アルファベットの自動運転車部門であるウェイモは、LIDARセンサー分野で世界最大の生産者ベロダインと競合することになる。

数十社とビジネスの可能性を検討中

アルファベットの自動運転車部門ウェイモ(Waymo)が、センサー事業に参入する。3月6日、同社の自動運転車に使われているレーザーマッピングセンサーを他社向けに販売開始した。顧客がウェイモのコアビジネスである「ロボタクシー」事業と競合しないことが条件だ。
「LIDAR」として知られるこのセンサーは、レーザーを物体に照射して、近くにあるものを識別する。この技術は、次世代の倉庫ロボットやセキュリティシステム、自律走行トラクターなどにも組み込むことができる。
グーグルの自動運転車プロジェクトとして2009年に立ち上げられたウェイモは、自動運転車の業界リーダーとして広く認められている。同社は2018年末、アリゾナ州フェニックス郊外で、初めての商業用自動運転車サービスを開始。現在は数百人の顧客が登録しているという。
新部門は、10億ドル産業となったLIDARセンサーの分野で、世界最大の生産者ベロダイン・ライダー(Velodyne Lidar)と競い合うことになる。
だがウェイモにとって、今回の戦略は売上を増やすためだけではない。自律走行用センサーのハードウェアはウェイモの社内でつくられているため、生産量が増えればコストが下がる。
ウェイモのライダー部門を率いるサイモン・バーギーズは、インタビューで「自動車の生産台数を増やすに従って、センサー1式のコストも確実に下がるようにする必要がある」と語った。
「人々がこの技術を使って何をするか楽しみであり、こうしたスピンオフの技術がわれわれのビジネスのもう1つの柱になるかどうか検討するのも楽しみだ」
ウェイモの広報担当者によれば、現在、数十社とビジネスの可能性を検討中だという。

ライダー搭載ロボットはすでに活躍

ライダー技術で連想される自動運転車は、一般道には姿を見せ始めたばかりだが、この技術はすでにゴミ収集や道路の清掃、試験用ドローンに使われ始めている。
ウォルマートのような小売店やスーパーチェーン「Stop&Shop」は、ライダーを搭載したロボットを使って、棚に商品を補充している。警備会社ナイトスコープ(Knightscope)のライダーを使ったロボットは、モールや駐車場の警備を行っている。
これらのセンサーは周囲の正確な3Dビューを作成し、人間を認識し、物体を分類し、動きを予測することができる。
ベロダインで自動車以外の用途にライダーを販売する部門を率いるフランク・バーティーニは、ライダーの市場全体は毎年倍加しており、2019年には10億ドル(約1110億円)を超える見込みだと語る。市場のほとんどは自動運転車向けだが、およそ10分の1は工業や商業向けの新たな用途だという。
ライダーセンサーの発達曲線は、半導体におけるムーアの法則に似ている。18カ月ごとに解像度が2倍になり、価格は半分になるのだ。
バーティーニは、ウェイモの計画を知る前のインタビューで「コスト下落と生産量増加が、新しい産業を生む」と語った。「現在、市場はより多くのライダー生産者を支援することができる。需要が供給を上回っているからだ。だから価格が上昇している」
グーグルは10年前に初めて自動運転車開発に乗り出したとき、さまざまな生産者からセンサーやソフトウェアを調達した。それらを統合した結果、複雑になりすぎたため、同社は2011年、自社製のハードウェアとソフトウェアを開発することに決めた。
「すると、興味深いことが起きた」と、ウェイモのバーギーズは言う。「グーグルの他部門から『自分たちの製品に参加できないか』という問い合わせが入り始めたのだ」
ウェイモのジョン・クラフチックCEOは、2017年のブルームバーグとのインタビューで、将来はハードウェアを販売することも検討すると示唆していた。

自動運転を支える3種類のセンター

ウェイモの自動運転車には3種類のセンサーが使われている。車のルーフにシルクハットのように乗っている360度の球形のセンサー、前方を向いている長距離センサー、そして、車の周囲を監視する短距離センサーだ。
3つ目の短距離センサーは「Laser Bear Honeycomb」という名前で、ウェイモが唯一、すぐにでも他社に販売できるものだ。この名前は、開発チーム名が「Laser Bear」であることと、センサーの形にちなんでつけられた。
これは自動車以外の用途向けのウェイモのセンサーの中では、最も実用的だ。視野が広く、空間全体を素早く地図に表すことができる。とくに、車体のそばや地面の近くでも死角が発生しないようにするために設計されている。
バーギーズは、ウェイモが将来的には自動車部品メーカーにセンサーを販売する可能性を排除していないと述べている。「大きなコストであり、違うやり方のビジネスになるだろう」と彼は言う。
ウェイモはセンサーの顧客に対して、統合ソフトウェアとソフトウェアサポートを提供するが、本格的にライダーの会社になることには興味がないとバーギーズは述べた。
ウェイモは、Honeycombの価格をいくらにする計画なのか公表していない。最も近い他社製品は、ベロダインが最近発表した短距離向けライダー「VelaDome」だが、こちらの単価はおよそ4000ドル(約44万5000円)。大量購入ならばその半額だ。
ベロダインは、今年は1万ユニット以上のライダーを販売する計画だ。

自動運転から隣接市場も獲得へ

ライダーは細いレーザー光を照射し、光が跳ね返ってくるまでの時間を計測する。Honeycombは、平らな表面なら約9メートル先まで見ることができる。下り坂なら距離は2倍だ。水平視野は360度、垂直視野は95度まで、レーザーパルスを送ることができる。
照射されたレーザーは複数の測定値を送り返す。ウェイモの車両は、それが木の枝で揺れている葉なのか、木の後ろから今にも道路に飛び出しそうな子どもなのかを認識できる。光パルスを1秒間に数十万回当ててそのプロセスを繰り返すことで、ダイナミックな3Dビューができあがる。
倉庫では同じ技術を、作業員と物を区別するために使うことができる。「スマート・フォークリフト」が、持ち上げようとする物体の位置を判断するのにも役立つ。
ウェイモ製の自動運転車には、1台あたり4つのHoneycombセンサーがついている。
「最も費用対効果の高いセンサーであってほしいと思っている」とバーギーズは述べる。「自社の自動運転車を増やしていきながら、こうした隣接市場の一部も獲得していく。タイミングは非常にいい。こうしたほかの用途のほとんどは、ライダーをほぼそのまま使えるようだ」
ウェイモは、米国西海岸の数カ所の施設でライダーを製造する。ミシガン州南東部でも工場を探しており、2019年中頃までにはその工場で自社の自動車にセンサーの取りつけを開始する予定だ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Tom Randall記者、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:©2019 Bloomberg L.P
©2019 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.