世界3000万人がつながる教育用SNS


 昨今、インターネットの力で大きく姿を変えつつある産業の代表例が教育だ。大学の講義をネット配信する「MOOC」などが有名だが、革新の波が押し寄せるのは高等教育ばかりではない。米シリコンバレーにあるエドモド(Edmodo)は、小中高の学校教育向け交流サイト(SNS)として世界の利用者数が3300万人まで増えた。


エドモドが提供する小中高の学校教育向け交流サイト

 エドモドは、いわゆるK12(幼稚園から高校卒業までの教育期間)の生徒の教育向けに作られた交流サイト(SNS)だ。現在世界190カ国以上で利用が広がっている。利用者の大部分は教師と生徒。だが、そのほかに子供の親や学校職員なども参加している。全体の3割ほどが、米国外からの利用者だ。

 創業者はニック・ボルグ氏とジェフ・オハラ氏。彼らは、もともと米シカゴの学校でIT(情報技術)職員をしていた経歴を持つ。特にニックは、高校生のときから自身が通っていた学校の技術部門で働き始めたというユニークな背景を持つ人物で、教育現場で求められるテクノロジーに造詣が深い。

 この2人の創業者は2008年9月に、教師と生徒が安全にコミュニケーションをしたり、学習コンテンツを共有したりできるサービスとして、エドモドを設立。最初は単にツイッター上で「エドモドをチェックしてみて」といった呼びかけをしただけだったが、学校の先生の間で自然と口コミが広がり、そして急激に利用者増加に繋がった。

 エドモドでは、登録した先生が、安全かつプライベートな「グループ」を作ることができる。このグループに生徒を「招待」することで、彼らと簡単に学習コンテンツを共有したり、宿題を出したりすることが可能になる。疑問点について、生徒と先生が時間や場所を問わずに議論をできる点も大きなメリット。また、複数の教師が1つのクラスを共有することで、グローバルなネットワークが形成されていることも大きな特徴だ。こうしたネットワークを利用すると、例えば米国の学校でスペイン語を習っている生徒が、スペインにいる本場の先生とつながったりすることも可能になる。

 同社はこれまで利用者数とネットワークを広げることに注力してきたが、2年ほど前からは収益化の道も探り始めている。具体的には外部の開発者が参加できる教育向けアプリのプラットフォームを運営することで、その販売手数料で収益化を図ろうとしている。同社のCEO(最高経営責任者)のクリスタル・ハッター氏は「現在、100人の開発者が600のアプリを販売中」と明かす。さらに、こうしたエコシステムを背景に日本を含むアジア太平洋における利用者拡大にも今後力を入れていくという。


米エドモドのクリスタル・ハッターCEO(最高経営責任者)

教育×技術は国境を越えた戦いに

 エドテック(教育関連のテクノロジー)は現在、地域による教育格差を埋める動きとして高い注目を集める。インターネット環境さえあれば、世界中の人が質の高い教育資源にアクセスできるからだ。海外ではこのマーケットに優秀なエンジニアが徐々に集まりつつある。エドモドには実績のある米モジラのエンジニア、デイモン・シコレ氏が加入。2013年3月にエドモドが買収した教育向けアプリのプラットフォームである米ルートワンにも、米グーグルの初期メンバーの1人で機械学習のスペシャリストが在籍しているという。

 エドテック市場は国内でも徐々に活発化し始めているが、世界規模で利用されるプラットフォームにはいまだ育っておらず、エンジニアもまだ他領域に取られている状況だ。グローバルに展開し始めた海外の教育系のスタートアップに対し、国内勢が今後、どう対抗していくのか。教育分野の企業は特にローカル志向が強いだけに、今後の出方に注目が集まりそうだ。