人材業界というイメージから、テクノロジー企業へと変貌を遂げている株式会社ネオキャリア。前回の記事では、その企業思想について副社長から語ってもらった。今回は、そういった企業姿勢の象徴ともいえるプロダクト「jinjer」事業を率いる若き執行役員、本田 泰佑氏をインタビュー。「jinjer」が提供する将来価値を中心に話をうかがった。

日本における「HRテック」の現状

――最近は、ずいぶんと「HRテック」を標榜する企業が増えてきているように思いますが 。
それでも、まだまだ本質的な意味での普及には及んでいないように感じています。それは米国との比較の中でも明らかです。例えば、HRテクノロジー関連企業に対する投資額は米国の1.4%程度と言われています。「zenefits(ゼネフィッツ:人事管理・勤怠管理・給与計算・保険の管理などの人事業務を効率化するアメリカの中小企業向けクラウドサービス)」、「Gusto(ガスト:経理、福利厚生、採用と、人事に関する幅広い作業をシンプルかつ一括で管理できるプラットフォーム)」など、いわゆるユニコーン企業の数も違います。
2012年、NASDAQに上場した「workday」も、直近で4兆円近くの時価総額になっています。これらの事実からみても、HRテックを重要視するレベルが日米で大きくかけ離れている印象を持ちます。
そもそも、これまでのITサービスの潮流を見ても、まずは米国で成功事例が生まれてから日本の大企業が輸入して導入するというケースが多く、一般的な規模の企業に到達するまでには、まさに周回遅れのような状況になっています。
また、現状では、HRテック以前に、人事管理システムを導入している日本の企業は7割程度に留まっています。米国ではすでにHRテックは“Must Have”=“絶対に入れなくてはいけない”テクノロジーのひとつと認識されているのに、現状の日本ではまだ、“Nice To Have”=“あれば良い”にとどまっています。
さらにいえば、目先の業務改善が逼迫していることから、人事データを活用した戦略人事(経営戦略と人材マネジメントの連携・連動)に取り組もうと考えている企業は、まだまだ多くはありません。あったとしてもそれは、サービスを提供するベンダーの動向に寄っている部分はあるかと思いますので、より多くの企業様にその本質的な必要性に気づいていただけるよう、我々も日々継続してご提案を続けております。
本田 泰佑 株式会社ネオキャリア HR Tech事業本部 執行役員
大学を卒業後、2014年にネオキャリアへ入社。経営企画本部にて、多くの新規事業の企画立案、立ち上げに携わる。2016年、国内初の「人事向けプラットフォームサービス『jinjer』」のローンチと同時に、同サービスを統括する事業部長に就任。2018年10月、同社最年少の執行役員に就任。
ただ、人事データを用いた本質的な活用までには至らないにしても、数年前と比較すると行政による「働き方改革」の推進や、各領域に特化したクラウドサービスの登場によって日本のHRテック業界は盛り上がりを見せているのは確かです。人事評価、労務、勤怠、経費など、部分最適が可能なサービスを利用し、自社の弱点を補完することで業務改善を図っている企業が増えてきている状況です。
これらは非常に良い兆候であり、人事関連システムの導入率もここ2~3年で一気に引き上がっておりますので、今後もこの様な流れは続いていくと思います。
しかしながら、複数クラウドサービス導入の次にあるのは、データベースが分離することによるマスタ管理や経営戦略に必要なデータアウトプットの煩雑化です。
この様な課題に対して、私たちが考える理想的な改善のアプローチは、部分最適ではなく、その根幹にある人事データベースを統合することで、業務改善を図るというものです。
日本企業が抱える本質的な課題は、少子高齢化に伴う労働人口の減少であり、それに対して、労働者一人ひとりの生産性をあげていくことが急務となっています。そのためには、企業の人事戦略の立案と実行を担う人事部が、旧態然の「オペレーション中心の人事」から、「経営陣にモノを言える人事」に変わっていく必要があります。
前回の記事で加藤が述べたように、私たちネオキャリアは、少子高齢化という社会課題にいち早く着目。それを解決するための手段として、ヒトとテクノロジーのかけ合わせによる価値創造に取り組んできました。
テクノロジーの力によって、人事担当者を煩雑なオペレーションからできる限り解放し、必要な人事データを整備することで、経営にインパクトを与える「戦略人事」に取り組める環境を整備することは、これからの日本社会をより良くするためにも、必要不可欠であると思います。

