人口増と温暖化

最先端のテクノロジーによって、私たちが想像していたよりも低コストで大規模な食料生産が可能になると見込まれている。
AI(人工知能)が搭載されたトラクター、ゲノム編集技術を利用した農作物、単為生殖の乳牛といった話題が最近も報じられた。こうしたイノベーションの多くは、可能な限り最大限の利益を追求しながら食物を作り出すことが重視されてきた結果と言える。
私たち現代人はこうしたイノベーションを、多くの技術的、産業的発展と同じように賞賛してきた。それらは、自然体系への支配をますます強めようとする私たちの意思を反映している。
しかし食料は、支配しようとするのではなく、私たちが自然体系と深く関わり合うべき分野で、今日の大きな問題の答えは自然に求めるべきだ。
その問題とは、2050年までに90億に達する世界の人口どう養うのか、そして温暖化が進む地球でどうやって十分な食料を生産するのかというものだ。
その答えは、地球が持つ最も大規模で最も古い資源である「土」を大切に育むことだ。

工業的農業の弊害

土壌は、有機物や微生物、菌類、栄養物の複雑かつ美しい集合体で、その表面や内部に生存する動物や作物と相互に作用し合う。
私たちの食料である動物や作物は、土壌から栄養を得て初めて私たちに栄養をもたらす。土壌は単なる物質ではなく、健康的な食料が育つ非常に特殊なプラットフォームなのだ。
私たちの食料生産システムを支配している工業的農業、もしくは「従来型」の農業は、土壌は補充しなくても延々と恩恵を与えてくれるという考え方だ。その手法による弊害が、地球や私たち人間にとってすでに生まれている。
工業的農業は気候変動の主要な要因であり、動植物の生物多様性を減退させ、土地の浸食や水路汚染をもたらし、受粉媒介者を殺し、最近になって認識され始めたように土壌とヒトの微生物叢の両方を破壊する。
それとは対照的に、再生可能な農業は自然との調和において食料を育てるものだ。健康的でおいしい食べ物を生産するためだけでなく、地球を存続させるため、土壌に始まり、土壌を管理することを核としている。
家畜や野生動物、植物、昆虫、微生物という地球を構成するすべてが健全な土壌に依存しており、私たち人間もそうだ。再生可能な農業は、現在の食料システムに根深く存在するとめどない病害や欠陥に対処するために必要なものだ。

健康な土壌がもたらす恩恵

肉がラボで培養される今日では、土壌は食料を育てる物質のひとつにすぎないとみなされがちだ。こうした理解は土壌を長年ないがしろにしてきた結果だ。
集約農業では作物の収穫量を増やすことが重視され、それが見せかけの肥沃度の向上を目指す、大規模で化学薬品に依存した単一栽培につながっている。
それによって収穫量の増大のために投入されるあらゆるものが土壌に混入してしまった。私たちが土壌を搾取するほど、化学薬品を使用する必要性が増す。
健康な土壌が私たちにもたらす恩恵は、食料生産の妨げにはならない。例えば、土壌には大量の炭素を蓄積する力がある。農業は現在のように気候変動を促進させるものではなく、気候変動との闘いに役立つものであるべきだ。
健康な土壌はまた、雨水を吸収することで水路に損害を与える浸食や土砂の流出を防止する働きもある。さらに大量のエネルギーを消費するかんがいの必要性を抑え、干ばつの影響も軽減する。

持続可能な未来のために

健康面へのメリットもある。
健康な土壌の上に築かれる農業システムは、食物連鎖に影響する化学薬品を必要とせず、土壌の健康と人間の健康には重大な関係性があることが医療の専門家らによって実証され始めている。
米国の先駆的な農業学者のひとり、リバティー・ハイド・ベイリーは、自然は支配するものではなく、畏怖すべきものとして捉えるべきだと力説した。
健康な土壌は食料システムにとって優れた解決策であり、私たちの誰もが追求すべきものだ。
私たちが最も古くから農業に対して思い描いているように、自然を成長と回復の力とみなすことができれば、持続可能な未来への道が明らかになるはずだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Frederick Kirschenmann/President of the board of directors of the Stone Barns Center for Food and Agricultur、翻訳:中丸碧、写真:eyefactory/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.