【佐渡島×GDO石坂】コミュニティが業界をアップデートする

2019/2/8
出版業界をアップデートする佐渡島庸平氏と、ゴルフ業界を変革し続けるGDO(ゴルフダイジェスト・オンライン)社長の石坂信也氏。業界は違えど、どちらもいまだに古い慣習が根付く。現在、未来に向けてどんな課題をどう変えていくべきなのか。ゴルフを愛する2人の変革者が語りあう。
担当作家がゴルフ好きでハマった
石坂 佐渡島さんは、かなりゴルフが好きだと聞いています。
佐渡島 めちゃくちゃ好きです。講談社に勤めていたころ、担当作家がゴルフ好きだからやっておくようにと言われて始めたのですが、見事にハマりました。一番やっていたときは年間70ラウンドくらいプレーしていました。
石坂 どういった方とラウンドするんですか。
佐渡島 今は、ほとんど経営者の方ですね。
 以前はゴルフのために車を所有していたのですが、手放しました。ゴルフにはクルマが不可欠だと思っている人が多いかもしれませんが、そんなことはありません。
 朝、知り合いの経営者のところに行って移動の往復4時間、車の中でゆっくり話す。もちろん、ラウンド中もランチの時間もコミュニケーションできますよね。そういった機会ってなかなか取れないので、貴重な時間になっています。
石坂 それは貴重な時間ですよね。本当はそういった時間の過ごし方って、ゴルフじゃなくてもいいのかもしれない。ただ、ゴルフそのものが持つエンターテイメント性がより相手との距離を縮めてくれますよね。ゴルフを純粋に一緒に楽しむ、そして移動時間やプレー中のリラックスした会話の中から有意義な意見交換が生まれる。そんな非日常空間でのコミュニケーションに人は魅せられるのではないでしょうか。
ゴルフをすれば相手が読める
佐渡島 もうひとつ、僕がゴルフを好きなのはプレーしていると相手の性格が出てくるところです。グリーンでの振る舞い方など、どんな気質の人物なのか読むことができる。
石坂 よくゴルフを一度ともにすれば、人となりや性格が垣間見えると言いますね。
 またゴルフは仕事だけの人間関係ではなく、趣味の世界ならではのコミュニティを作ることもできると思います。
 例えば、弊社の社員でも30歳くらいからゴルフを始めて、キャリアは4~5年なのにゴルフという共通項と行動力や気質が認められ、普段接することがないような立派な人たちと交じってラウンドしている者も多いですよ。年齢やステータスを抜きにしたフラットなコミュニケーションが可能なのがゴルフの特性でもあります。
佐渡島 一般的に「会員制のゴルフ場」は、一人で行ってほかの会員さんと仲よくなるのが楽しみ、みたいな感じってあるじゃないですか。
 でも、格式のあるゴルフ場のメンバーになるのは非常にハードルが高いですし、メンバ ーシップ限定のゴルフ場も減っています。そういう出会い方がネット上で設計されると面白いと思うんです。
石坂 そうですね。最近は伝統的な会員制のゴルフ場だけでなく、さまざまなスタイルで参加できるゴルフ場も増えて面白くなってきています。
 ちなみに、欧米ではメジャーツアーが開催されるような有名なゴルフ場はパブリックコース(一般に公開されている、会員制ではないゴルフ場)であるところも多いんですよ。
 日本でもゴルフ場がクローズドな場所から、多くの人に門戸が開かれた場所になりつつありますが、「新たな出会い」を設計するという意味ではネットの活用にまだまだ可能性がありそうですね。
リアルの極意は、誰と出会えるか
佐渡島 かつてはネットの世界はネットだけで閉じていたのが「オンラインでつながって人と会う」「リアルで人と会ってオンラインでもつながる」など、今はネットとリアルの境目がなくなっています。人と人とをつなぐ“イベントの時代”になってきているな、と。そういった流れの中で、面白そうな誰かと出会える仕組みが設計されると良いですよね。
 先日、NewsPicksが主催したプロピッカーと会員が一緒にラウンドをするゴルフコンペに参加しました。プロピッカー同士顔は知っていても話したことない人もいて、ゴルフ場で初めてコミュニケーションを取った人もいました。「ゴルフをやるんだったら、今度行こう」とプライベートの約束が生まれたりしましたね。そういう気軽さは、「ゴルフという共通項」が生み出す作用かもしれませんね。
石坂 実は、GDOはリアルイベントを年間400くらいやっています。我々はインターネットを土台にした事業を営んでいますが、実際にゴルフをプレーするのは「リアルの場」。ですから、そういった「場づくり」は重要視しています。
スピードゴルフ、スノーゴルフも
佐渡島 「年間400イベント」は、すごいですね。ゴルフという世界の中でどんな役割を果たしていきたいと考えているんですか?
