ウィーワーク(WeWork)が、新たにファンドを立ち上げて不動産購入に進出。対する不動産オーナーも、フレキシブルオフィス事業に新規参入しつつある。

不動産の食物連鎖

ウィーワーク(WeWork)は、不動産オーナーやブローカーの縄張りにますます足を踏み入れつつある。そんななか、不動産業界も反撃の狼煙をあげている。
企業価値420億ドル(約4.6兆円)超と評価されるオフィスシェアリングの大手ウィーワークは現在、大企業との取引を増やしつつある。通常なら不動産オーナーが契約を狙う相手だ。この件に詳しい消息筋によれば、ウィーワークは物件を購入する投資部門を立ち上げる計画を進めているという。
その一方で、ブラックストーン・グループ(Blackstone Group)やティシュッマン・スパイヤー(Tishman Speyer)ら不動産業界のビッグネームは、独自のフレキシブルスペースの提供へ進出しつつある。またブローカーはブローカーで、ウィーワークが取引から自分たちを排除しつつある現状に警戒心を強めている。
ウィーワークの拡大志向は、同社が創業から8年で塗り替えた業界を、再び一変させるおそれをはらんでいる。その強い影響力を考慮して、同社についておおっぴらに語ろうとする不動産関係者はほとんどいない。
ブルームバーグがインタビューした不動産・銀行業界の幹部10人あまりは、非公式ながら、同社との提携に関する懸念を打ち明けてくれた。問題は、あつれきが大きくなった場合、ウィーワークがその急成長とそのとてつもなく高い評価額を維持できるかどうかだ。
グリーン・ストリート・アドバイザーズ(Green Street Advisors)で不動産投資信託(REIT)部門のディレクターを務めるセドリック・ラチャンスは「不動産の食物連鎖を構成するほぼすべての要素に関わることになれば、ウィーワークと他社との競合関係は深化するだろう」と語る。
「そうなれば、ウィーワークが手を出せない物件も出てくるかもしれない」

エンタープライズ事業

日本のソフトバンクから支援を受けるウィーワークは、世界的なリースブームの波に乗って、世界でもっとも企業価値が高いスタートアップの仲間入りを果たした。
第3四半期現在で世界83都市に300以上のワークスペースを持つ同社は、マンハッタンとロンドン、ワシントンD.C.の各都市における最大のプライベートオフィス・テナントだと豪語している。
ウィーワークはこれまで、不動産オーナーが空きスペースを埋めるのを支援し、多額のブローカー手数料を発生させることによって、不動産業界にブームを巻き起こしてきた。
同社は当初、10~15年契約でスペースを借り、内装をデザインしなおしてから、スタートアップ向けに個別の机や小さなオフィスを貸し出していた。ところが最近では、もっと大口の顧客にも手を広げるようになっている。現在はメンバーの30パーセント以上が、従業員数1000人以上の企業で働いている。
ウィーワークはエンタープライズ事業の一環として、大口顧客向けにマルチフロアのオフィス全体をデザイン・運営している。そしてこのことが、同社と従来の不動産オーナーの間にあった境界線を曖昧なものにしている。
エンパイア・ステート・ビルディングのオーナーであるエンパイア・ステート・リアリティー・トラスト(Empire State Realty Trust)のトニー・マルキン最高経営責任者(CEO)は「当初は、シェアオフィススペースのプロバイダーを、テナントを呼び込んでくれる存在と見る向きが強かった」と語る。
「ところがいまは、とりわけウィーワークなどのプロバイダーが企業向けのソリューションに参入していることから、テナントとオーナーの関係、テナントとブローカーの関係、ブローカーとオーナーの関係をディスラプト(破壊)するほうが大きいと我々関係者はみなすようになってきていると思う」

