PayPalやStripeなどの決済サービスが、Bitcoinを恐れていない理由

以下の記事は、知識を共有して他者から学ぶQ&Aプラットフォーム「Quora」に投稿された質問への回答が元になっている。「Bitcoinは、StripeやPayPalのビジネスモデルにとって、存続を脅かされる脅威だろうか」という質問への回答だ。

決済、投資、スタートアップ、起業家精神などの分野を専門とするピーター・バーグがQuoraに投稿した回答を見てみよう。

Bitcoinの決済処理サービス

Bitcoinは、StripeやPayPalのビジネスモデルにとって、存続を脅かす脅威だろうか。　そうでないのはほぼ確実だ。

もしかすると遠い将来、ほぼすべての場所でBitcoinが使えるようになり、人々が法定通貨（政府が発行する通貨）ではなくBitcoinでの決済を日常的に利用するようになれば、Bitcoinが既存の決済サービスプロバイダーに破壊的影響を及ぼす存在になる可能性も、ないことはない。

しかしそうなったとしても、Bitcoinでの支払いを受けとった事業者側が、StripeやPayPalなどが現在提供しているような処理サービスの助けを借りないで決済を処理するには、テクノロジーの詳しい知識が必要となる。

各事業者が支払いを受けるには、自身のBitcoinウォレットを作成して、それを管理する必要があるかもしれない。事業者はBitcoinを受け取ったら、今度はそれを使って在庫費用や人件費をBitcoinで支払えるようにしなければならない。

さらに、法定通貨（USドルなど）への換金を自分で行う必要がある。Bitcoinが受け付けられない場合には、支払いができるようにもしておかなければならない。

それよりも、StripeやPayPalなどがBitcoinの決済処理サービスを提供し続ける可能性のほうが、はるかに高いだろう。他の法定通貨ベースの決済方法（クレジットカードなど）でやっているのと同じようなサービスを、Bitcoinに関しても提供するわけだ。

通貨交換レートの変動リスク

Bitcoinの人気が高まり、誰もが法定通貨の代わりに使うようになるまでは、誰かが事業主に力を貸して、普段使われている通貨（USドル、ユーロなど）で取引を決済できるようにしなければならない（Bitcoinの人気が高まらない場合でも、こうしたサービスは必要だ）。

現在、Bitcoinでの支払いを受け付けている事業者のほとんどは、宣伝のためか、あるいは非常に特殊な顧客層にサービスを提供するためにBitcoinを使っている。Bitcoinを使わずに完了する取引のほうが圧倒的に多い。

Bitcoinを扱う数少ない取引では、ほとんどの事業者がStripeなどのサービスを使っている。スポットレートでBitcoinから法定通貨への換金を行い、通貨交換レートの変動性に制限をかけられるようにしているのだ。

たとえば、取引時点では1BTCが2500ドルだったが、事業者が請求書の支払いをするときには2000ドルになっていたとすれば、事業者にとっては20％の損失だ。

こうした通貨交換レートの変動リスクを防ぐため、StripeやCoinbaseは取引が発生した時点で法定通貨への換算を行い、事業者が後でドル決済をする際にも「1BTC2500ドル」でレートが固定されるようにしているのだ。

消費者保護や紛争解決手続き

さらにもうひとつ考えなければならないのが、返品や払い戻し、紛争の処理だ。VisaやMasterCardといった決済方法を使うことの価値は、事業者と消費者のためにルールや要件が明確に定められているところにある。

もしVisaカードを使ってiPadを購入したとして、iPadではなくレンガを送られてきた場合、消費者がその詐欺から生じる損失を負うことはない。しかし、もし詐欺を働くその店に対してBitcoinを送っていたら、運の尽きだ。Bitcoinの取引は撤回できない（少なくとも今のところは）。

クレジットカードなど従来型の支払い方法で保証されている、消費者保護や紛争解決手続きは、Bitcoin決済には今のところ存在していない。StripeやPayPal（そしてVisaやそのカードの発行銀行）は、事業者と消費者の両方を守るうえで重要な役割を果たしている。

Bitcoinベースの取引に対する保護措置が整備されたとしても、誰か（たとえばStripeやPayPal）が事業者のためにそうした措置の管理をしなければならない。そうでなければ、事業者と消費者は責任をすべて自分たちで負わなければならなくなる。

つまり、通貨交換や購入保護、従来型のゲートウェイサービスや決済処理の集約化といったサービスは当面の間、事業者にとって価値あるものであり続けるということだ。StripeやPayPalがすぐにBitcoinからの脅威にさらされることはないだろう。

オリジナルの質問は、知識を共有して他者から学び、世界についての理解を深めるためのQ&AプラットフォームQuoraに投稿されたものです。

原文はこちら（英語）。

（執筆：Quora、翻訳：半井明里/ガリレオ、写真：baloon111/iStock）

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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.

