近い未来から遠い未来まで

将来は、雲に海水を拡散させてもっと太陽光を反射させることで、大気を冷却できるようになる──。これは、フューチャー・トゥデイ・インスティチュート創業者で、Inc.のコラムニストでもあるエイミー・ウェブによるテック予測の1つにすぎない。
ニューヨーク大学スターン・ビジネススクールの教授でもあるウェブは3月9日、テキサス州オースティンで開催された「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」で、年次レポート「テック・トレンズ・レポート(Tech Trends Report)」を発表した。
さまざまな業界の短期および長期のトレンドを予測するこのレポートをウェブが発表するのは、今年で12年目だ。ウェブのレポートが浮き彫りにしたさまざまなトレンドの一部を、最も近い未来のものから、最も遠い先のものまでランク付けして紹介しよう。

1. 人の行動を予測するロボット

マサチューセッツ工科大学(MIT)コンピュータ科学・人工知能研究所の研究者たちは、2人の人物がハグやキス、握手、ハイタッチをしようとしているかどうかといった、人間の行動を予測できるように、人工知能(AI)システムのトレーニングを行ってきた。
「この研究により、ロボットは将来、人間環境をもっと容易に乗り切り、私たちのボディランゲージから手がかりを得て、私たち人間と交流できるようになる」とウェブは書いている。
その通りになれば、人々が機械を操作したり、研究所や機械運転室で働いたりするのを手助けするうえで、ロボットが特に役立つ可能性がある。
ただしMITのロボットは、コメディドラマ『ザ・オフィス』のエピソードの視聴を通じてトレーニングされた。登場人物マイケル・スコットの行動が、現実の人間と比べて予測しやすいのか、それとも予測しにくいのかは不明だ。

2. サイバーリスク保険

ハッキングは企業に大きな損害を与えかねない。だから、賠償責任やデータ復旧費用のようなセキュリティ関連費用を補償範囲にし始める保険会社が近年増えているのも、うなずける話だ。
ウェブは、このトレンドがさらに進み、企業が攻撃によって妨害されている間に失われた売り上げに対する補償や、その結果生じる風評被害の回復など、ハッキングに関連したさらなる保護を含むようになると予測している。
ただし、自社インフラへの多大なアクセスを提供することに企業を同意させる必要があると見られるので、契約書の作成は課題になるだろう。

3. ドローンによる個人監視

現在、法執行機関と軍が監視のためにドローンを利用していることはよく知られているが、民間部門の顧客数も増えている。
機械学習ソフトウェアと組み合わせると、ドローンは人々を識別してコンサートやアミューズメントパークで追跡したり、幹線道路を車で走行中に、その行動について役に立つデータを提供したりできるとウェブは書いている。
だが、こうしたドローンの能力については、倫理とプライバシーをめぐる厄介な問題が生じているのは明らかだ。

4. ソーラーパネル道路

ソーラーパネル道路は一時期、ソーラー分野における至高の目標のようなものと考えられていた。黒色のすべてのアスファルトが、環境に優しいエネルギーを生成できたら、どうなるだろうか。
フランスとアメリカで大きな話題となったいくつかのプロジェクトは、規模拡大に向けて大きく前進することはなかった。主な理由は、ソーラーパネルの非効率性と耐久性不足だ。
ウェブは、道路が硬化コンクリートでできている中国では、国営建設会社の斉魯交通発展集団が、毎日4万5000台の車が上を走行しても耐えられる極薄ソーラーパネルで覆われた高速道路を建設中だと指摘している。

5. 空飛ぶタクシー

空飛ぶタクシーは、思うほど遠い先のことではない。空飛ぶタクシーの技術は「加速中で、概念実証(POC)設計が実行可能になり始める変曲点に達しつつある」とウェブは書いている。
ウーバーは、垂直離着陸できて、時速200マイル(約322km)で60マイル(約97km)の航続距離を移動できる航空機を開発中だ。
こうした航空機は、車というよりヘリコプターに近いと考えるかもしれないが、ラッシュアワーの交通渋滞が発生している街の1000フィート(約300m)上空を移動できるなら、名称はなんであっても気にならないだろう。

6. スマートダスト

カリフォルニア大学バークレー校の科学者たちは、データを送受信できる極小コンピューターの製造方法をすでに考案したが、ドイツの別のチームは、レンズを砂粒大に3Dプリントした。
こうした技術は、大気の調査や大気質の測定に利用できるし、内視鏡検査の代わりになりうる。スマートダストを飲み込むだけで、医師に体内を見てもらえるのだ。

7. 人工樹木

森林破壊がまずい理由は数多くあるが、その1つは、温暖化効果のある大気中の二酸化炭素を、樹木が自然に吸収してくれるからだ。
コロンビア大学の科学者は、大気から二酸化炭素を取り除けるプラスチック製の樹木を開発中している。これまでのところ、本物の樹木よりも1000倍効率よく二酸化炭素を取り除けるという。
もちろん、これだけでは世界はまだ救われない。技術をさらに発展させて改良しなければならないだけでなく、こうした技術を企業が導入する金銭的誘因も必要になる。
1つの可能性として、保存された炭素を、炭素ナノ繊維やプラスチックに変えるメーカーに販売することが考えられる。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Kevin J. Ryan/Staff writer, Inc.、翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、写真:metamorworks/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.