都市部と郊外の分断、不均等な機会

ディストピアを描く作家は誰しも、機会は均等に分配されにくいことを知っている。大半の都市はきらびやかな中心部にあらゆるものが集まっているが、そこにアクセスできるのはゆとりのある人々だけだ。
都市の中心部から居住地までの距離が、機会と反比例することは多々ある。高層ビル群から離れるほど住宅価格は手頃になる一方、より充実した暮らしが思い描きにくくなる。
都市部の人々は整備された庭園を散策し、自然やエクササイズ、人との交流が心の健康とに幸せにもたらすポジティブな影響を享受している。しかし、郊外に暮らす人々にとって都市部は、高速道路で分断された遠い場所だ。
公共交通は都市の中心に向かって放射状に形成されていることが多く、行く価値があるのは中心部だけといわんばかりだ。
郊外の居住者は電車やバスでの通勤・通学を余儀なくされ、友人や家族と過ごしたりリラックスしたり、レジャーやカルチャー、スポーツを楽しむ時間が削られている。都会暮らしの夢は、都市のスプロール化とともに失われている。

ローカルなニーズを満たす「プレイスメイキング」

都市の中心部に重点を置くのではなく、郊外のインフラを再構築するべきだ。そうすれば、都市への一極集中が解消され、将来、私たちは大都市と同じように「ハイパーローカル」な地元を認めるようになるかもしれない。
そうした社会を垣間見ることができるのが、最近注目されている「プレイスメイキング」だ。
大都市の計画に振り回されるのではなく、ローカルなニーズを満たすための解決策を理解し、想像し、実現するため、コミュニティーとともに地域づくりを計画、設計するものだ。
結局のところ、大半の人は大都市ではなく地元の規模で生活をしている。都市部の人々を支援するための政策は、中心部から外れた人々には無関係であることが少なくない。
未来の都市の姿を描くには、都市化の多くのトレンドがそうであるように、アジアの大都市がヒントになる。欧米よりも都市化率が高いアジアで、住民が孤立するのではなく、より健康で幸せになるためにどのように地域づくりをしているのかに目を向けるべきだ。

ミクロとマクロのアイデンティティー

たとえば東京都が進めている「まちづくり」は、「都市計画」にとどまらず、地元の開発と緑地化を目指し、住民に都市計画の専門家らとともに取り組む権限を与えるものだ(自然と触れ合うことは心の健康と幸せのために重要だ)。
東京都は、地元の個性と特徴を組み合わせることで地域のアイデンティティーを奨励し、コミュニティーの魅力を高める取り組みを支援する。
快適で魅力的な生活環境を分散化し、各地域のアイデンティティーを高めることで、機会と帰属意識の両方を育むことができるかもしれない。この「地元感覚」は精神的な健康に不可欠だ。
東京は、ミクロとマクロのアイデンティティーを持つ都市の好例だ。
23区と26市、5町、8村からなり、それぞれ異なる自治体が管轄している。そのため、人々は東京都民という都市のアイデンティティーを共有すると同時に、より小規模な地域に帰属することの恩恵を受けている。

拡大する都市と「地元」の価値

超高齢化という日本が抱える問題に対する東京都の取り組みも、未来の都市づくりの参考になる。
東京都は、高齢者が日常の活動を容易に行える範囲ごとに区切った圏域の設置に乗り出している。都市の中に位置する村落のようなもので、住民の徒歩圏内に食料品店や図書館、郵便局、医療機関、社交的なクラブなどを確保する。
これは、快適な住環境の一極集中から、人々が地元で豊かに暮らせる場所づくりへのシフトを表している。しかし、過剰に排他的にならないよう留意しなければならない。
極端な例がインドのグルグラム(旧名:グルガオン)のケースで、同市では多くの住民がゲートコミュニティーの中で生活も仕事もしており、境界線の外に出ようとしない。
しかし、その地域は社会的な一体性の上に構築されているのではなく、他者を排除することで成り立っている。都市生活の利点の一つは多様性であり、都市計画はそれを維持し、育成すべきだ。
拡大する都市が増え続けるのに伴い、私たちは地域をどうつくり、まとめていくのかを考え直す必要がある。東京は、郊外の大規模化を進めて不平等を拡大させるのではなく、健全で幸福なコミュニティーをつくる良いモデルとなっている。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Layla McCay/Director of the Centre for Urban Design and Mental Health、翻訳:翻訳:中丸碧、写真:voyata/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.