新たなファンドを立ち上げ

ウィーワークは不動産所有にも足を踏み入れている。たとえば、プライベート・エクイティー・ファームのローン・グループ(Rhone Group)と共同で、マンハッタンにあるロード・アンド・テイラー・ビルディングを購入したりしている。
そしていまウィーワークは、不動産購入にさらに深く入り込みつつある。同社は現在、買収のための不動産投資ファンド「ARK」の立ち上げを進めていると、この件にくわしい消息筋は話す(ウィーワークはまだこの取り組みを公にしていないため、消息筋は匿名を希望している)。
「Real Deal」が先に報じたところによると、ウィーワークはニューヨーク・リート(New York REIT)で不動産オーナー部門の代表を務めていたウェンディー・シルバースタインに接触しているという。ウィーワークは2018年5月以降、不動産買収のベテラン少なくとも4人を迎え入れている。
ウィーワークはARKとシルバースタインに関してコメントを拒否している。
ウィーワークの最高開発責任者(CDO)であるグラニット・ジョンバラジによれば、この一連の採用は、通常の長期賃貸の先にあるコワーキングスペースの多角化を目指す取り組みの一環だという。
ウィーワークは空きスペースをいちはやく埋めることで物件に価値をもたらしており、この上昇傾向にうまく乗るのが同社の狙いだと、ジョンバラジCDOは話す。
ウィーワークは多額の手数料でブローカーをひきつけてテナントを呼び込んでいるが、現在はブローカーとの競合も始まりつつある。
新たなプログラム「Space Services」の一環として、ウィーワークに関心を持っていたが条件に合うワークスペースを見つけられなかった中小企業を不動産オーナーに紹介して、手数料を取るサービスを開始する計画を進めているのだ。
ジョンバラジCDOは「私個人は、これを仲介サービスの一種だとは思っていない」と語る。「ウィーワークのプラットフォームに関心を持ってくれたが、何らかの理由でサービスを受けられない潜在顧客に対して価値を付加するには、どうすればいいだろうか。それに対する答えだ」

ブローカーを迂回して取引

とはいえ、大手仲介業者2社の関係者(ウィーワークは同社のクライアントであるため、匿名を希望)によると、ウィーワークはブローカーを迂回して取引を行い、彼らを憤慨させているという。
この件にくわしい消息筋によれば、他社もウィーワークの信用リスクを理由に、同社にスペースを貸したり、同社が主要テナントである物件に融資したりすることを渋っているという。
景気の風向きが変わったらどうなるのかという懸念もある。ウィーワークは子会社をつくり、それぞれの賃貸契約を自社に代わって行わせている。つまり、ウィーワーク自体は大きなリスクを負わずに、各ワークスペースを畳むことができるのだ。
ウィーワーク初の社債に関する資料によると、15年契約の場合、同社は約6~12カ月間しかリースを保証しないようだ。
カナダのオフィスオーナー、アライド・プロパティーズ・リート(Allied Properties REIT)のマイケル・エモリーCEOは「10年契約でスペースを貸し出す場合、テナントに信用力があるかどうか、そのテナントが明日も来年も再来年もそこにいるつもりかどうかをきちんと確かめるべきだ」と話す。
同社は、ウィーワークにスペースを貸す予定はないという。
ウォール街の投資家もウィーワークを警戒している。ウィーワーク社債の取引は、2018年4月の発行以来ずっと低迷が続いているからだ。
金融取引業規制機構(FINRA)の債券価格報告システム「TRACE」によれば、年利7.875パーセントの同社7年債7億200万ドル(約777.4億円)相当が、発売直後に額面を割り込み、現在は1ドル当たり92.75セントで売買されているという。

