逆じゃないかと思えるかもしれないが、実はペースを落としたほうが速く成功できる。その理由を説明しよう。

自分の人生を切り開く土台を築く

もっと急ごう。もっと多くをこなそう。頑張ろう、もっと頑張ろう──。こんなかけ声をよく耳にするのではないだろうか。
ソーシャルメディアにあふれるインフルエンサーや起業家、その道の「カリスマ」たちは、何が何でも頑張ることの素晴らしさを喧伝する。頑張ることが、あるいは単に頑張りについて語ることですら、実際に結果を出すよりも大事であるかのようになってしまっている。
私も例外ではない。それを鼻にかけていたわけではないが、自分の事業を立ち上げたころには、あまりにも頑張って働きすぎていた。週80~90時間働く日々が、数年間続いた。「頑張る」ことと「生産性」を混同し、「働くこと」が「結果」なのだと誤解していたのだ。
マインドフルネスも実践していなかった。旅行や遊び、友人や家族のための時間を作っていなかった。もっと頑張って、もっと長時間働けば、もっと成功できるだろうと考えていたのだ。
だが、それは間違いだった。疲れ切ってしまった私は2017年、気を失って倒れ、脳震盪を起こした。
「いつも頑張らなくては」という心理を矯正するのにいいのが、「ペースを落とす」ことだ。馬鹿げていると思うかもしれないが、頑張りすぎないことが成功と失敗、あるいは好調と燃え尽きの分かれ道となる場合もある。
パーソナルコーチやソーシャルメディアのインフルエンサーなどが、資格がある人もない人も頑張って働く生き方を盛んに喧伝する一方で、リーダーや起業家として実際に結果を出して成功している人たちは、成功の土台はペースを落とすことで築かれることを理解している。
働きすぎないようにすることで、なぜ成功が早まり、より深い充実感を覚え、自分が望むように人生を切り開いていけるのだろうか。理由を4つ挙げて解説しよう。

1. 目指す方向が明確になる

目指す方向が間違っていたら、頑張っても意味がない。休みなく働いているけれど、その先にあるのは自分の望む結果ではないという人が多すぎる。トレッドミルで走っているようなものだ。働いているのに、どこにもたどり着けない。
ペースを落とし、目指す方向をはっきりさせる時間をつくろう。下を向いて忙しく走っていては、自分がどこに向かっているのかが見えない。ある一点だけに焦点を当てていては、視界の隅に映る輝くものは目に入らないのだ。
こうした状況を改善するために、毎週1時間の「現状確認」をスケジュールに入れておこう。自分の目指すところについてじっくりと検討し、目の前に現れる課題やチャンスを観察するのだ。
何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのか、次の週はどこにエネルギーを集中できるのか、考えてみよう。

2. 死んでしまったら頑張れない

大げさだが、言いたいことは伝わるはずだ。何もすることができなくなってしまえば、働き続けて自分の望む人生を切り開くこともできない。
私の場合で言えば、もっとひどい頭の怪我をしていた可能性だってあった。もしそうなっていたら……。全力で頑張ることに、そこまでの価値があったと言えるだろうか。
成功を目指しているのであれば、心や体、精神を健康に保つために必要なものを自分に与える時間を、いとわずに取るべきだ。毎日24時間あるのだから、瞑想や運動、健康的な食事作り、日記付けをやらないことに、言い訳は通用しない。
一般の人は、1日平均53分間をInstagramに費やしているという。これには、FacebookやSnapchat、LinkedInを使っている時間は含まれていない。ペースを落とすなんて、恵まれている人のすることだ、贅沢だなどという主張は言い訳にすぎない。
オプラ・ウィンフリーにだって、あなたと同じ1日24時間しかないのに、彼女は瞑想をしている。マーク・ベニオフ(SalesforceのCEO)、アリアナ・ハフィントン、ビヨンセ、ジェフ・ウェイナー(LinkedInのCEO)もそうだ。彼らにできるのだから、あなたにだってできるはずだ。

3. 感情のパワーをうまく使えるようになる

自分の感情が役に立つことを見逃している人は非常に多い。感情はあなたを導いてくれる。自分の内面や周囲で何が起こっているのかをじっくり振り返る際にも役に立つし、どう反応すればいいのかも教えてくれる。
成功している人たちは、自分の感情を意識して制御している。感情的になって酷い振る舞いをしたり、間違った行動をしないようにしているのだ。
そのことをうまく言い表している決まり文句が「名前をつけることができれば、飼いならすことができる」だ。頑張りすぎないようにすることで、自分の感情に気がつくことができ、それを説明できるようになるだろう。そうすれば、その感情を消化して、健全な反応を導き出すことができる。
たとえば、怒りというのはすごい感情だ。何か間違っていることがあれば、それをあなたに教えてくれるし、嫌がらせを受けたら、その状況を変えるエネルギーをあなたに与えてくれる。
しかし、気分が不安定のまま、いつも頑張っていたら、怒りがあなたの最良のエネルギーを奪い、あなたはそのまま行動してしまうだろう。その悪影響で、うまく進んでいたものが台無しになり、目指す成功から遠ざかってしまう可能性もある。
ペースを落とすことで、感情を行動にうまくつなげることができるようになる。自分にとって本当に役に立つ、成功に結びつくような行動を取れるようになるだろう。

4. より良い決断が下せるようになる

ひとつの間違った決断で、自分が今まで力を注いできた取り組みが台無しになってしまったら、いつも頑張ってきた意味もなくなってしまう。
たとえて言えば、あなたの心は車のエンジンのようなものだ。いつもアクセルを思い切り踏み込んで走っていると、エンジンは過回転して、オーバーヒートし、故障してしまう。
スピードを落として休息と瞑想の時間を取れば、精神的ストレスの水準は下がる。気持ちが急いていなければ、のびのびと情報を吸収し、現状を把握し、良い決断を下すことができる。
成功するためには良い決断を下すことが必要であり、ペースを落とせば、より良い決断が下せる。どうすればゆとりの時間をもっと持てるのかを考えてみよう。
このアドバイスは、より良い仕事をし、もっと速く、もっと効率良く、そしてずっと続けていけるようなやり方で働くのに役立つはずだ。また、自分の人生や、そのプロセスも、新たなレベルで楽しめるようになるだろう。
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これまで解説してきた良い効果について検討し、あなたの人生をもっとゆっくりさせるための簡単なステップをひとつ見つけてほしい。そして、うまくいくか様子を見ながら、次は他の方法も試してみよう。
頑張りすぎて脳震盪を起こすはめになったことで生き方を変えた者として言えるのは、頑張る時とゆっくりする時のバランスを取れば、人生はずっと楽しくなるということだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Andrew Thomas/Founder, Skybell Video Doorbell、翻訳:半井明里/ガリレオ、写真:jotily/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.