コメント

選択しているユーザー

• さくだ しん

  ビットコインのこれからの課題だね

注目のコメント

• 杉井 靖典

  カレンシーポート株式会社 創業者・CEO

  ・2018年12月14日

  PayPalやStripeがビットコインを恐れないのは当然である事ように思います。
  
  彼らの目的は、ビットコインの当初の目的とはかけ離れているし、逆にビットコインを便利だと感じる人も、PayPalやStripeが憎いとも、戦っているとも、そもそも考えてもいないはずです。
  
  なぜなら、ビットコインが戦っているのは、銀行や国家だから。
  まさに、彼らの立場からみれば、ビットコインは目の上のたん瘤みたいなものです。
  
  「なんぴとたりとも停止することのできない送金」という目的には、良きにしろ悪しきにしろ、世界的にそれなりの需要があることを事実として捉える必要があります。
  
  誰がその送金を止めたいと思っても、決して止められないという点では、他のどの送金方法にも適わない機能であって、それが10年間無停止で動いているという事実がビットコインの正体です。
  
  いわゆる「非中央集権」という特性ですが、しかし、それはすべての仮想通貨がそうであるわけではありません。それは、ビットコインが選択した生存戦略であって、ブロックチェーンの固有の特性でもない点も押さえておく必要があります。
  
  要するに、PayPalやStripeが本当に脅威に感じるかもしれないのは、ビットコインではなくて、その他の中央集権的特性をもっている「保護」とか「裁定」に対応したブロックチェーンテクノロジー配下で発行可能なトークン流通システムでしょう。
  
  例えば、今は、経済規模的に脅かすには至っていませんが、彼らにとっての本当の脅威となるのは、Corda、Ripple、NEM、あたりがそれです。
  
  この議論をする時には「ざっくり一括りの理解では真実が見えてきません」本当に比べるべきは要点は何で、それに該当するのが何と何なのかをきちんと理解しないといけません。
• 佐藤 元則

  NCB Lab. 代表

  ・2018年12月14日

  そもそも仮想通貨と、PayPalやStripeのビジネスモデルは違う。前者は決済手段（？あえて決済手段と位置付ける）、後者は決済代行。後者はいろいろな決済手段を扱っている。クレジットカードやデビットカード、ローカルな電子マネー、銀行口座など。
  
  決済代行として仮想通貨を扱おうと思えば、メニューに加えられます。よって恐れるに足りず。
  
  では、仮想通貨によって決済代行がなくなるかというと、決済普及の２ Sided Modelの話になります。利用者と使える場（マーチャント）の両方が増える必要がある。
  
  ボラティリティが高く、リアルタイム性が低い（処理時間が数秒かかる）仮想通貨は、利用者もマーチャントも使わない。それが改良されたとしても、法定通貨として認める国も人もいない状態では、世界共通の決済手段にはなり得ません。だから恐れるに足りず。ということではないでしょうか。
• 下山 明彦

  東京藝術大学大学院修士2年/Senjin Holdings 代表取締役

  ・2018年12月14日

  この文章の主張はかなり筋が通っていて、実際決済としての利用が減少していることは注目すべき事実です。
  
  また、金融政策とビットコインは供給量が制限されている点やアンコントローラブルな点に置いて全く相性が合わないということも真です。
  
  ただ一方で、その論はユーザーが法定通貨を決済に利用し続けることが非自明であることを否定しているわけでは全くないということも理解すべきであり、
  （ビットコインに限らない）仮想通貨の中で、ある程度の影響力を持ったコミュニティが発行するものが、その圏内で利用される状況が否定されているわけでもありません。
  
  そもそも世界通貨になるか、決済サービスとして主流になるかどうか、ということが重要な論点なのではなく、
  価値を転換できる先が法定通貨に限らなくなったこと、その通貨（トークン）の発行主体が国家に限らなくなったこと、キャッシュレスやシェアリングエコノミーの世界観が受け入れられつつある中で、
  どのような経済圏が構築されうるのか、といった予想に立脚した主張がされるべきですね。