360度評価はNG? リーダーのあるべき姿を徹底討論(後編)

2019/4/5
 毎週火曜日21時から1時間、ライブ配信しているTwitter Japanと連携した新しい経済情報番組「The UPDATE(アップデート)」。

 その1コーナーとして、識学×The UPDATE NEXTが誕生。ビジネスの現場で語られるさまざまな「常識」をテーマに、マネジメントの本質を知るプロ経営者が徹底討論。

 今回は、これまで何社もの要職を歴任したHIZZLE Founder / CEOの留目真伸氏とSHOWROOM社長・前田裕二氏、Plug and Play Japan VP , Marketing/Communications・at Will Work代表理事の藤本あゆみ氏をゲストに迎え、識学社長・安藤広大氏とのディスカッションを繰り広げた。

 前後編の2回にわたってお届けする。
※前編はこちら
【討論】常識として語られるテーマを経営者が斬る(前編)
安藤 次のテーマはこちらです。
安藤 このケースは正しい経営者のあり方だと思いますか? 藤本さんご意見をお聞かせください。
藤本 うーん、これで現場の声が拾えたら楽ですよね(笑)。
 懇親会はあった方がいいけれど、あくまで懇親の場。忌憚(きたん)なく意見を出しやすくする場ではありません。
 現場の声を聞きたいなら、仕事の場で1on1をしたら良いと思います。それに、お酒が入ると愚痴になりやすいですから。
留目 そうですよね。懇親会で忌憚なく意見を聞こうとしても、それこそ誤解を生む原因になりかねない。
藤本 仲が良いのはいいことですが、仕事である以上、一人ひとりがプロであるべきですからね。
前田 僕は、特に目的や理由のない「懇親会」は積極的にやるべきではないと思っています。
 ただし、プロジェクトが成功したときなど、成果にひもづける形での場は、思い切り手放しで設ける。そういったメリハリをつけています。
 組織の人数が増えると、コミュニケーションできる人数がどうしても減っていくので、経営者は1インタラクション当たりの価値を上げるべきだとも思います。
 たとえば、創業初期で人数がまだ少ないころは全員と毎週1on1していたとしても、どこかのタイミングでその労働集約モデルからは脱却せねばならない。
 言うなれば、社長が「いいね」することの価値を上げる、ある意味“偶像化”していくべきタイミングがあると思います。
 社長との1on1は、メンバーが5人しかいないときはそこまで重大な価値を見いだせないかもしれませんが、300人500人と人数が増えていくと、たった5分の1on1だったとしても相当の価値が置かれるようになる。
 マネジメントアクションの価値向上という観点で、戦略的に距離感のバランスをとるべきだと思います。
安藤 そうですね。組織の規模が大きくなると法で統治するフェーズが必ずやってきます。
 しかし、そのルールを決めるリーダーとルールを守る部下の距離が近くなると、ルールが感情を持ち始めて機能しなくなるんですね。
 そうなると、「えこひいきだ」「不公平だ」という感情が部下に生まれ、組織運営ができない状態に陥ってしまう。
 だから部下と上司は一定の距離を保つべきだと考えています。
 加えて、懇親の場に社長が張り切って参加し、ピラミッド型組織でいう一番下の社員の話まで聞くようになると、その上の階層の人たちの機能が弱まるんですね。
 3階層4階層をまたぐような懇親会は、何かのセレモニーくらいにとどめた方がいい。
 懇親の場で意見を自ら聞きにいくのではなく、それぞれが現場の実態を意見する仕組みを構築すれば、意見は自然と上がってくるようになります。
安藤 前田さん、こちらのケースはいかがでしょう。
前田 これをやったら自分はつぶれちゃうと思います(笑)。同時に走らせているプロジェクトが多過ぎて、ただでさえLINEやSlackが追いつかないのに。
留目 全部は無理ですね(笑)。
前田 きっと、事業の成長フェーズの兼ね合いなどによって、時間がたっぷりある経営者じゃないと難しいですよね。
 ただ、必ずしも共有が“悪”というわけではない。メンバーの日々の学びや気付き、ナレッジは効率的にシェアすべきだと思うので、全員が自由に参照できる社内wiki的な場所に書き込めるようにしています。
