Ron Bousso and Susanna Twidale

[ロンドン 4日 ロイター] - 欧州の石油企業各社は、彼らの事業の存続をいずれ脅かす恐れのある問題への対応を始めた。低炭素化の進む世界で、石油需要が伸び続けた世紀に終止符が打たれる、という問題だ。

電気自動車(EV)の出現と、気候変動に歯止めをかけるクリーンなエネルギーを求める投資家や消費者の需要を受け、欧州の大手石油企業各社は、石油生産・精製から天然ガスや再生可能エネルギーによる発電へと軸足を移そうと、ためらいがちな1歩を踏み出している。

石油開発への投資は依然として他事業を圧倒しているものの、長年続く天然ガスや新たに台頭している再生可能エネルギーに関連した事業と統合するため、石油企業は発電や電力小売といった企業の買収を進めつつある。

相対的に小規模とはいえ、電力部門への投資は、石炭火力発電よりもクリーンなエネルギーを家庭や企業に提供し、系列のガソリンスタンドにEV充電機能を持たせて環境に優しい印象を与えることで、エネルギーの転換に対応しやすくする狙いがある。

電力供給への道を探ることで、事業の「将来性保証」を求める株主の要求にも応えやすくなる。

アジア諸国で電力需要の高い中間所得層が拡大するなかで、二酸化炭素排出量を抑える方向に規制が変わることにより、電力需要は石油よりもはるかに速いペースで成長すると、国際エネルギー機関は予測している。石油業界では、石油需要は2020─40年の間にピークを迎えるとみている。

石油・天然ガス業界における多角化の動きは珍しくもないが、これまでの実績はひいき目に見てもお粗末だった。

石油メジャーは石炭生産、住宅清掃、ペットフード、栄養食品、エビ貿易、オムツ製造、ホテル、鉄鋼などの産業に手を出してきたが、いずれも大きな成功は収めなかった。電力部門に進出しても、投資家が慣れ親しんできた高額の配当を維持するために石油・天然ガス企業が必要とする利益が得られるわけではない、という厳しい見方もある。

英石油大手BP<BP.L>は20年前、BPというブランドは「Beyond Petroleum(石油を超えて)」であると再定義し、初めて再生可能エネルギーに参入したが、巨額の損失を出した。太陽光発電システムの製造部門を2011年に閉鎖し、風力発電所も手放そうとしたが、今になって、もっと成功する見込みの高いモデルがあると言い出している。

BPの代替エネルギー部門を率いるデブ・サンヤル氏はロイターに対し、「今日我々がやっていることの大半は、我々のコア能力にリンクしている」と語った。「統合されたサービスとして、分子と電子を結びつけられるようになれば、もっと大きな利益を生む事業を作り出せる」

<課題は収益性>

急速に細分化されていく市場で激化する競争に直面しつつ、再生可能エネルギーとガス火力発電所や電力供給事業を連携させていくにあたって、まず問題となるのは収益性だ。

BPは2017年、英国の太陽光発電事業者ライトソースに2億ドル(約223億円)を投資し、太陽光事業に復帰した。また同年、ピュアプラネットの株式25%を購入し、英国内での電力小売事業にも参入した。ピュアプラネットは、再生可能エネルギーにより約10万件の顧客に電力を供給している小規模な新規参入組だ。

サンヤル氏は、「再生可能エネルギー事業は昨年、フリーキャッシュフロー(純現金収支)がプラスになっていた。過去3年のあいだに、ポジティブな軌道に乗っている」と語る。「すでに産業界の顧客は握っているが、いずれリテールの顧客を得られる可能性もある」

サンヤル氏によれば、BPは代替エネルギーによる発電能力を拡大していく予定だという。気候変動を専門とする調査会社で、主要な機関投資家と提携関係にあるCDPによれば、BPの代替エネルギー発電能力は石油メジャーのなかで最大規模だという。CDPの計算では、大規模な水力発電施設を持つロシア国営のガス生産企業ガスプロムが、仏石油大手トタル<TOTF.PA>と英蘭大手ロイヤル・ダッチ・シェル<RDSa.L> を上回り、BPに続く2位である。

