「ハリウッド型組織」でコンテンツ新時代をプロデュースする

2019/4/22
NewsPicksと電通の合弁会社として2018年6月に立ち上がったNewsPicks Studios。新時代のコンテンツ企画・プロデュース集団として、水曜22時からの『WEEKLY OCHIAI』やTwitter Japanと連携した火曜21時からの『The UPDATE』など新しい経済番組を配信している。

設立から半年以上が経ち、その成果や次なる野望とは。前半はCEO佐々木紀彦氏と電通からCOOに就任した木野下有市氏との対談を、後半はチーフディレクターの安岡大輔氏とプロデューサーの清水誠氏の対談をお届けする。

テレビではなくNPを追う。マスではなくニッチを狙う

──NewsPicks Studios(以下:NPS)が立ち上がって半年以上が経ちました。この半年で見えてきたことやわかってきたことを教えてください。
佐々木 いくつかあって、ひとつは個人戦の記事と違って、映像はチームプレイが必要であること。目まぐるしく変化する状況に適応できる「サッカー型チーム」にならないといけません。
もう一つは、今までの経験を生かしつつ、一度リセットする「アンラーン」が重要なことです。過去に縛られて柔軟な試行錯誤ができない状態では、新しい映像コンテンツは作れない。
自己否定と挑戦の繰り返しに明け暮れた半年間でした。今、思い返しても、反省することばかりです。
木野下 NewsPicks(以下:NP)の強さは何なのかを突き詰めた半年だったと思います。その世界観を番組にしたのが、Twitter Japanと連携した経済討論番組「The UPDATE(アップデート)」です。
いろんな人の多様なコメントが面白いNPのように、The UPDATEも話題の経済ニュースをピックして、異なる立場の専門家が円卓を囲んで議論する「コメントショー」をコンセプトとしました。
テレビを追うのではなく、NPがなぜ面白いのかを追求したところにヒントがありました。
私は電通で長らく広告やコンテンツ事業に携わってきたので、どうしてもマスを狙いたくなるのですが、これからの時代のキーワードは「ニッチ・エッジ・キャッチー」
ニッチでエッジが立ったものを、わかりやすくキャッチーに見せていく必要がある。
佐々木 試行錯誤しながらそれに気づいたタイミングで、秋元康さんから「NPはマスを狙ったらダメだよ」とアドバイスをいただきましたよね。
「今の時代のマスはニッチから生まれるからNPらしいニッチコンテンツを作り、そこからスターが生まれたらいい」と言われ、まさにその通りだと思いました。
活字のNewsPicksでやってきたことを映像でも再現する――それが今のフェーズではベストな戦略です。

ドラマやリアリティーショーへの挑戦

──その学びを得て、これからどのような進化を遂げたいと考えていますか?
佐々木 リアリティーショーやドラマ、学びのコンテンツなど経済を切り口とした教養・エンタメの分野を広げていきたいと考えています。
経済にストーリーを加えて、もっとワクワク感のあるものを生み出したい。経済ドラマには早くトライしたいですね。
木野下 就活をテーマにしたリアリティーショーも面白いですよね。
Netflixの「クィア・アイ」(自分を変えたい男性を変身させる人気番組)のように、たとえば幻冬舎・箕輪さんやGO・三浦さんなど若手の異才たちが就活生を徹底改造したらどうなるか。
彼らが育てた「型破り」な学生が大企業に内定し入社することは、ある種、日本の就活へのアンチテーゼになるかもしれません。
佐々木 個のエンパワーメントを最大化する様子を、番組を通じて伝えていきたいですね。映像は人柄が伝わりやすいので、活字よりもスターが生まれやすい。NPの映像番組を通じて多くのスターをプロデュースしたいです。
私も映像に出始めてから少しだけファンが増えました(笑)。
木野下 佐々木さんはアンチが多かったからね(笑)。

