[東京 23日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は23日、金融政策決定会合後の記者会見で、「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で2019年度の物価見通しを引き下げたのは、昨年秋からの原油価格下落の影響が大きく一時的であるとの見方を示した。

その上で、20年度に向けた物価の見通しは大きく変わっていないと述べた。

<物価のモメンタムは維持>

展望リポートでは、消費増税や教育無償化の影響を除くベースで、19年度の消費者物価(除く生鮮)の上昇率を前回見通しの前年比1.4%から同0.9%へ、20年度を同1.5%から同1.4%へ引き下げた。

黒田総裁は、物価見通しが19年度を中心に下振れていることについて「昨秋以降の原油価格の下落によるところが大きく、直接的な影響は一時的なものにとどまる」と述べた。また「20年度はそれほど変わってない」とも指摘し、「物価見通し自体が20年度に向けて大きく変わったわけではない」、「物価の基調を規定するマクロ的な需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率への見方は大きな変化はない」との考えを示した。

日銀が目指す2%の物価安定目標達成時期は明示されていないが、物価見通しの引き下げによってさらに後ずれしたのではないかとの指摘に対しては「前回(の展望リポート時)と比べて、達成時期が大きく先送りになったというわけではない」と述べた。

総裁は「物価安定目標に向けたモメンタムはしっかりと維持されてる」とし、先行き、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくとの見通しをあらためて示した。プラスの需給ギャップをできるだけ長く続けることで、賃金・物価が緩やかに上昇するというメカニズムに変更はないとしている。

ただ、物価目標達成に時間を要することも認め「需給ギャップのプラスの状態ができるだけ長く続くよう、政策の持久力を意識して、ベネフィットとコストの両方を考慮しながら、適切な政策運営を行うことが大事」とし、「現在の強力な金融緩和を粘り強く続けるのが最も適当」と述べた。

<市場変動、先行きの不確実性に対しやや過敏な動き>

年末から年始にかけて、株式市場や為替市場が不安定な動きとなった。総裁は、企業収益がしっかりしており、経済のファンダメンタルズに大きな変化はみられないとし、「市場の動きは、先行き不確実性に対してやや過敏であったように見受けられる」と指摘した。

足元では「株価は回復し、為替相場も落ち着き取り戻しているようにみえる」との見方を示し、「内外の金融市場の動向や経済・物価へ与える影響について注意深くみていきたい」と述べた。その上で「経済・物価・金融情勢を踏まえ、適切な政策運営に努める方針」と語った。

<海外経済の下方リスク高まり、必要なら追加的な措置>

展望リポートの中では、海外経済について「下振れリスクはこのところ強まっているとみられ、企業や家計のマインドに与える影響も注視していく必要がある」との文言を加えた。

黒田総裁は「米中の経済摩擦や欧州の要因などが海外の下方リスクをやや高めているのは事実」との見方を示した。ただ「現時点で、米国や中国のメインシナリオを変えるようなリスクが顕在化しているとか、顕在化しつつあるという状況ではない」と指摘し、「わが国の経済・物価・金融情勢をみて、必要なら追加的な措置もとる」と述べた。

米中貿易摩擦については「長引けば世界経済に大きな影響が出てくる」との懸念を示しながらも、「個人的意見だが、収束に向かうと思っている」との見解を示した。

*内容を追加します。

(清水律子 編集:田中志保)