電子マネーは新石器時代にルーツ

未来の通貨は「世界ドル」や『スター・ウォーズ』の「銀河標準クレジット」のような単一通貨にまとまりそうもない。むしろ種類が増えて、百万種類もの通貨が生まれるだろう。
ばかげた話に聞こえるかもしれない。結局のところ、たとえば、誰もが「ユニバーサル人民元」を使うようになれば、そのほうが簡単ではないか。
しかし、カネは買い物に役立つ単なる交換媒介物にはとどまらない。人はカネを長期にわたって持ち続けたいものだ。そして、おそらくスターバックスにはある種の通貨が最適だが、年金には違う種類の通貨のほうがいいかもしれない。
私たちは何百、何千、あるいは何百万種類もの通貨が存在する世界に備えるべきだ。こうした多様化したスタイルは新しいもののように感じられるが、そのルーツははるか昔にある。
社会人類学者ジャック・ウエザーフォードは何年も前に「電子マネーの世界は、ここ数百年の私たちが知る市場よりも、貨幣が発明される前の新石器時代の世界経済に似ている」と書いた。当時、カネは「記憶」そのものだった。
私はあなたにトウモロコシを借りた。あなたは神父に牛を借りた。神父は私にワインを借りた。氏族の社会では、カネに関することは集団的記憶であり、不変の脳内ブロックチェーンだった。

中央銀行の不換通貨は制度上の存在

だが規模が大きくなると、それでは対応できなくなった。孤立していた村々がつながり、交換は地域限定ではなくなり、そして町や都市の発展で、誰が誰に、誰のために何を借りたかを思い出すこともできなくなった。そうしたことを仲介する何かが必要だった。
私たちはそれを繰延支払い(借金の決済)のための手段とし、取引可能な保存された価値に変えた。今度はそれらが交換の媒体になった。請求権は記憶から粘土板になり、コインになった。
今日、私たちは古代の氏族の村や、最近の過去の都市の匿名性にもはや属していない。私たちはマーシャル・マクルーハンのいう「グローバル・ビレッジ」、すなわち地球全体がひとつの村のように緊密な関係をもつ世界にいる。
脳の記憶の代わりに、ソーシャルメディア、携帯電話、そして共有台帳がある。ウェザーフォードが、近い将来に通貨という手段は必要なくなると予測しているのはこのためだ。
私たちは現在の通貨の仕組み、すなわち中央銀行によって管理される不換通貨を、自然界の法則のように考えている。だが実際には、そうではない。それは、人が作った一時的な制度上の取り決めだ。
イングランド銀行元総裁のマーヴィン・キングは著書 『錬金術の終わり』で、中央銀行が「絶滅する可能性は、完全に排除することはできない」と述べている。

コミュニティが創造する新たな通貨

ひとつの通貨だけでは何にも対応できるというわけにはいかない。いくつもの国をまとめることを意図した通貨、ユーロがいい例だ。
経済構造の違う多くの国々で、金融政策(強いドイツが弱いギリシャを支えること)を維持することがいかに難しいかを考え、そのうえで単一の世界通貨というものを想像してほしい。
スペインとスロバキアに対して同じ金融政策を行うことは、地球と惑星アルファケンタウリの9番目の惑星に対して同じ政策をとることよりはたやすいだろう。
この点、キングとウェザーフォードの言葉は確かに正しい。グローバル・ビレッジの通貨は、少数の国や超国家的中央銀行に制限されることはない。ブロックチェーンと暗号化技術は、文字通り誰でもお金を稼ぐことができることを意味する。
通貨の創造の中心となるのは、個人というよりコミュニティだろう。生まれた通貨には、それを生み出したコミュニティの価値が込められている。
私は金の裏付けがあるイスラムの「eディナール」を貯金することを選ぶかもしれないし、あなたは再生可能な電力で支えられている「キロワット時」を貯めようとするかもしれない。だが、互いに取引をすることはできる。AIスマートフォンがそれぞれの通貨の交換を可能にしてくれるからだ。
私は通貨の未来を予言できるほど賢くはないが、起きそうもないことはよくわかる。ブロックチェーンという装いをほどこしていても、国の通貨の本質は変わらない。
原文はこちら(英語)。
(執筆:David Birch/Author of "Before Babylon, Beyond Bitcoin"、翻訳:栗原紀子、写真:Martin Barraud/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.