組織はハリウッド型「プロダクション・カンパニー」

──新しい取り組みをする上で、これからどんな組織、チームを作っていきますか?
佐々木 プロフェッショナルファームのような、プロデューサー集団を作ります。
エッジのある個が自由に意見を言い合い、強いチームで良い作品を作っていく。コンテンツ・プロフェッショナル・スタジオですね。
木野下 まさにハリウッドのプロダクション・カンパニーをイメージしています。
日本でプロダクションというとテレビ局や代理店の下請けのイメージがありますが、ハリウッドでは、ジェームズ・キャメロンやブラッド・ピットがプロダクションのプロデューサーとして映画を企画し、それを映画配給会社に提案してお金をもらって形にしています。
同じように、やりたいことを実現させるために個々がいろんなプラットフォーマーや広告主にプレゼンして組み、コンテンツを世に出していきたい。
佐々木 下請けではなく、ですね。それから、コンテンツのクリエイティブ面だけでなく、ビジネス面も革新したいと考えています。
最近、『PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』という本を読んだのですが、1990年代には、あのピクサーでさえ自転車操業でビジネスモデルが確立されていなかったんですね。
そこに、シリコンバレーで活躍した弁護士出身のCFOが加わり、組織やビジネスを変革し、コンテンツビジネスを近代化していきました。
日本のコンテンツビジネスも進化はしていますが、世界基準で見るとまだまだです。だから、ビジネスやファイナンスや法律などに詳しい人に異業種から参画してもらって、ビジネス面に新しい風を吹かせていくのも、我々の役割だと思っています。
もちろん、クリエイティブ面に関しても、これからの時代はテレビ局を頂点としたピラミッド型の構造から、もっと対等で自由な構造に変わっていくと思うので、その代表格になりたい。
そのためにも、優秀な映像クリエイターに「NewsPicks Studiosで働くと、自由で面白そう」と思ってもらえることが何よりも大切です。
コンテンツ業界をスポーツ選手のようにプロ化していき、スターになれば数億円、数十億円を稼げて下克上を起こしやすくしたいですね。
木野下 そこでいうと、NetflixやAmazonの参入によってドラマやバラエティの領域は少し地殻変動が起きています。放送局で作る番組の著作権は放送局が持ちますが、NetflixやAmazonは制作者が著作権を持てることが多い。
それにより、タレント事務所にもデジタルプレイヤーと組むときは自分たちで著作権を持とうとする動きが出始めています。

アップデート×コラボレーション×NP “愛”

──ハリウッド型組織を作る上で、どのような人に仲間になってもらいたいですか。
佐々木 アップデートマインドがあって、アンラーンできる人。NPを盲信していなくてもいいので、愛情を持っている人です。根底に愛がないと、いい批判もできませんので。
木野下 ドラマをまったく見ない人がドラマを作れないのと同じで、NPが好きじゃないと難しいですね。ちなみに僕はもともとNPマニアでした(笑)。
佐々木 もう一つは、コラボレーションマインドを持っていること。グループ全体の様々な部署とも外部のパートナーとも組むので、自分の軸は持ちながら柔軟にコラボできることは大切です。
とくに、コンテンツ、ビジネス、テクノロジーの3つの垣根を超えて新たな価値を生み出していってほしい。
まとめると、アップデート&コラボレーションマインド、そしてNP愛を持つ人と同僚になりたいですね。
木野下 合わないのは経験や伝統を重んじすぎてしまう人。さまざまなバックグラウンドを持つ人が集まったNPSでは、映像業界からすると非常識な意見も普通に出ます。
それに対してすぐに「NO」を言うのではなく、一度飲み込んでみる。映像専門ではない人のツッコミから学ぶことはたくさんあるので、それをプラスに受け取ってほしい。
放送局のように決まった予算内で番組を作るのではなく、どうマネタイズするのかを試行錯誤しながら作っていきますし、状況はどんどん変わります。カオスを楽しめる人なら最高にエキサイティングではないでしょうか。
佐々木 世の中には伸びる仕事と伸びない仕事があって、映像クリエイターの仕事は確実に前者。一攫千金を狙える千載一遇のチャンスがここにはあります。
実際、NPSに可能性を感じていただいて広告や番組、映画などたくさんの相談がきています。ただ、現状はリソースが足りてないため、そうしたニーズに十分応えられていません。
今後、新しい時代の映像ビジネスに適応できるクリエイターが引く手あまたになるのは間違いありません。テレビ業界で活躍してきた方が、新たなフィールドでスターになる例が増えると思います。
ハリウッドで数百億円の契約を結ぶプロデューサー・脚本家がどんどん出ているように、日本でも数億円レベルは十分ありうるでしょう。
ハリウッドが、シリコンバレーのテクノロジーとウォール・ストリートの金融知識と融合して目覚ましい発展を遂げたように、日本のコンテンツ業界もついに変革の時がやってくる。今はまさに革命前夜です。
過去5年、私はNPで、活字の世界に新しいメディアの形を創るべく奮闘してきました。同じことを映像でやりたいと思っていたときに、ハリウッドの最前線ノウハウを持って黒船のように木野下さんがやってきました。
足りないのは、映像の世界を革新するようなコンテンツを作るプロデューサーやチーフディレクター、ファイナンスのプロです。
2020年後半から5G端末はかなり普及するはずなので、これから約1年間、革命のための仕込みの時期を共に過ごしましょう。

