商社・建設・物流を持つ重量物輸送トップ企業の神髄

2019/1/15

国内に数社のみ。巨大重量物を動かす技術

巨大なトレーラーで運ばれる、電車や新幹線、蒸気機関車。深夜から明け方にかけて道路で車両が運ばれる、マニアには有名な光景だが、目にしたことはあるだろうか?
SLの夜間輸送の様子
実はこの巨大な重量物輸送ができる企業は、国内では数えるほどしかない。なかでも、今まで1000を超える鉄道車両を全国各地に輸送し、国内で大きなシェアを誇るのが、1923年に創業した老舗企業のアチハだ。
大手鉄道会社の電車を買い付けて海外に販売・輸送するのだが、それだけでなく海外の中古車両の部品供給や、国内で脱線事故が起こった際の復旧工事などでも活躍している。
もともとアチハは、巨大トレーラーを有する重量物輸送の下請け会社だった。それが、この10年で国際物流会社の機能を持つようになり、さらに大手商社、プラント施工会社、船会社、鉄道会社などから人材を迎え入れて、商社機能から国際物流機能までも拡充。
プロジェクトの上流から下流まで、すべて自社完結する会社に進化したのだ。
商社機能を持つことで、国内のみならず、車両を求める東南アジアなどへも日本の高い技術で作られた中古車両を輸送・販売できるようになった。陸路も海路も自前で手配するため、他にはできない低コストでの運搬と1車両でも売買できるという強みにつながっている。
台北港での荷下ろしの様子
アチハの重量物の輸送技術は、風力発電を営む電力会社からも重宝されている。
風車は全高85メートルあり、羽根だけでも40メートルを超える。これらを山間部に輸送するには、民家の間を抜けたり、山道を上ったり、狭小交差点を曲がったりと、高度な技術が必要となるからだ。
この輸送技術を持つ会社は数少ないが、1923年から重量物輸送で実績を積んできたアチハからすれば、そのノウハウと技術を風力発電でも生かせると判断。風力発電の輸送にも参入した。
風車の羽根を輸送している様子
風力発電でも電車事業と同様に、アチハは単なる輸送業にとどまらなかった。もちろん、最初は輸送機能だけを提供していたが、やがて風車建設に必要な電気工事や土木工事などを取りまとめる建設元請け機能も持つようになる。
さらに、佐賀県唐津市に自社風力発電機を所有し、風力発電事業者として「自社で開発から運営までを行う」ように進化。
これまでに輸送した風力発電は150基を超えており、自社保有の風車も稼働し始めている。

リスクはあっても、未来に貢献するために

CO2を出さないクリーンエネルギーの風力発電の推進は国策でもあるが、広大な土地が少なく、山の上などに建てることの多い日本において、その建設工事は簡単ではない。
他国のような広大な土地に建てるのとは違い、国内で山頂などに建てる場合は周辺環境(生態系)に影響がないか、風車の胴体や羽根を運ぶために必要な道路の建設は可能か、さらには邪魔になる電柱がある場合はその移設や、民家の立ち退き交渉など、建設を始めるまでに5年以上かかることもあるという。
何年もかけて行う環境調査
実際、数億円をかけて環境調査を始めたところ、希少なモグラが発見されて工事がストップした例も。また、環境調査を無事に終えて稼働を始めたとしても、雷などの自然災害や機械トラブルによる故障で発電が止まり、膨大な赤字を抱えて撤退するケースも多い。
リスクの多い風力発電だが、なぜアチハでは輸送機能だけでなく、電力会社機能までを一貫して持つ本格参入を決めたのか。代表取締役の阿知波孝明氏はこう語る。
「40歳を超えたとき、残りの人生で何か世の中のためになることをしたいと思うようになりました。アチハが持つ特殊な建設や輸送技術を生かせるものは何かと考えた結果、たどり着いたのが風力発電でした。
CO2を出さない風力発電は地球の環境問題に寄与しますし、微力でも30年後、50年後の子どもたちのためになる。化石燃料を輸入するのではなく『風』という資源を使って発電するため、国益にもつながるはずです。
我々の特殊な輸送技術に磨きをかけ、メンテナンスまで担うことができれば、風力発電を普及させられるかもしれません。さらに、風力発電機を所有して発電を行えば、事業者側の課題もわかるようになり、それを生かした物流提案ができると考えたのです」(阿知波氏)
実際、事業者側に立つことで、メンテナンスで稼働させない時間が増えることの損失や、風車を建設するにあたっての周辺住民への配慮など、輸送や工事を担っているだけでは気づけない点にも気づくように。
現在は、北海道から九州まで、各地に点在する風力発電のメンテナンスを担うアチハ。今後、国内で500基以上の風車建設が予定されており、現在は2023年に完成予定の案件に着手中。依頼すべてを受けきれないほどだという。

