオンと遭遇した時、シマウマは本能的にまず、ライオンの口を見ます。そこで相手に食べられてしまう可能性があるか、判断するのです。
 そう考えると実は口元は、服装や髪型以上に気を配るべき場所なのです。
平井 口臭も、自分で気づかないうちに損をしていますよね。周りの人の生産性まで下げているリスクもある。歯の定期検診に行き始めた社員からは、口臭を心配する必要がなくなり、自信が持てるようになったという声も聞きます。
吉野 歯と歯の間の汚れが口臭を引き起こしているケースが多いので、口臭予防にはデンタルフロスがおすすめですね。米国では一般的なドラッグストアにも豊富な種類のフロスが並んでおり、ここでも日本との意識の差を感じます。
 日本人の口元に対する意識が低くなってしまった経緯は、江戸時代に遡ったお歯黒文化などの歴史的な背景があると思います。ですが、いまではビジネスはグローバルの時代。
「口が臭くなければ良いだろう」というレベルではなく、「身だしなみは口元から」という意識を持ち、世界で成功するビジネスパーソンになってほしいと思います。

続けるカギは「爽快感」

── ちなみに平井さんは、毎日どのように口内ケアをしているのでしょうか。
平井 健康経営の実践にあたり、まずは自分からと考えていることもあり、さまざまな口内ケアを学んできました。その結果、実はいまでは口内ケアが趣味になっています。
 いつも5、6種類の歯ブラシを用意していて、薬局に定期的に通い、新商品が出ていたらすぐに買う。歯磨き粉も、フッ素が含まれる商品とそうでないものを比べてみたり(笑)。
 今回初めて、フィリップス・ジャパンの電動歯ブラシ、「ソニッケアー ダイヤモンドクリーン」を使ってみました。
 いままで電動歯ブラシは使っていなかったのですが、磨いたあとの爽快感に本当に驚きました。
 歯医者でクリーニングをしてもらうと、すごくスッキリして気持ちいいじゃないですか。その時と同じ感覚を味わえたのは、これが初めてでした。
アプリ連動で徹底ブラッシング「ソニッケアー ダイヤモンドクリーンスマート」
吉野 口の中のヌメヌメした不快感、これは歯の上に付いているペリクルという膜が原因です。ソニッケアーなどの音波水流を使った電動歯ブラシは、手磨きに比べてペリクルをより効果的に除去できるんです。
 ステイン除去の効果も、音波水流の電動歯ブラシは高いですね。
 ただ電動歯ブラシは振動が強いので、間違った使い方をしないよう要注意です。ゴシゴシと磨かず、歯に当てるだけで良いんです。1箇所につき、10秒くらい当てれば十分。
 ソニッケアーの場合は、強く当てすぎている場合にセンサーで知らせる機能がついています。あと磨く方向は一方通行で、一度磨いた所はもう磨かない。
 電動歯ブラシだと、大体2分で全部磨き終えられるので、忙しいビジネスパーソンには向いていますね。浮いた時間をデンタルフロスなど、他のケアに当てられるとより良いです。
 ていねいなケアは、朝昼晩と全部でなくても良いので、1日1回は必ず時間を取ってください。夜間に口の中の細菌が増えるため、タイミングとしては夜寝る前や朝がおすすめです。
── なるほど。時間をかけるのは1日1回でも良いから、それを習慣化するということですね。
平井 習慣化するうえでも、磨いたあとの「爽快感」はすごく大事だなと思っています。
「健康のために歯を磨こう」より「気持ちいいから磨こう」の方が、続けたくなりますよね。
 また、一度完全に口の中がスッキリした状態を味わってしまうと、少し口がヌルヌルするだけで不快に感じるようになるんです。
 なので、口の中の爽快感を維持したいというモチベーションが生まれる。結果的に歯を磨く回数が増えるなど、歯に対する意識が劇的に高まるなという実感がありました。
吉野 習慣化するためのモチベーション作りは重要です。これから寿命がさらに延びていく中で、口内ケアとは長い付き合いになっていきますからね。
 現在歯の痛みや明確な症状がなかったとしても、ケアを怠っていれば後々の大病になりかねません。
 最高のパフォーマンスで働くことはもちろん、人生100年時代も健康に生き抜くために、日頃からの口内ケアをしっかり心がけていただければと思います。
(編集・執筆:金井明日香 撮影:林和也 デザイン:黒田早希)