リテール部門では、フランス、イタリアの石油企業が先行している。

トタルは、昨年の仏電力小売りのディレクト・エネルジー買収によってガス火力発電所、再生エネルギー発電所を手に入れ、仏電力公社EDF<EDF.PA> に挑戦する足掛かりを得た。

トタルは2022年までにフランスとベルギーで700万件の顧客を獲得するという目標を掲げており、最近の投資家向けプレゼンテーションでは、2040年までに、供給電力の15~20%を低炭素資源によって発電することをめざすと述べている。

イタリアのエネルギー大手ENI<ENI.MI>によれば、同社は現在、イタリア第2位の発電事業者として6つの発電所、大規模な電力取引事業、そして200万件の顧客を抱えているという。

シェルも最大の電力事業者になりたいとしており、過去1年間で、ブラジルのガス火力発電所や英国の電力事業者など多くの投資を行っている。

シェルは先週、投資先である英国の電力事業者の名称を「シェル・エナジー」に変更し、71万件の顧客すべてを100%再生可能エネルギーによる電力に切り替え、顧客に系列ガソリンスタンドでの給油やEV充電に対する割引サービスの提供を始めた。

シェルの新エネルギー部門を率いるマーク・ゲインズボロー氏は、ロイターに対し、英国内におけるリテール顧客基盤の拡大をめざしていると語った。

シェルはここ数ヶ月、競合するエネルギー供給会社SSE<SSE.L>のリテール部門の買収を模索していたが、業界内の情報提供者によれば、国内エネルギー価格の大半に上限規制を設けるという政府の決定をめぐる懸念により、買収交渉はほとんど進展しなかったという。こうした規制は、世界各国の電力市場が直面するリスクの1例である。シェルもSSEもコメントを拒んだ。

電力関連資産をめぐる石油メジャー同士の競争激化を示す兆候もある。事情に詳しい情報提供者によれば、オランダのエネルギー企業エネコの民営化に関して、トタルがシェルに対抗して入札に参加することを検討しているという。これについて、トタルはコメントを拒否した。

エネコの評価額は約30億ユーロ(約3760億円)、顧客数は220万件である。シェルのゲインズボロー氏によれば、エネコは電力事業の典型的なモデルになりうるという。

「この事業モデルがめざすのは、電力取引・供給におけるポジションと顧客基盤を備えた統合を実現することだ」とゲインズボロー氏は言う。

<警戒感>

ロンドンに本社を置くBPによる再生エネルギー分野進出の最初の一歩を指揮したジョン・ブラウン元最高経営責任者(CEO)は、風力・太陽光プロジェクトにおける発電コストが大幅に低下し、電力市場の将来的な成長についての理解が深まったことで、状況は当時とは大幅に様変わりしたと話す。

「問題は、再生エネルギー分野への進出を成功させるためのスキルと人材、そして決意があるかどうかという点だ」とブラウン氏はロイターに語った。

気候を専門とする調査会社CDPによれば、太陽光・風力による発電プロジェクトの利益率は約5~10%であり、ほとんどの石油・天然ガス関連プロジェクトに比べて半分に留まっている。

これまでのところ、石油メジャーは投資リターンを求める株主とイノベーションのバランスを考慮する中で、年間投資額のごく一部を低炭素技術に振り向けているにすぎない。

CDPの調査によれば、クリーンエネルギー技術への投資額は、シェルとノルウェーの石油大手エクイノール<EQNR.OL> は設備投資の5─6%の予定で、ENIは約4%をめざし、トタルとBPは約3%とする計画だ。

この比率はガス火力発電所への投資に伴い増大しているとはいえ、特にリテール分野ではスーパーマーケットやフィンテック関連のスタートアップ、それに米ネット通販最大手アマゾンなどを含む競合他社によって事業が難しくなれば、飲み込める程度のものだ。

「結果的にうまく行かなくても、石油メジャーには財務面では余裕があり、電力事業を切り離すことができるだろう」と、英国の法律事務所CMSでクリーンエネルギー部門を率いるムニア・ハッサン氏は予測する。

同氏によれば、電力事業と石油・ガス事業との収益の差はあまり変化していないが、株主やその子どもたちのあいだで見られる意識の変化が新たな動機を生んでいるという。

「石油会社の一部は成功するだろう」とハッサン氏は言う。「とはいえ、予想よりもその苦労は大きいということになるのではないか」

(翻訳:エァクレーレン)