今、シリコンバレーでは「STEAM人材」が注目を集めている。「STEAM」とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、アート(Art)、数学(Mathematics)の5つの言葉の頭文字を取ったものだ。

ポスト情報社会に必要不可欠とされる「STEAM人材」をどう育てていけばいいのか。第3回は、プレスクールから高校まで、14年間のカリキュラムにデザイン思考を取り入れてい私立一貫校の例を紹介する。

第1回【STEAM人材】ポスト情報社会を支える、STEAM教育「5つの特徴」
第2回【STEAM人材】心と頭をともに育てる──オローニ小学校

超優秀な子供の潜在能力を伸ばす

プレスクール(幼稚園年中)から高校生までの14年間(P-12)のカリキュラムに、一貫してデザイン思考を取り入れながら、将来のSTEAM人材を育成しているのが、ヌエバ・スクール(Nueva School)です。
ラテン語で「新しい」を意味するその名の通り、最新のSTEM教育を行う先端的な学校として、世界中の教育者の関心を集めています。
先天的に飛び抜けて秀でた能力を持つ子供たち(Gifted and Talented)の潜在力を最大に伸ばすというミッションを掲げて、1967年に設立された私立校です。
開校当初は、幼稚園から小学校2年までの小規模なプログラムでしたが、1971年にはヒルスボロウの丘陵地に立つ広大な邸宅と敷地に、現在の初等・中等部キャンパスができ上がります。2013年には高等部が増設されて、サンマテオ市内に新キャンパスが開設されました。
現在はプレスクールから高等部まで約900人の生徒が、先進的なカリキュラムと自由な校風の中で学んでいます。
独特のミッションと授業計画でアメリカ教育省が選ぶ優秀校に過去3回も選ばれ、シリコンバレーの隆盛とともに近年ますます注目される教育機関です。

自主性が際立つ、探求型学習メソッド

オローニと同じく、ヌエバでも学習者の自主性が何よりも重んじられます。
プレスクールのカリキュラムでは「遊び」(プレイ)が重視されます。子供たちは自らの意思でアクティビティを選び、遊びを通じて他者との関わりを学んだり、自らを発見していく機会を与えられるのです。
ヌエバ教育の基礎である探求型の学習メソッドは、全学年を通じてカリキュラムに組み 込まれています。学生は、自由度の高い環境で様々なリソースを活用しながら、自らの学習を舵取りすることを学びます。
著者たちが取材に訪れたプレスクールの教室では、コンポスト(生ゴミや落ち葉・雑草 などを有機的に処理した堆肥)の作り方をめぐって、子供たちが様々な学びを体験していました。その様子をお伝えしましょう。
クラスはブレーン・ストーミングから始まりました。大きな紙を前にして、教師も子供も一緒になって座り込み、なぜコンポストを作ることが大切なのかを話し合っています。
なるべく多くのアイデアが出るように、そして全員が話すチャンスを持てるように気を配りながら、教師は子供たちが発するアイデアを紙に書き込んでいきます。文字だけでなく、絵や図も使って、紙一面に書き込みます。子供がいったことをわかりやすくいい換え、会話をファシリテートするのも教師の役目なのです。
ディスカッションが一段落したところで、全員で教室を出て園庭に向かいました。外の風に吹かれながら、コンポスト容器のまわりに集まった園児たちは、落ち葉や雑草が有機的に発酵していく様子を観察しています。
堆肥の匂いに自然を感じて嬉しそうな顔をする子や、鼻をつまんでのぞき込む子もいます。中に手を入れ、堆肥が「あったかい」と驚きの感想をもらす子供たちを前にして、ミミズや微生物の力を借りて腐熱で温かくなるメカニズムを、教師は会話をするように、わかりやすく話して聞かせています。

45分授業に科目を横断する多くの学び

観察が終わって教室に戻った子供たちは、園庭で見たり触ったり嗅いだりした感覚や、そこで学んだ言葉を振り返りながら、コンポストについて自分なりにつかんだ情報や知識を、アートで好きなように表現していくのです。
教室内のどんな場所を選んで作業しても構いません。机に座って取り組む子もいれば、床にひっくり返って考える子も、窓際で一緒に作業する子供たちもいます。
時間をかけてじっくりと考え、それを絵にする作業が終わると、今度はどんな思いをも ってその絵を書いたのかをクラス全員の前でシェアする時間です。
教師は1人ひとりをサポートしたあとで、作品をボードに貼り付け、他の生徒の絵や感想とどこが違うのか、何が似ているのかを分析します。最後に皆で一緒に拍手をして作業を終え、互いに作り上げた絵や発表した感想を称え合っていました。
たった45分間のこのクラスで、子供たちが社会科(なぜコンポストが社会にとってよいのか)、サイエンス(どうやってコンポストができるのか)、アート(感じたことをどう表現するか)、心理学(自分や人がなぜそう感じたのか)を学び、さらに批判的な思考力、コミュニ ケーション力、コラボレーション力、クリエイティビティといったスキルを身につけていく様子はなかなか見事です。
※ 次回は日曜日掲載予定です。
(バナーデザイン:大橋智子、写真:BeatWalk/iStock)
本書は『世界を変えるSTEAM人材 シリコンバレー「デザイン思考」の核心』(ヤング吉原麻里子〔著〕、木島里江〔著〕、朝日新聞出版)の第5章「シリコンバレーの教育最新レポート」の転載である。