【Origami】オープン化戦略で“未来の銀行”を目指す

2019/1/7
スマホ決済分野で先行して事業を推し進めてきたOrigamiが、新たな一手を打ち出した。

「提携Pay」では、同社の決済機能を外部パートナーに提供。Origamiが持つ金融プラットフォームをオープン化することによって、キャッシュレス社会の早期実現を目指す。

また、トヨタファイナンスや信金中央金庫、ジェーシービー等と資本提携。さらに、銀聯国際(ユニオンペイ)との資本業務提携により、グローバル市場への本格参入も予定する。

「オープン」「グローバル」「ローカル」をカギに深くアクセルを踏み込んだOrigamiが見据える金融の未来は? 康井義貴社長を直撃した。

オープンな金融プラットフォームを作る

──Origamiは、スマホ決済の先駆者として日本のキャッシュレス市場を牽引してきました。2018年9月からスタートした「提携Pay」について教えてください。
康井 2012年にOrigamiを創業し、13年にオンラインでお金を動かすマーケットプレイスをつくりました。
 そこから徐々に数字を伸ばし、15年には実店舗で展開するためのスマホ決済サービス「Origami Pay」をスタート。全国のコンビニやスーパー、百貨店、タクシーなど加盟店も増え、金融プラットフォームにつながる基盤ができてきました。
 これまでは多くのユーザーにOrigamiのアプリでスマホ決済をご利用いただいていましたが、今回、他社のサービスでも我々の決済システムを利用できるようにその仕組みを開放しました。それが「提携Pay」です。
 国内のキャッシュレス化が促進されている今、ユーザーからは便利・お得・安心に使えるスマホ決済サービスへのニーズが高まっています。
 また、事業者の皆様からは、各社がそれぞれ新たに決済サービスを開発・実現するのではなく、共通して活用できるプラットフォームを求める声が上がっています。
 そのような中で、Origamiがこれまで構築してきた加盟店ネットワークや多様な支払い手段を広く開放し、パートナー企業と協業していきましょう、というのが今回のオープン化の狙いです。
 今後、トヨタファイナンス、テレビ東京、RIZAPグループ等、数多くのパートナーとご一緒させていただきます。

キャッシュレス市場は“ブルーオーシャン”

──“◯◯経済圏”として、ポイントシステムなどで顧客の囲い込み戦略をとる企業もあります。あえてオープン化に踏み切った理由は?
 今、日本のEC市場は14兆円ですが、小売市場は140兆円、個人消費は300兆円ほどの市場があるといわれています。
 「キャッシュレス戦国時代、市場はレッドオーシャンですね」と言われることがたまにあるのですが、実はまったくそんな状況ではないのではないか。
 銀行を例に挙げるとわかりやすいですが、日本には銀行が100行以上あっても、それぞれがこの大きなマーケットでしのぎを削っています。それと同じことが、スマホ決済市場にも言えると思うのです。
 Origamiのプラットフォームをオープン化することによって、この小売市場の中で、パートナー企業とともにキャッシュレス化を促進していきたいと考えています。

「波」がないところでサーフィンはできない

──日本の中では、かなり先駆けてスマホ決済に取り組んでこられました。この先、キャッシュレス社会を実現するための方法や課題についてはどのようにお考えですか?
 まず、現金が減らなければ広がりません。その一点に尽きます。140兆円の小売市場のうち、今は大半が現金です。
 やはり市場ができなければ難しいと思います。クレジットカードは広く普及しましたが、かつて、100%現金だった時代に1社だけが「クレジットカードがある」と推進したところで、普及させることは難しかったでしょう。
 どれだけ高級なサーフボードを持っていても、波がないところでサーフィンができないのと同じです。
(PeopleImages/iStock)
 市場を作るという意味では、国のキャッシュレス政策が追い風です。2年早かったら早すぎたでしょうし、逆に2年後だったら、もう遅すぎたでしょう。
 我々は、2015年という早い段階でスマホ決済のパイオニアとしてサービスを開始したことで、マーケットが拡大するきっかけを作ってきたという自負があります。

信金や地銀、銀聯国際とも提携

──今後、その波をどんどん増やしていかれるわけですね。
 はい。例えば、信金中央金庫さんとの提携もそのひとつです。
 全国に261の信用金庫が存在し、それぞれに支店があります。その支店の皆様が、地元の小売店に対して加盟の営業をしてくださっているのですが、実はこの取り組みはとても大きな意味を持ちます。
 我々が地方商店街のお店に「はじめまして。東京のIT企業です」と訪ねて行くのと、日頃からお付き合いの深い信金や地銀の担当者から話していただくのとでは、話の刺さり方が違いますから。
──銀聯国際(ユニオンペイ インターナショナル)との提携も大きなニュースになりました。
 銀聯国際さんとの提携により、今後は海外でもOrigami Payで支払いができるようになります。
 インバウンドも狙いますが、特にアウトバウンドで、日本人が海外に行った際に支払いに困らないようにサービスを広げていきたいと考えています。銀聯QR決済のネットワークを利用し、24カ国、750万店を超える店舗でOrigami Pay決済ができる状態を目指しています。
(Nikada/iStock)

