[東京 23日 ロイター] - 2018年の貿易収支が23日に発表され、日本の「輸出けん引力」に明確な陰りが見えてきた。一方で2019年は、米中経済摩擦が早期に解決しない場合、中国経済の減速が鮮明となり、世界貿易全体に波及するリスクが強く意識され出している。世界的な貿易量の一段の減速や円高リスクシナリオが台頭した際に、内需への波及を食い止めるために日本政府・日銀に十分な対応力があるのかどうか。予想外の試練が待ち受けている可能性もある。

<輸出数量の減少が意味する未来>

「日本が貿易黒字で稼ぐ局面は、今年フェードアウトしていく」──。日本総研・調査部長の牧田健氏は、2019年は輸出けん引力が弱まり、設備投資も世界経済の不透明感の強まりから弱めに転じる可能性があると指摘。戦後最長の景気拡大が見込まれている日本経済は、従来はゼロ%とみていた景気後退の確率が、10-20%に上がったと予想する。  

顕著な現象は、輸出数量の失速だ。12月貿易統計によると、輸出数量指数の前年比が昨年11月からマイナスに転じ、12月は6%近い落ち込みとなった。

特に中国向けは同14%減少となった。具体的には半導体や半導体製造装置が急減し、通信機、自動車も振るわなかった。

アジア向け輸出も同じ傾向となり、半導体関連の落ち込みが大きい。

一方、対米輸出は今のところ増勢を維持している。ただ、主力の自動車輸出は、減少傾向となっている。

グローバルな貿易にも、不透明感が漂っている。21日に公表された国際通貨基金(IMF)世界経済見通しでは、2019年の成長率見通しが前回の3.7%から3.5%に下方修正された。中国経済のさらなる減速と英国の欧州連合(EU)離脱をリスク要因として指摘し、一段の混乱が起きる可能性にも言及している。

こうした情勢を踏まえ、農林中金総合研究所の主席研究員・南武志氏は、日本の輸出動向について「米中摩擦などの影響はまだ大きくはないが、今後の展開次第では一段と下押しすると思われる。足元では中国経済の減速を受けたアジア(含む中国)向けの輸出減が目立つが、早晩、欧米向けが減少に転じる可能性もある」と見ている。

<枠組みを左右する世界経済リスク>

政府の経済財政諮問会議は18日の会議で、民間議員が提示した検討課題に海外リスクへの対応が明記された。

19年前半の検討課題の冒頭には「今年は、国際経済状況が不安定化するリスクがある」として、「国際経済のリスクが顕在化した場合には、柔軟で機動的な経済運営を実行する等の対処をすべきである」と書き込まれた。

日銀が発表した昨年10月末の「展望リポート」では、海外リスクに関して、保護主義への言及はほとんどなかったが、23日公表分では、海外リスクが「強まっている」と記述。「企業や家計のマインドへの影響を注視していく必要」との表現も加えた。

市場関係者の間では「日銀は警戒感をあらわにしている」(SMBC日興証券のリポート)との声も出ている。

すでに設備投資マインドには、影響が出ている。11月機械受注はプラス予想に反して落ち込み、10ー12月期は6四半期ぶりの前期比マイナスになる可能性が高まっている。1月ロイター短観でも、製造業のマインドが2年ぶりの低水準に落ち込んだ。

世界経済の先行きを警戒した企業心理の悪化を一段と加速させかねい要因が、もう1つ存在する。米連邦準備理事会(FRB)が、中国の予想を超える減速などに直面した場合、現在の引き締め政策から緩和政策に転換し、その影響が外為市場で円高となって波及してくる経路だ。

デロイト・トーマツの・リスク管理センター長、大山剛氏は、FRBが金融政策を現在の引き締めから中立、もしくは緩和方向にかじを切って、自国景気を支えることになるのではないかと予想。「結果的に金融政策の緩和余地が乏しい日本は、再び円高に苦しみ、輸出産業にとっては厳しい環境となりそうだ」と見ている。

世界の政策当局者は、緩やかな景気拡大というメーンシナリオを維持しているが、米中経済摩擦の長期化など、リスク要因が台頭した場合、にわかに情勢が急変する可能性もある。

すでに輸出競争力が衰え、貿易赤字が基調として定着する兆しが見え始めた日本にとって、リスクシナリオの顕在化に備える「余力」があるのかどうか、政府・日銀の力量が問われそうだ。

(中川泉 編集:田巻一彦  )