規制当局と繰り広げられるバトル

米国の規制当局はこの1年で「金融の再発明」を約束するスタートアップ各社に、それまでより大きな関心を示すようになった。その結果、ファイナンシャルテクノロジー分野の大手企業は、これまでしばしば無視されてきたある業務を優先し始めている。
Bloombergが求人情報を調査したところ、いくつかのフィンテック企業は法規制コンプライアンスの担当者を探しているようだ。ベターメント、コインベース、ロビンフッド・ファイナンシャル、ソーシャル・ファイナンス(SoFi)、ウェルスフロントなどが、さまざまなコンプライアンス関連職の求人を出している。
ベンチャーキャピタル(VC)が出資する企業の多くがそうであるように、フィンテック企業も何より製品の成長を追い求める傾向がある。しかし金融は経済分野の中でも規制が厳しい領域であり、ルールを独創的に解釈する余地は小さい。
そのため、法務やコンプライアンスの専門家が求められていると指摘するのは、ニューヨーク大学レナード・N・スターン・ビジネス・スクールで金融学を研究するデイビット・ヤーマック教授だ。「しばらくの間、法律専門家たちは大儲けできるはずだ」
フィンテック企業は最近、規制当局と無視できないほど派手にもめている。2018年夏には暗号通貨取引所を運営するコインベースが、3つの買収案件について米証券取引委員会(SEC)の承認を得たと発表した。しかしSECはこれを否定し、コインベースは7月に前言を撤回した。
その数カ月後、米連邦取引委員会(FTC)がSoFiと和解したと発表した。SoFiは学生ローンを借り換えることで節約可能な金額について、嘘の主張を行った疑いをかけられていた。
株取引アプリで人気を博しているロビンフッドは2018年12月、銀行口座とよく似た同社のサービスを提供する計画の撤回を余儀なくされた。預金がきちんと保証されるかどうかという疑問を投げ掛けられた直後のことだ。
連邦上院議会の超党派グループが「Robinhood Checking & Savings」と名づけられていた同社商品への懸念を表明し、SECの介入を要求していた。
同じころ、ウェルスフロントとある小規模なロボ・アドバイザーのスタートアップが、投資商品の広告に嘘があったという疑惑を巡って、SECと和解に達した。両社はいずれも不正行為について認めてもいないが、否定もしていない。

コインベースには20人以上の担当者

政府機関が部分的に閉鎖している影響で、SECは正常な機能を損なわれている。政府機関の一部閉鎖は2018年12月に始まり、近現代では最長記録を更新中だ。
メキシコ国境に壁をつくるための予算案が連邦議会で可決されない限り、譲歩するつもりはないとドナルド・トランプ大統領は明言しているが、いずれ業務が再開されることを企業はわかっている。そして規制当局は、企業への不満を募らせた状態で戻ってくる可能性が高い。
アトランタ連邦準備銀行のラファエル・ボスティック総裁は2018年、ある銀行カンファレンスにおいて、「リスクを最優先に考える」スタートアップはほとんどなく「その事実に不安を感じている」と述べた。
大手フィンテック企業の大部分はすでに、法規制コンプライアンス担当者を何人か採用している。たとえば、LinkedInの役職を見る限り、コインベースには20名以上の法規制コンプライアンス担当者がいる。
しかし、ほかの部署よりコンプライアンス部門の人材が圧倒的に少ないケースもある。SoFiでは、コンプライアンス部門よりマーケティング部門のほうが2倍以上のスタッフを抱えていることを、LinkedInのデータは示唆している。
フィンテック専門のVC各社は出資対象の企業に対して、規制当局を軽視しないよう強く求めている。
トライブ・キャピタルの共同創業者アルジュン・セティは「われわれは企業と面接するとき、製品や市場、チームの話をするだけでなく、規制環境の中でどのように事業を展開するかについても時間をかけて話し合うようにしている」と述べる。
「つまり、コンプライアンスやベストプラクティスを担当するのにふさわしい人材を採用しなければならないということだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Julie Verhage記者、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:blackred/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.