最大の課題は何に力を注ぐべきか

オンラインメディア大手ハフィントン・ポスト(現在はハフポスト)の編集長で共同創業者でもあるアリアナ・ハフィントンが2016年、辞意を明らかにした時は多くの人が驚いた。ハフィントンは現在、彼女にとって2つ目の新興企業であるスライブ・グローバルに力を注いでいる。
ニューヨークに本社を置くスライブは立ち上げからたった半年でウーバー(ハフィントンは同社の社外取締役を務めている)やアクセンチュア、エアビーアンドビーなど複数の企業と、合わせて「数百万ドル」規模の契約を結んだ。
売上の柱は法人向けの健康やウェルネスに関するワークショップやセミナー、それにウェブメディア「スライブ・ジャーナル」におけるコンテンツだ。ここに至るまでの最大の課題は、どうやって力を注ぐ対象を絞ることを学ぶことだった。以下はハフィントンへのインタビューの抄録だ。
*   *   *
これまでの最大の課題は優先順位をつけることだった。私は何もかもやりたいと思ってしまうタイプで、協業を持ちかけてくれたすべての企業と一緒にやりたいと考えてしまう。だが立ち上げ直後のスライブでは、どこに集中するか決める必要があった。
法人向け事業においては「ラインの下」の会社──将来的な協業相手にはなりうるが、大手とのチャンスをものにすることに比べると優先順位が低い企業──はどれかを選別するという、つらい決断をした。
たとえば、法人向けソフトウエア大手SAPとの協業により、スライブは一度に3000社を超える企業との接点を手にした。IBMのワトソンを使ったインターネットベースのコーチングプログラムの開発も行っている。

必要なことを選び出し、集中する

一方でメディアプラットフォームにおいては、対象を絞る必要があった。これはハフポストから来た私にとっては大きな変化だった。ハフポストでは、何もかもをカバーすることが目標で、政治ネタもゴシップも扱うのが当たり前だったからだ。
スライブ・ジャーナルはハフポストに似た部分もある。外部筆者からの投稿を積極的に掲載することが、その一例だ。大きな違いは、スライブ・ジャーナルはいかにストレスを減らして心身ともに健康になるかという1点のみに集中しているという点だ。
ここでは読者の心に響く2つのことを選び出した。1つ目は科学だ。スライブ・ジャーナルでは心身の「充電」や、充電と生産性の関係についての最新の研究結果を紹介している。2つ目はデータの周辺にある物語を伝えることだ。
たとえば、アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)には、なぜ彼が十分な睡眠を取ることがアマゾンの株主にとって利益になるかについて書いてもらった。
また、女優で歌手のセレーナ・ゴメスには、デジタル・デトックスがどれほど生活の中で助けになっているかについて書いてもらった。生活に変化をもたらすことにつながる「お手本」を読者に示すことができたと思う。

決断にはデータと勇気が必要

立ち上げ直後の何を優先するかに関する決断は、リーダーとして行うあらゆる決断と同様に、データと勇気を要する。リーダーにとって非常に大切なことは、データだけが肝心なわけではない点を理解することだ。
SAP米国法人のジェニファー・モーガン社長(当時)と出会ったのは、私はまだハフポストにいた時で、すばらしい友情に発展した。スライブとSAPが提携すると、ジェニファーと私が個人的に友人だという事実は(仕事の上でも)役に立っている。
大企業とのビジネスでは、社内の各層を巻き込んでいく必要がある。だが何か問題が起きたとしても、受話器を手に取ってジェニファーと話せばいいだけだ。
立ち上げ後まもなくの時点で、法人向け事業はスライブの売上の半分以上を占めるようになった。スタッフを重点配置したというのも要因の1つだった。最初にどの部門の人間を採用するかによって、企業の立ち上げ期の売上の柱がどれになるかは大きく変わる。
だがメディアのほうも負けずに成長、スタートから半年もしないうちに、スライブ・ジャーナルは2000万人以上のビューワーを集めた。
ハフポストを辞めるのはとてもつらかった。何と言っても、ハフポストは私にとって3人目の子どものようなものだったからだ。だがいったん決断してしまえば、それが正しかったことは疑う余地もなかった。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Zoë Henry/Staff writer, Inc.、翻訳:村井裕美、写真:themacx/iStock)
©2019 Mansueto Ventures LLC; Distributed by Tribune Content Agency, LLC
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.