[東京 10日 ロイター] - 官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)の田中正明社長は10日開いた記者会見で、民間出身の取締役9人が辞任すると正式発表した。革新投資機構に残るのは、官僚出身の取締役2人だけとなり、事実上、経営陣の総退陣となる。官の資金を活用して新産業創出を目指した「官によるファンドビジネス」は抜本的な見直しが必要な事態に追い込まれた。

辞任を表明したのは、民間から就任した田中社長を含めた代表権を持つ4人の取締役と、社外取締役で取締役会議長を務める坂根正弘氏(コマツ<6301.T>相談役)ら社外取締役5人の合計9人。残務整理を終えたあと、退く。

革新投資機構は今年9月下旬、旧来の産業革新機構(INCJ)を見直して、新たに発足。経産省から一定の距離を保つガバナンス体制を柱に、業務を開始していた。

田中社長は会見で「投資事業を活用することで産業競争力を強化し、新産業を創出するという経産省が掲げた理念に共感したが、その目的を達成することは困難になった」と辞任の理由を述べた。

田中社長の説明によると、同社の役員報酬について、もともと経産省が示した報酬案を踏まえて取締役会決議などの機関決定をしたにもかかわらず、「経産省が一方的に白紙撤回したことによる信頼関係の毀損行為が、9人全員の辞任の根本原因」と語った。

すでに、経産省が提示した報酬体系に則って人材の採用活動にも入っており、10月には米国でバイオベンチャー向け投資を行うファンドも立ち上げていた。田中社長は、同ファンドは清算する方針を示した。

経産省は9月、JICに役員報酬案を提案。発表によると、社長の場合、基本給が1550万円、短期報酬が4000万円、長期の投資収益に応じて支払われる報酬が最大7000万円となっていた。これに対して、財務省など政府部内で「高過ぎる」との異論が出たために撤回した。

田中社長はまた、ファンドの運営方針についても当初の方針から乖離し始めたとし、「民のベストプラクティスを活用する官民ファンドではなく、国の意向を反映する官ファンドへと重大な変化を遂げつつある」と、ファンドの運営方針を厳しく批判した。

JICの田中社長ら民間出身の取締役9人の辞任を受け、世耕弘成経済産業相は午後に会見し、JICの新体制の条件などを整備するため、省内にJIC連絡室を設置し、糟谷敏秀官房長が室長になる人事を公表した。また、今後のJICの業務内容については、同省内に第三者諮問委員会を設置し、その意見を踏まえて決定していく方針も示した。

*内容を追加しました。