石坂 ゴルフはこうあるべき、と定義するつもりはありません。伝統ある格式高いゴルフ場でのプレースタイルも、デニムとTシャツでのカジュアルなプレースタイルも、どちらも正解でも不正解でもないと考えています。我々が選択の幅を増やしたり、多様な楽しみ方を開発していきたいと思っていますね。
 今、私たちが提案しているスタイルのひとつに“スピードゴルフ”があります。ゴルフとランニングを組み合わせた新スポーツで、通常のコースで18ホールや9ホールを走りながらプレーをして、打数とタイムの合計スコアで競う(いずれも少ないほうが上位になる)競技です。
 トライアスロンのような過酷なスポーツなので限られた人が対象ですが、“時間”の価値が非常に高い現代社会において、競技ではなくても「走りながらゴルフをする」という考えはあってもいいのかもしれませんね。走りながらプレーをすると、100以上のスコアの人でも通常だと4時間以上かかるところ、2時間半ぐらいで終わってしまうんですよ。
クラブを持って走りながらプレー。打数とタイムの合計スコアで競う「スピードゴルフ」
 ほかにも、冬の北海道での“スノーゴルフ”といった企画もあります。ゴルフ場がクローズする冬の時期に雪の上でプレーをするのですが、普通では考えられないような環境でゴルフをするという体験そのものが魅力です。
 GDOとしては、多様な提案をしてその中のひとつでも世の中にハマってくれればいいのかなと。
雪が降り積もるゴルフ場で、スノーウエアでプレー。カラーボールが映える白銀の世界だ
佐渡島 それらはゴルフ場にGDOが提案していくのですか?
石坂 そうですね。イベントを開催するうえでゴルフ場の協力は不可欠ですから、こちらから提案をします。以前よりも我々のチャレンジングな提案に賛同してくださるゴルフ場が増えてきて、さまざまな取り組みが実現しています。
佐渡島 もしくは、ゴルフ場でなくてもできることもありそうです。
石坂 ええ。ゴルフをしたくてもゴルフ場は遠いし、練習場も都心からは離れたところが多いですよね。GDOでは『GOLFTEC(ゴルフテック)』というゴルフレッスンスタジオを運営していますが、さらに時間と場所を意識した「ミニマムレッスン」的なものもあったらどうだろうと妄想することがあります。
駅徒歩数分圏内に多店舗展開をするGOLFTEC。データによるスイング分析を売りにしている
 例えば、駅ナカに3分間写真のような箱を設置しオンラインでレッスンをしたり、または自分の好きな練習をサクッとしていくなど、時間はないけどもっとゴルフを楽しみたい人に向けたサービスなんてものもあったら面白いですよね。
 2018年には、羽田空港第1ビルにGOLFTECの体験型ラウンジ「GDO Golfers LINKS HANEDA」をオープンしました。顧客層が変わり、これまでメインだった都内中心のお客さまだけではなく出張で羽田と地方を行き来するビジネスパーソンの方々が来店するようになりました。わざわざ早めに空港に来て出発前にレッスンを受けたり、または帰る途中にコーヒーを飲みがてら打席を利用していただいたり。
佐渡島 そういった場所でもコミュニティができつつあるのですね。
羽田空港の中にある「GOLFTEC」では、カフェスペースにフライト情報の表示も
ゴルフと出版…アップデートの共通項
石坂 佐渡島さんは出版業界をアップデートされていますね。出版業界で特に課題を感じている部分はどこですか?
佐渡島 出版業界でもネットの活用が課題です。現在なかなかうまく活用できていない状況の中で編集者として作家をネットやSNSにどう対応させるかが僕が取り組んでいることです。
 出版業界もゴルフ業界と同じです。合理的かどうか関係なく習慣を変えられない人は多い。10年あれば習慣って変わりそうですが、意外と変わらずその根深さを感じます。
 出版における日本のEC化率は大体10%以下だから、ネットだけに集中してビジネスをやると、結果としてすごく大きいマーケットを無視することになる。かといって、大きいマーケットだけを気にしていると時代に全く対応できない。やっぱり両方やることの難しさみたいなのはありますね。
 石坂さんがゴルフ業界をアップデートしてきた道のりは、どんなものだったのですか?
