終わらない進化と変わらない真実

20世紀が『スーパーマリオ』的なリニア(直線的)で非オープンワールドのゲームの時代なら、21世紀は『Fallout 76』や『レッド・デッド・リデンプション2』のように広大でエキサイティングなオープンワールドの時代だ。
ゲーム業界は絶え間なく進化を続ける。
石やガラスの玉を投げて遊んだ古代から、モノポリーなどのボードゲームの台頭まで急速に進化し、今や人々はインタラクティブなコンピューターゲームをプレイしている。新たな流行やイノベーション、体験やストーリーが次から次に生み出され、時代を超えて生き残るゲームはほとんどない。
それでもゲームの世界には、決して変わらない真実がひとつある。誰かと一緒に楽しみを共有する、記憶に残る私的な瞬間。それこそ、私たちがゲームをし続ける動機だ。
筆者自身、そんな瞬間をいくつも覚えている。
同僚に連れられて初めて『ポケモンGO』のレベル5レイドに参加したときの興奮。友人たちと『ロックバンド』でオンチな歌声を張り上げ、『Dance Dance Revolution』をマスターしようとして笑い合った夜。
進学のために地元を離れたときも、単語ゲーム『Words with Friends』を通じて母とつながれたこと。初めて一緒に『マインクラフト』で創造を始めたとき、娘が見せた輝く表情──。

マルチプレイという革命を経て

とはいえ、昔からこうだったわけではない。コンピューターや家庭用ゲーム機で孤独にプレイしていた日々、またはゲーム内の対戦相手がどこか不完全なAIだったあの頃を思い出してほしい(そう、卓球ゲームの『ポン』のことだ)。
自宅に友達を呼んで一緒に遊べるようになったのは、マルチプレイ対応の家庭用ゲーム機の第1世代──セガの「SG-1000」や「Atari7800」──が登場した後のことだ。
これはゲーム体験にとって革命的な出来事だった。コンピューターゲームが初めて、自分ひとりで楽しむだけでなく、コミュニケーションや交流の手段になったのだから。
それから20年後。もはやゲームは「うちの居間に来られる人と」という制限にもとらわれなくなった。今ではインターネットを通じて、誰とでも、世界のどこでも、好きなときにプレイできる。
大人気になるゲームタイトルは多くの場合、友人とオンラインで楽しい時間を分かち合えるタイプのものだ。
イギリスの田園地帯でカーレース対決ができる『Forza Horizon 4』しかり、仲間と海賊団を組んで冒険する『Sea of Thieves』、未来世界を舞台にチームで戦うシューティングゲーム『Halo』シリーズしかり……。

機種を問わずアクセスできる新体験

こうした交流体験を強化すべく、ゲーム業界は何年にもわたってひたすら進化を続け、チャット機能やプレイヤーのマッチング、シェアード・ワールド(世界設定の共有)、協力プレイができるCO-OPアドベンチャーを考案してきた。
その最新形にして最も革新的なものが、クロスプラットフォームプレイ(クロスプレイ)だ。クロスプレイは、ひとつの機種に縛られるゲーム体験を過去のものにする。
これからは、没入型のVR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)を堪能できるようになるのはもちろん、バスの中でニンテンドースイッチでプレイしようと、自宅のソファに座ってXboxでプレイしようと関係ない。
いつでも、どこでも、好きな相手と互いに好きなデバイスを使ってシームレスにゲームができるようになるはずだからだ。来るべき新しい世界では、異なる機種間での協力や対戦は「例外」ではなく「標準」になる。
問われるのは、どのプラットフォームでプレイするかより、誰とどこでプレイしているか──それが近い将来のゲームの形だ。
基準の前進によって、ゲームコミュニティ内部で協力体制や開かれた議論が実現し、プラットフォーム横断型の改善の障壁が下がり、結果的にゲーム業界におけるイノベーションの可能性が増進するだろう。
その恩恵はたちまち消費者におよぶ。これからのユーザーは機種を問わずにアクセスできる新種のゲーム、新種の体験を楽しむことができる。

障害者のアクセスを実現した、その先に

もちろん「スーパーパワー」を手にすれば、スーパーサイズの責任もついてくる。
コミュニケーションやマルチプレイという方向性が成功するかどうかは、プレイヤー同士の交流の在り方次第だ。より交流度の高い世界を作るには、ゲームが創造する環境がどんな人にも開かれたものであるよう、目を配らなければならない。
たとえば、新たな研究や製品開発のおかげで、今では身体能力に制限のある人々がゲームを楽しむ道が開けている(これまでのゲーム業界はゲーム機の構造やプレイ体験の面で、運動障害や視覚障害のある人に対してあからさまではないながらも差別的だった)。
マイクロソフトは先頃、「Xbox Adaptive Controller」を発表した。脳性麻痺や脊椎損傷の患者など、身体障害がある人がそれぞれの状態に合わせてカスタマイズできるゲームコントローラーだ。
一方、イギリスの障害者支援団体スペシャル・エフェクト(SpecialEffect)が開発したソフトウェア「EyeMine」を使えば、重度の身体障害者も視線を動かすだけで『マインクラフト』をプレイできる。
ゲーム業界のリーダーである私たちの役割とは、あらゆるプレイヤーがコミュニティの一員になれるようにすることだ。
プラットフォームや身元や能力を問わず、協力し、競い合い、手を携えて冒険できてこそ、ゲームは進化を続けられる。この「ゲーム」に勝利できれば、誰もが一緒に、よりよくプレイできる日が来る。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Helen Chiang/Head of Minecraft、翻訳:服部真琴、写真:Todor Tsvetkov/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.