お金、決済、商いの未来を創造する

──創業以来、独自の戦略を打ち出し続けていますが、康井社長が戦略立案や意思決定の際に大事にしている基準はありますか?
 我々には「お金、決済、商いの未来を創造する」というミッションがあります。Origamiのメンバーは、この大きな目標を皆で達成するために集まっています。
 この数十年の中で、今ほど金融が大きく揺れ動いている時代はありません。
 例えば、情報通信の世界はこの数十年で大きく変化しました。少し前までは国際電話に高い通信費がかかっていましたが、Skypeやメッセンジャーの登場によって通信を無料で使えるのが当たり前になりました。それに伴ってデータが生まれ、そこにバリューが発生しました。
 一方、金融の世界に目を向けると、いまだに手数料によるビジネスが必要で、その革新はまだ道半ばです。
 Origamiの原点は、このインターネット時代に即して、金融の世界も変えていくべきだという思いです。仕組み作りに10年かかると思って始めましたが、それでもゼロから作る方がしがらみがない分、早いと感じます。
 当たり前のことを当たり前に行い、未来の決済を作ることに愚直に取り組んでいます。

ミッションに対して、どれだけ熱くなれるか

 ライト兄弟が飛行機を数秒浮かせ、飛行に成功したのが1900年代初頭です。それからたった約70年で、人が月に行きました。数秒浮いて大喜びしていたのに、わずか70年で月まで行ったのです。この間に何があったかというと、NASAの存在が大きかったと思っています。
 NASAスペースセンターにジョン・F・ケネディ大統領が訪れ、掃除をしている人に「あなたの仕事は何ですか」と尋ねた時、その人は「僕は人を月に送っています」と答えたといいます。
我々が目指しているのは、そんなチームです。
(forplayday/iStock)
 デザイナー、営業、エンジニア、人事など、社員一人ひとりの役割は違います。それでも、全員が「我々はこれをやっている」と会社のミッションに沿った考えで、行動したり、発言したりできるかどうかは本当に重要です。
 Origamiは現在、決済事業を行っていますが、目指しているのはお金が動くことに関する総合・金融サービスです。
 このミッションに対してどれだけ熱くなれるかが、最優先事項です。

「Bigger, Faster」「Be Positive」「Be Proactive」

 私たちには大切にしている3つのバリューがあります。ひとつは「Bigger, Faster」。金融サービスは大きいことが正義です。とにかく規模、そしてスピードを追求していきます。
 次が「Be Positive」。私たちは高尾山でも富士山でもなく、一番大変なエベレストを登ろうとしている会社なので、目標の達成が簡単なわけがない。目の前に大きな壁が現れたときに、「こんなはずじゃなかった」と思うのか、「どう解決するか」と考えられるのか。
 創業から6年経ち、僕自身も「大変だったでしょう?」とよく言われますが、その覚悟で始めたので、チャレンジがあるのは当たり前のこと。実は、あまり「大変だった」とは感じていません。
 そして最後が「Be Proactive」。自分の担当領域以外でも、これをやったらもう少しよくなる、というプラスワンができるかどうか。

Origamiが生み出したい「形」とは

──社名の「Origami」には、1枚の紙から無限の可能性へ折り上げていくという思いが込められています。康井さんが今後、生み出したいOrigamiはどんな形でしょうか?
  我々は、未来の金融サービスをつくりたいと思っています。
 決済を軸に、個人間の送金や資産運用、与信といった金融サービスをインターネットに乗せることで、より良いサービスが生み出せると考え、創業しました。
 創業から6年で拡大したOrigami Payを主軸に、決済以外のサービスの準備も始めています。
 今後、総合的な金融サービスを提供する会社になるまでに10年はかからないだろうと思っています。
 金融の世界では、「ラストマン・スタンディング」という言葉がよく使われます。“最初から最後まで立っている者が勝つ”という意味です。
 僕はそれを信じ、すばらしい仲間たちと共に愚直に新しい世界をつくっていきます。
(構成:尾越まり恵 編集:樫本倫子 写真:岡村大輔 デザイン:九喜洋介)