石坂 振り返れば、GDOは日本のゴルフをアップデートし続けてきたと思っています。
 僕がGDOを立ち上げたのは2000年で、ネット系ベンチャーが盛んになり始めた頃です。バブル崩壊から10年が経ち、会社の大型倒産や民事再生などが本格的に始まった時期で、ゴルフ関連企業の倒産はもちろん、ゴルフ場不動産への投資失敗や会員権でやけどする人が多数出ていた時期でもあります。
 そんな時、僕はゴルフ業界にインターネットを持ち込めばいろんな変革ができると思ったのです。日本のゴルフの多様性を後押しするためにも、GDOがゴルフ業界で存在感を持つ必要があると思ってやってきました。
 あれから19年経ちますが、まだまだアップデートの余地はあると思っています。もちろん伝統に敬意を払う必要はありますが、時代の流れに合わせて「ゴルフそのもの」も「ゴルフビジネス」もさらなる変化を遂げる必要があるでしょう。ときには、既存のルールやこれまでのしきたりを超えて、新しい形を模索して実現する必要があります。
佐渡島がゴルフをプロデュースしたら
石坂 佐渡島さんは肩書としては編集者ですが、仕事の内容としては“プロデューサー”と言っていいわけですよね。
佐渡島 そうですね。
石坂 佐渡島さんの経験と感性でゴルフをプロデュースするとしたら、どうされますか。ぜひアドバイスを聞いてみたいです。
佐渡島 出版業界の場合、以前は編集者が作家をプロデュースして本を出すっていうルートが100%で、本の中身さえ考えていればよかった。今はそれが崩れています。大事なのは、どうやって作家と読者を出会わせるかまでを含んだ全体像のプロデュースです。
 その場合、必要なのは複数のチャネル、メディアを用意すること。雑誌だけでなく、TwitterなどのSNSやメルマガ、読者のレビューなど、多くのコンテンツに情報を出しておくことが絶対的に重要です。
 先ほど話に出たGDOのイベントですが、ゴルフ軸だけで企画されていませんか。すべてがゴルフ軸のイベントだと、ユーザー個々人のスタイルに合うイベントは1人につき数個しかないでしょう。
「ゴルフ脳」の限界を突破する新たな視点
石坂 新しい感覚を持つ人や若い人たちにゴルフを好きになってもらえるような仕掛けをしていきたいのですが、「ゴルフ脳」で考えてしまうと既定路線に沿った内容になりがちですね。もっと自由にやってもいいと思うのですが。
佐渡島 僕のところにIT系の人たちが漫画アプリをやりたいと相談しに来る。そのとき僕が言うのは、編集者に頼りすぎるのではなく、エンジニア主導で何がいいコンテンツかを考える方が、今はいいですよ、ということ。
 メディアが変わるということはコンテンツの種類が変わること。そこに既存のルールを持ち込んでしまってはダメなんです。
 ゴルフ自体の本質的な面白さとは何か。僕は人の性格が分かること、新しい人との出会いが生まれることと述べました。僕なら、ここにもっとフォーカスする方向で発想するでしょう。
 メディアの出し方という意味で、出口には多様性を持たせることが重要です。逆に入り口に多様性があると迷うんです。
 例えばゴルフショップに行ってもクラブの種類が多すぎて何を買えばいいか分からない。ハマっている僕でさえ分からない。そんなに性能は変わらないはずなのに、語る面白さでマニアが複雑な世界観を作り上げて、初心者が入りにくい状態なってしまっています。入り口はもっとシンプルにすべきでしょう。
 あるいはエンタメとして本質的な面白さを追求する。例えば、ゴルフがほかのエンタメと違って面白いところをみんなで100個ぐらい出して、全員一致でこれだというものを見つける。その本質を一番に感じられるイベントを催し、それを伝えるコンテンツを用意する、といったように全部がそこにひもづくように設計する。それを2~3年続けると流れが変わると思います。
石坂 なるほど。佐渡島さんのお話を聞いていると、まだまだやれることがあると感じますね。
 リアルなコミュニティへの注目度が高まる中で、ゴルフは有効なツールになりえますし、コミュニティ形成に大きく貢献できると思っています。
 ゴルフが持つ本来の魅力というのは、だれかとだれか、だれかと何かを「つなぐ」媒介になれるところです。佐渡島さんがおっしゃるように「ゴルフのエンタメとしての本質的な面白さ」を伝えると同時に、「ゴルフが媒介となって生まれた新たなつながりやコミュニティ」を見せていきたい。
 今まで自分が出会えなかったような人との関係や感じたことのなかった気持ち、そういったものを生み出してくれるツールであることを多くの人に知ってもらいたいですね。
 ゴルフの持てる力を表現し、本質的な面白さを体感してもらうような企画を仕掛けるうえで、佐渡島さんにはぜひ手伝ってもらいたいですね。
佐渡島 ゴルフについて考えるのは大好きなので、ぜひご一緒させてください。
(取材・執筆:石塚隆 編集:久川桃子 撮影:稲垣純也)
【Golf Links the World】
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