どん底からはい上がるための進化

これほど多角的に事業領域を広げている同社は、いかにして輸送業の下請けから脱却できたのだろうか。
「輸送業以外も手がけるようになったきっかけは、10年前に某テーマパークのジェットコースターなど大型アトラクションの組み立て工事から試運転、メンテナンスまですべてを担ったことでした。
実は、私が13年前に会社を父親から継いだとき、大赤字で倒産寸前だったんですね。毎日債権者が取り立てに来るようなひどい状況で。それをどうにか再生する中で得た案件が、某テーマパーク。
このときに、輸送会社から建設工事までを手がける会社にステップアップしたことで、会社は再生への歩みを加速することになりました。
もちろん、大規模建設工事の経験はありませんでしたが、幸いにも車両、重機、人はそろっていた。下請けの一社としてではなく、すべての工事を一貫して元請けできる体制を築いたことで受注につながり、会社の進化につながりました」(阿知波氏)
テーマパークでの仕事をきっかけに“できる範囲”を増やした阿知波氏は、どん底だった会社を10年で再生させた。現在は、電車事業や風力発電事業に加え、“巨大なものを運ぶ”強みを生かして航空機関係や橋梁(きょうりょう)工事などからも引き合いが絶えないという。

数年後の上場に向け、幹部候補を求む

そんな同社がこれから目指すのは、数年後の上場。未来に貢献するための資金調達をしたいという。
「風車の羽根や胴体は、これからさらに大きくなることが分かっています。そうなると、より大きなトレーラーやクレーンが必要になり、他の企業はますます参入できなくなるでしょう。メンテナンスも難しくなり、既存事業者も撤退する可能性が高い。
しかも、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)の価格引き下げが決まっており、数年後には現在の半値以下になるとも言われています。
だから、アチハも本気でコスト削減に取り組み、クリーンエネルギーを推進したい。そのためにも、上場してより大きな資金調達をし、風力発電を日本で推進する原動力になりたいと考えています」(阿知波氏)
しかし、数年後の上場や以降の事業拡大を目指すには、経営幹部候補や現場マネジメントなど、さまざまな人材が足りていないという。
「これまでの10年は、とにかく会社を再生させるために必死で走ってきました。その結果、ニッチトップな2つの事業を確立させることができた。これからの10年、20年は、その技術力を使って社会や未来に貢献していきたい。そのためには、幹部候補をはじめとした人材が足りていません。
たとえば、商社で海外赴任経験のある人なら、海外展開している電車事業をより拡大できるでしょうし、ゼネコン経験のある人なら風力発電でスキルや知見を生かせるでしょう。また、組織マネジメント経験者なら、私の右腕として経営を支えてもらうかもしれません。
社会的意義を感じられる仕事をしたい・世の中に貢献していることを実感しながら働きたい、そう思う方はアチハで新しい挑戦をしてみませんか」(阿知波氏)
約100年前に大阪で生まれ、国内外での人々の生活や非日常な体験を支えてきたアチハ。
社会や未来に貢献したい、海外で前線に立って活躍したい人には、大きなチャンスと言えるかもしれない。
(取材・文:田村朋美、写真:北山宏一、デザイン:砂田優花)