不動産オーナーのパートナー

これに対してウィーワークは、同社は建物の改善を手伝うという点で不動産オーナーのパートナーであり、その存在によって物件の価値や賃料を高めることができると主張している。
ウィーワークには、不動産業界に多くのファンがいる。そんな同社の大きな後ろ盾となっているのが、最大の出資者であるソフトバンクだ。
ソフトバンクは2018年11月、ウィーワーク株の買い増しを目的とする30億ドル(約3300億円)相当のワラント(新株予約権)に署名した。これによりウィーワークの企業価値は420億ドルを超え、その額はアメリカで株式公開しているどのオフィスオーナーのそれと比べても、2倍以上にのぼることとなった。
ウィーワークはいまのところ、スペースの賃借にも問題を抱えていない。CBインサイツ(CB Insights)が2018年6月に発表したデータによれば、同社は毎月、世界各地に新しいスペースを50万~100万平方フィート(約4.65万~9.3万平方メートル)のペースで増やしているという。
ニューヨークと東京の物件をウィーワークに貸しているグリーンオーク・リアル・エステート(GreenOak Real Estate)の創業者でパートナーのソニー・カルシは「ウィーワークは優良テナントだ。リース契約やスペース要件に厳格だ。それでいて、人々が物件に対して抱く印象もよくしている」と話す。

ライバル企業も続々参入

ウィーワークにとっての最大のリスクは、経験豊かな大手の不動産企業が続々と競争に参加しつつあることかもしれない。CBREグループ(CBRE Group)は2018年10月、フレキシブルオフィスを独自にオープンしたい不動産オーナーをサポートする新事業「Hana」の開始を発表した。
Hanaのアンドリュー・キューピエックCEOによると、オーナーたちはこのタイプのスペースに対して高まっている需要の波に乗りたがっているという。
キューピエックCEOによると、オーナーたちは「管理下に置かれ、透明性が与えられるやり方で」それがなされることを望んでいるという。Hanaは、CBREグループの仲介業とは独立して運営されている(CBREグループの仲介業にとっては、ウィーワークもクライアントだ)。
ティッシュマン・スパイヤーも2018年9月、ニューヨーク市のロックフェラーセンターをはじめとする物件にフレキシブルスペースを導入するコワーキング事業「Studio」の開始を発表した。
シルバースタイン・プロパティーズ(Silverstein Properties)やランド・セキュリティーズ(Land Securities)などの不動産オーナーも、この部門への参入を果たしている。
一方、ブラックストーンやブルックフィールド・プロパティー・パートナーズ(Brookfield Property Partners)は、ウィーワークにスペースを貸す一方で、インダストリアス(Industrious)やコンビーン(Convene)などのコワーキングプロバイダーとも提携して、自社の建物内にあるフレキシブルオフィスを管理してきた。
ウィーワークはこれまで、アメリカ国内では不動産オーナーからスペースを借りて(事がうまく運べば)その利益を得てきた。一方、ライバル企業は多くの場合、マネージメントコントラクトとして取引をまとめ、売上をオーナーと分け合っている。
ウィーワークのジョンバラジCDOは、同社も現在、アメリカ国内ではマネージメントコントラクトを増やしつつあると話す。2018年10月現在、ウィーワークは過去1カ月間で30社との交渉を行ったという。
ジョンバラジCDOは、「Bisnow」が2018年11月に行ったインタビューのなかで、ティッシュマンやCBREの新規参入は気にしていないと語った。参入企業が増えることによって、フレキシブルスペースがアセットクラスとして安定するというのだ。
エンパイア・ステートのマルキンはこれまで、ウィーワークへのスペースの貸し出しを拒み続けてきた。ほかのコワーキング企業に対しても不信感を抱いている。
マルキンに言わせれば、リースに関する基準を下げたり、シェアオフィスプロバイダーを呼び込むためにインセンティブを提供したりするような不動産オーナーは「怠惰であり、目先のことしか考えていない」という。
「ウィーワークがどうなろうと、責められるべきは不動産オーナーだ」とマルキンは語る。「彼らがそれを許しているのだから。そうさせたのだから。彼らが、このようなビジネスを可能にしてきたのだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Natalie Wong記者、Ellen Huet記者、翻訳:阪本博希/ガリレオ、写真:©2018 Bloomberg L.P)
©2018 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.