テレビ業界を経て新興メディアのNPへ

──お二人がNPで映像を作りたいと思った理由を教えてください。
安岡 僕は13年間テレビ業界にいました。最初の10年は地方のテレビ局で、報道の取材や撮影、編集、リポーターまでのすべてを会得。その後、経済分野で経験を積みたいと思い、日経新聞グループの映像制作会社に転職しました。
ダボス会議などを取材する硬派な番組のディレクターをしていた頃、NPの編集部が立ち上がります。
法人向けサービスのSPEEDAで地盤を固めた上で、新しいメディアを作ろうとしている。「自分が行くべきはこのメディアだ」との直感があり、佐々木さんを番組ゲストとして呼んで話を聞くと、その思いは確信に変わりました。
ただ、当時は経済番組のディレクターとしては2年目だったので、あと1年経験を積んでNPでは初となる「映像の人」として入社する計画を立てました。
清水 計画的な入社ですね(笑)。
僕は大学院で動画検索エンジンの研究をして、新卒では大阪のテレビ局に入社。政治討論、トークバラエティ、海外ロケドキュメンタリー、漫才番組、ドラマ、VR映像などオールジャンルのコンテンツ制作に携わってきました。
コンプライアンス面でインターネットの何倍もの制約を課されながら、綿密な映像制作を行う地上波テレビのスタッフを今でも心の底から尊敬しています。
その一方で、ネット全盛時代において視聴率ベースでPDCAを回すことに限界を感じ、「データと映像を最大限に融合させたら何ができるのか。その最適解を見つけたい」と、デジタル×映像の世界に戻ろうと決意しました。
NPを選んだ理由は、国内で最も攻めたメディアだからです。月額課金のサブスクリプションサービスとしてスケールしているメディアが動画領域を立ち上げようとしている。そんな会社は国内ではNPしかないと思いました。

テレビ時代にはなかった、高速PDCAとクリエイティブへの指摘

──テレビ局からNPに移ったことで、どんな変化・気づきがありましたか?
安岡 入社前から、PDCAを回すスピードが速いことは予測できていました。
テレビの場合は1カ月に一度、番組の中身を検討するタイミングがあるか・ないかの世界ですが、NPは配信すると即時に数字の結果が出るし、場の盛り上がりもその場でフィードバックされる。
1回の配信ごとにPDCA を回すのですが、そのスピード感が強みでもあり、痛みを伴うしんどい部分でもありますね。
予測できなかったのは自分の気持ちの変化です。今までも関わる番組に対する愛情はありましたが、今は自分が作るコンテンツだけでなく、メディアとしてNP全体を大事に思うようになりました。
自分が作ったものを否定されて悔しい思いをしても、それがNPのためになるなら、すんなり受け入れる。マインドセットが変わりました。
清水 僕はテレビ時代、ディレクターとして作るものに対して制作部以外の人から指摘を受けることはありませんでした。でもNPは、デザイナーやアプリのプロダクトチームから、色味やフォントの大きさなどいろんな指摘をされます。
画面の中だけを作ればいいのではなく、どんなコンテキストで見られるのかまで意識して作る必要があり、日々ものすごい学びになっています。