「jinjer」で人事データを統合する意義

――データベースを統一すると、なぜ業務改善につながるのでしょうか。
例えば、2019年4月1日から、Aさんという方の役職が課長から部長に昇格したとします。役職が変更されるということはワークフローも同様に変更されるということですが、複数サービスを導入していると、組織変更や人事異動の度に各システムにアクセスし、データを更新する必要があります。簡易的なマスタ情報であれば、APIの連携などにより実現が可能ですが、ワークフローなどはサービスごとに異なる場合も多いため非常に複雑で、システム連携による実現難易度も高くなります。
ERPの思想と同じく、データベースが統合されていれば、異動によって生じるデータ変更について、すべてワンタッチで処理が可能となります。そうなれば勿論ミスは減りますし、オペレーション効率も大きく改善されます。
私たちが提供するSaaS型プラットフォームサービス「jinjer」は、こういった統合データベースの設計思想から生まれました。提供させていただくプラットフォーム上で、すべての人事サービスを一気通貫で提供できる点に強みがあると自負しています。
「jinjer」に関しては、人事、勤怠、労務、経費、マイナンバー、モチベーション管理を包括的にひとつのプラットフォーム上でサービス提供しており、2019年度中に給与管理のリリースも想定して開発を進めております。
jinjerのコンセプト。人事管理、勤怠管理、給与管理などをひとつのプラットフォームとして提供する。
人事、勤怠、給与といった、まさに人材管理の根幹となる3つのデータが同一のプラットフォーム上で管理できるクラウドサービスとなれば国内初の事例となります。人材管理の根幹を押さえた上で、ここに利用企業様にとっての競合他社との離職率や従業員のエンゲージメント、平均給与額などの比較を行う「ベンチマーク機能」など、付随するサービスを追加。お客様に対して利便性を提供するだけでなく、先に述べた戦略人事を実現する、あらゆる角度からのデータ分析が可能となります。
――さらに、今後も「jinjer」は進化をしていくということですね。
私たちが目指しているのは、まずは人事部にとって第一想起されるプロダクトになるということ。人事ご担当者の皆様を、ますます煩雑になっていく人事オペレーションから解放するというミッションに対して真摯に向きあい、先に述べたように戦略人事立案へと意識が向かう環境を作っていければと考えます。
これって、積み重ねだと思っているので、当たり前ですが、しっかりとユーザー企業様の声を拾いながらサービスのブラッシュアップを続け、より多くのお客様に「使っていてよかった」とおっしゃっていただけるよう、愚直に顧客とサービスに向き合い続けるが、結局の近道なのかと考えています。
そしてもうひとつ、まずは国内におけるSaaS、もしくはサブスクリプションモデルの事業として第一想起されるサービスにしていきたいという目標も掲げています。日本にも、非常に成長を遂げているサービスがいくつもありますが、どうせやるのであれば、米国の「workday」「Salesforce」「Adobe」「Marketo」など、“世界”をベンチマークしたいと思います。
そのためには、多くの企業様、ユーザーに使っていただく必要があって、いわゆるT2D3、3倍(トリプル=T)を2回、2倍(ダブル=D)を3回というレベル感での成長を遂げていく必要があります。そして、すでにNPSなども導入しておりますが、カスタマーサクセスの追求により、顧客満足度の向上とチャーンレートの改善も並行して突き詰めていきます。
これまでも「ファンメーキング」に非常に注力してきたネオキャリアですが、組織の規模が拡大してきた今、お客様にとっての価値を再定義するフェーズにあると思っています。SaaSのサブスクリプションモデルといういわゆる、CSと継続率が生命線の事業において、私たちのような事業体がまず、「カスタマーサクセス」を再定義しています。50近くあるネオキャリアグループ全体の事業に対してもそれらを還元し、より多くの局面で日々向き合うお客様に価値を提供し、そういた循環の中で日本社会をより良くしていきたいと本気で思っています。

一生ものの肩書きを手に入れるチャンス

――今、この時点で御社が欲している人材像について教えてください。
この「jinjer」という事業領域においては、セールスも開発も、マーケティングも企画もそうですが、あらゆるところにおもしろいボールは転がっている状況にあると思っています。ですから、それをご自身で拾っていける、拾っていきたい、そんな方にとってはおもしろい職場になるのではないでしょうか。
2020年に向けて景況感も不安定になりつつある中で、改めて役職ではなく、一生ものの肩書きをいかにつけられるかがより重要視されるタイミングだと思っています。個の力が問われる時代になり、「どこどこの会社のマネージャーをしていました」ではなく、「そこで何をしてきたのか?」「だから今あなたは何が出来るのか?」がさらに重視されるようになっていきます。
たとえば数年後、私たちの「jinjer」が大きな影響力を持つサービスになっていたとしたら、「あのjinjerのカスタマーサクセスの基礎をつくった○○です」「大ヒットしたjinjerのCMをつくった○○です」みたいに(笑)。これはキャリアを積んでいくうえで重要なことだと思いますし、特定のフェーズやタイミングでなければ得られない体験価値だと思います。
私たちの事業に共感を持って取り組んでくださる方のご応募、心よりお待ちしております。
(インタビュー・文:伊藤秋廣[エーアイプロダクション]、写真:岡部敏明)