 知りたいことがあれば自分でそこをのぞきにいけばいいので、「逐一報告してくれ」とは思わないです。
留目 経営者がすべてわかっている状態は難しいと思うし、逆にわかったつもりになっている方が怖いです。全部知るのは無理だから、適切な目標を設定して管理するしかない。
前田 僕は、各チームの「問い」と「仮説」については原則すべて把握しています。その下にある実行レイヤーは、そこまで細かく見に行きません。
 ただ、メンバー自身が、「この問いは解いたところで何も得られないぞ」と気付いたときは「この問いは解かない方向でいきたい」という報告はしてもらいたいと思っています。
藤本 大企業になればなるほど、「全部知っておきたい」「全部報告させる」のが大好きな経営者がたくさんいらっしゃいますよね。
前田 なるほど。
藤本 報告のためのレポートを部下が作り、それを受け取った人がさらに上に報告するためのレポートを作る。
 上司のためにしかならない仕事をしているケースは多いと思います。
安藤 そうですね。プロセスではなく結果で管理するのが重要です。経営者は求める結果と期限を設定して、その間は口を出さないようにする。
 上司がプロセスに介入すると、部下は一人で走れなくなります。途中で止まったら上司が駒のように動かすことになるので、部下は成長できません。
 明確な結果と期限を設定したら、その期限に必ず報告が上がってきます。
 この、部下から自然と報告が上がってくる状態、会話は上司からではなく部下からスタートする状態を作れば、会社は効率的に動き始めるものです。
前田 360度評価は、外資系では主流ですよね。
 外資投資銀行にいたころは、360度評価の評価者を指名ができたので、評価期になると皆が互いにコーヒーを買い合うという謎の風習がありました(笑)。
留目 わかります(笑)。外資系あるあるですね。
前田 僕は割と良い(甘い)評価をつけることで有名だったので、コーヒーをおごってもらう量も半端なかったです(笑)。
 だからというのもありますが、特に意味をなしていなかった実感がありますね。とはいえ、360度評価によってボーナスの金額も変わるので、メンバー同士の接待に貴重な時間を使うことになる。
 組織が向かうべきベクトルと違うことをしているので、やり方を間違えるとマイナスインパクトを生むと思います。
留目 私も360度評価は好きになれなかった制度です。
 評価のためだけに接待をし始めるから、仕事の成果とは釣り合わないような、ものすごく高い評価を得る人もいました。
前田 昔、「メンバーをヒトではなくコトに向かわせること」とDeNA創業者の南場智子氏に教わったのですが、その意味で言うと360度評価はヒトに向かっていますよね。
 上司に褒められたい、周りからの評価を得たいと思うのもわかりますが、成果というコトに向かう状態を作らないと組織は大きく繁栄しないと思います。
藤本 最近は、日系企業でも取り入れられていますよね。
 私は、360度評価をリアルな「評価」につなげるから間違ってくるんだと思います。これって主観でしかないじゃないですか。だから、「この人はこう思っているんだな」というフィードバックとして割り切るべき。
 私も外資系企業で働いていたとき、360度評価は時間がとてもかかるので、周りが“コピペ”の評価をし始めるという現象がありました。そうなると全く意味がないですね。
安藤 識学としては、360度評価は一番やってはいけないこととお伝えしています。
 評価とは、市場から社長、部長、課長と続いていくものなので、一方向であるべきなんですね。
 それが全員から評価を得るとなると、上司からは数字を求められ、部下からはモチベーションを上げろと言われ、同僚からは助けてくれと言われる。
 器用な人ばかりではないから、優先順位がつかなくなると混乱します。それに、会社の業績に寄与していない人が評価される可能性も高い。
 ただ、藤本さんがおっしゃったように評価につなげるのではなくフィードバック、上司がそれを見て何かしらのエラーを発見するためだけに使うなら、ギリギリOKだとは思います。
(文:田村朋美、写真:岡村大輔、デザイン:九喜洋介)
前後編をまとめた全編動画はこちら