経験や常識をアンラーンし、“場”を作るプロとして再発進

──新しい映像コンテンツを作っていくために、意識していることやポリシーを教えてください。
安岡 テレビの世界で13年コツコツやってきたプライドはありますが、入社と同時に業界の常識を忘れてアンラーンしました。
NPらしさがあれば何をやってもいいほど自由度が高いのに、今までの常識にとらわれていたら新しいものは作れないと思うんです。だから、常識やセオリー、経験を一旦全部忘れました。
その上で、楽しみながら経済を学べる企画を考えて、お金を払っても見たいと思ってもらえるクオリティに仕上げています。
清水 僕の場合は、忘れる部分は忘れて、貫くところは貫いています。だからぶつかることも多いんです。
安岡さんのWEEKLY OCHIAIは、「ついて来れない人が多少いてもいい」というコンセプトですが、担当しているMOOCは3分×10回の講義動画のうち1秒でもユーザーに疑問点を作らせてはいけないというポリシーで編集しています。
だからよく「初歩的すぎないか」「これは説明しなくてもいいんじゃないか」と言われます。だけどMOOCに関しては、テレビ業界と同じように「万人に理解してもらえるコンテンツ」が理想だと思っていて。そこだけは貫いています。
安岡 映像コンテンツを作るクリエイターとして思うのは、画面ばかりを見ていたらダメだということ。
スタジオの熱量を四角い画面に入れてユーザーに届けるので、「番組を作っています」という感覚よりも「場を作っています」という感覚が大きいですね。空間や場所に熱量があればあるほど、映像は正直に伝えてくれますから。
どんなカット割りをするのか、どんなレンズを使うのかも大事ですが、観覧者の熱量をもっと上げる方法はないのか、出演者がもっと楽しむにはどうしたらいいのか、何か違う価値を感じてもらえないかなどを考えています。
清水 まさに、プロデューサーは場づくりのプロフェッショナルですね。特に、WEEKLY OCHIAIの場づくりはすごいと思って見ています。
安岡 いや、まだまだですよ。今は落合さんやゲスト、観覧者などみなさんの力で成り立っています。
今正解だと思っているフォーマットもいつか捨てないといけない。次の手を考えて、ユーザーに飽きられる前に決断しないといけないし、もっとできることがあると思っています。
清水 かっこいいです。
動画は作ろうと思えば誰でも作れる時代になりましたが、プロとアマとの本質的な違いは、「演出力」だと思っています。
誰に、何を、どのタイミングで話してもらうか、そのための場をどう作るか。撮ったものをメディアに合わせてどう編集するか。これらを計算できることがプロには必須のスキル。僕もまだまだですが。
安岡 そうですね。プラットフォームやメディアは今以上の競争にさらされると思いますが、そんなときでも自分が軸足を置いているメディアを理解して愛を持ち、その成長にいかにコミットできるか。
テレビ時代は、自分の作品に対しての愛はあっても、メディアに対して愛を持つ必要があるなんて思ったこともなかったです。

アンラーンしながら新時代を作りたい人を求む

──どんな人がNPSのチーフディレクターやプロデューサーに向いていますか?
安岡 機材やソフトが使えるスキルはもちろん歓迎しますが、世の中を変えたい・時代を変えたいという野心のある人。
残念ながらNPSは懇切丁寧に育てるフェーズにないので、今までの経験や常識をアンラーンしながら即戦力として仲間に加わってくれる人に来てもらいたいです。
清水 加えて、伝えたいことが明確にあって、それを加速度的に実現させたいと思う人。僕は短尺動画に可能性があると思っていたから、面接には短尺の動画を作って持って行きました。
映像のプロとして譲れない部分はそのままでいいので、伝えたいこと・やりたい企画がある人と組みたいです。
安岡 いろんな性格のコンテンツを作る制作会社にいる人はフィットするかもしれないですね。その上で、現状に何か疑問や問題意識を持っているような。
清水 そうですね。僕はテレビ局で悩んでいる若手もフィットすると思います。新しいことをやりたい若手はたくさんいますが、大企業ゆえのスピードに悩んでいる方も多いと思います。
同じように悩んでいるなら、NPで次世代のコンテンツを作ることに人生を賭けてほしい。想像もつかないようなハプニングが日々起きますが、それを楽しみながらコンテンツの新時代を作りたい人と高みを目指したいです。
(取材・文:田村朋美、写真:北山宏一、デザイン:田中貴美恵)