【平井卓也】世界に伍するスタートアップ・エコシステムを創る

2019/4/4
我々は、世界に伍するスタートアップ・エコシステムの拠点形成戦略を策定し、実行に移さなければならない。
前回紹介した平井ピッチ(HIRAI Pitch)は、これまで大臣室で33回、地方で7回開催し、AI/IoT、バイオ、量子、宇宙などの分野で果敢に挑戦を続けているスタートアップ、VC、研究者等、計87名の皆さまからピッチを受けた。
今回はそのピッチを受けて立案した、7つの戦略について紹介したい。
平井卓也(ひらい・たくや)/1980年電通入社。1987年西日本放送代表取締役社長に就任。2000年に無所属で衆議院選挙に当選し、同年に自民党入党。自民党ネットメディア局長などを経て、2018年に情報通信技術(IT)政策担当 内閣府特命担当大臣(科学技術・知的財産戦略・クールジャパン戦略・宇宙政策)に就任

異業種を「融合」させよ

私は、平井ピッチを開催する中で、日本には高い技術力、新しいアイデアの構想力を持った人材が多数いることを改めて認識した。
だが一方で、横の繋がり、ネットワークが弱く、組織などさまざまな「壁」を越えられていない、というのが共通の課題として横たわっている。
その結果、極めて高いポテンシャルがあるのに、その実力が産業や社会的な価値として十分に表れていない。
また世界では、disruptiveなイノベーションは「都市」を中心に起きている。それも「都道府県」のような広域レベルではなく、都市・地区のレベルでだ。
その点日本は、エコシステムの拠点として都市を形成していく視点が弱い、ということが分かった。
これらの分析をもとに、今後私たちがとるべき戦略の要諦は、スタートアップ・エコシステムの都市形成に着目し、異業種・異分野との融合を進め「壁」を打ち破れるだけの加速度をつけることで、その高いポテンシャルを開放すること。
それも持続的に。要約すれば『Beyond Limits. Unlock Our Potential.』ということだ。
そしてそれを踏まえた上で3月29日に策定、公表したのが、以下の7つの戦略だ。
具体的な資料は、こちらで確認できます。
この7つの項目はいずれも重要な施策であるが、ここでは幾つかに絞って説明する。
まず、1つ目の戦略である「世界と伍するスタートアップ・エコシステム拠点都市の形成」について。
世界のユニコーン企業の殆どが、主要なスタートアップ拠点の都市から輩出されていることを御存知だろうか。
各国のユニコーン企業のうち、米国はシリコンバレー、NY等の4都市で80%、中国は北京、上海等の3都市で83%、インドはニューデリー、バンガロールの2都市で77%、英国はロンドンの1都市で62%を占めている。
特にNYはリーマンショック後、緻密なエコシステム分析に基づいて、人材、コミュニティづくりを抜本強化し、スタートアップ拠点の都市へと変貌を遂げた。
スタートアップ・エコシステムは、都市計画として実施されているのであり、日本もこれに学ぶ必要がある。
都市毎に、エコシステムを阻む「ギャップ」を詳細に調査分析し、幾つかの世界に伍するスタートアップ拠点となりうる都市への集中支援を実施すべきだろう。
Photo:iStock/NicoElNino

足りないのは「成功体験」

次に、戦略2の「大学を中心としたエコシステム強化」。
スタートアップの拠点としての都市形成を考えたとき、大学は知識集約型社会・産業の中心として重要な役割を果たす。
現に、先に挙げた都市では、大学を中心としたエコシステムが機能している。地方自治体は、大学、民間プレーヤーとも連携し、地理的・物理的なアクセスも加味し計画的にエコシステム形成を進める必要がある。
また、大学ではグローバル・マーケットも意識した起業家教育プログラムやアクセラレーション機能の強化、ハッカソン、ブートキャンプ等の促進をしていく。もちろん、初等中等段階からの創業教育も重要だ。
そして3つ目の戦略「世界と伍するアクセラレーション・プログラムの提供」について。
アクセラレーター、アクセラレーション・プログラムは、スタートアップが横の繋がり、ネットワークを強化し、さまざまな「壁」を越えていく情報、手段を提供する。
権威、実績あるアクセラレーション・プログラムは、それ自体がスタートアップにとって重要なキャリアパスになる。
しかしながら、日本にはユニコーン企業にまで成長した成功体験が極端に少ない。世界で成功した経験を持つトップアクセラレーターを招へいし、最初からグローバルな展開を視野に入れて、取り組むべきである。
その他、ギャップ・ファンド(Gap Fund)の拡充や、政府自らスタートアップの顧客となり、同時に与信を行うため、公共調達へのスタートアップの参入促進を図ること。
タテワリ、サイロを打破すべく、スタートアップに関わる多様な人材のネットワーク化やオープンイノベーションを推進し、ロールモデルの表彰やイベントの強化などでチャレンジする機運を醸成すること。
人材の流動化を促進し優秀な人材のスタートアップへの流入を促すこと、などが戦略の柱だ。
世界ではデジタル化とグローバル化が不可逆的に進んでいる。新しい多様なアイデアや技術が創出され、そして失敗しても何度でも挑戦できる環境が、社会・産業構造の変化をもたらすdisruptiveなイノベーションにつながる。
挑戦する皆さんが新しい時代を創っていくことは間違いない。
世界に伍するエコシステムを創れるかが、課題先進国「日本」の将来のカギを握っているだろう。この戦略を速やかに実行に移せるよう、政府一丸となって引き続き全力で取り組んでいきたい。
Photo:iStock/voyata
最後に一言。
「disruptiveなイノベーション」をキーワードに、2回にわたって、世界に伍するスタートアップ・エコシステムの拠点形成について紹介させて頂いたが、私は、これ以外にも、disruptiveなイノベーションが起きる国への取組みを進めている。
「ムーンショット型研究開発制度」という取り組みは、従来技術の延長線上にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を推進するものだ。
補正予算で1000億円を確保したところ、これまでにない、皆さんをワクワクさせるような発想、目標を検討している。
広く皆さんからの公募も実施中だ。かつての米国・アポロ計画のように、壮大な目標を掲げその実現に向けたバックキャスト型の研究開発(ムーンショット型研究開発)の検討を進めている。
(デザイン:九喜洋介)